バイオ由来脂肪酸エステルの合成と高機能潤滑剤市場での応用

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バイオ由来脂肪酸エステルとは何か

バイオ由来脂肪酸エステルは、植物油や微生物油など再生可能資源に由来する脂肪酸とアルコールをエステル化して得られる化合物です。
鉱物油由来のエステルと同等以上の潤滑特性を示し、かつカーボンニュートラルへ貢献できることから、グリーンケミカルとして注目されています。
生分解性が高く、毒性が低い点も優位性です。
環境規制が厳格化する中、自動車、産業機械、航空機まで幅広い分野で需要が急拡大しています。

バイオ由来脂肪酸エステルの合成プロセス

原料選定と前処理

主原料となるのは大豆油、菜種油、ヤシ油、アルガルオイルなどです。
脂肪酸組成は飽和度、炭素数、分岐構造により潤滑特性へ直接影響するため、ターゲットアプリケーションに合わせたブレンド設計が行われます。
原料油は脱ガム、脱酸、脱色といった精製工程で不純物を除去し、過酸化物価を低下させてから反応に供します。

化学触媒法によるエステル化

もっとも一般的なのは硫酸やp-トルエンスルホン酸を触媒とする直接エステル化です。
脂肪酸と多価アルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンなど)を130〜240 ℃で反応させ、水を連続的に除去することで平衡を右に移動させます。
高温条件下でも副反応が少なく、スルホン酸触媒は回収再利用も可能なためコスト面で有利です。

酵素触媒法によるエステル化

近年はリパーゼを固定化したバイオ触媒法が急速に普及しています。
低温(40〜70 ℃)で進行するため熱劣化が避けられ、生分解性に寄与する官能基を保持できます。
有機溶媒を用いない溶媒フリー系や、超臨界二酸化炭素中での反応も報告されており、グリーンプロセス開発の鍵となります。
酵素は反応後にフィルトレーションで容易に回収でき、繰り返し使用しても触媒活性が安定している点が利点です。

後処理と品質評価

未反応アルコールや触媒残渣は減圧蒸留で除去します。
酸価、けん化価、水分値、色相を規格内に調整した後、粘度指数、流動点、酸化安定性など潤滑油規格に基づく試験を行います。
特に航空用や電動車ドライブユニット用など高要求仕様では、DINやASTM法による金属摩耗試験、熱安定性試験が必須です。

高機能潤滑剤としての性能メリット

高粘度指数と優れた低温流動性

バイオ由来脂肪酸エステルは分子内に枝分かれ構造や長鎖炭化水素を持つため、温度変化に対する粘度変動が小さく、粘度指数(VI)が140〜200と極めて高い値を示します。
冬季起動時のポンプ性も良好で、-40 ℃以下でも流動点を維持できる品種が開発されています。

優れた潤滑・摩耗防止特性

極性エステル基が金属表面に吸着し油膜を形成するため、境界潤滑領域で摩耗係数を大幅に低減します。
四球試験では一般鉱物油に比べ摩耗痕径が30〜50%小さくなるデータがあります。
加えて生分解性>60%(OECD 301B)の規格を満たすことが多く、環境配慮型潤滑剤に最適です。

酸化安定性と熱安定性の向上

飽和脂肪酸を高比率で組込み、分岐アルコールを用いて合成することで、二重結合部位が少なくなり酸化安定性が改善します。
高温酸化試験(ROBOT)で酸価上昇を抑制でき、長寿命オイルとしてギアやコンプレッサー用途で採用が進んでいます。

市場動向と応用事例

自動車産業における採用拡大

電動化が進む自動車では、e-アクスルやバッテリー冷却を兼ねた潤滑剤に高絶縁性と熱伝導性が求められます。
バイオ由来脂肪酸エステルは誘電率が低く、銅との相溶性も高いため、モーターコイル周辺での腐食リスクを低減します。
世界大手OEMは2030年までに潤滑油の30%以上をバイオベースに切替える目標を掲げています。

産業機械・油圧システム

建設機械や林業機械が自然環境下で使用されるケースでは、漏洩時の環境負荷が問題となります。
ISO 15380に適合する生分解性油圧作動油として、C18飽和脂肪酸とTMPをエステル化した製品が採用されています。
耐摩耗性とゴムシール適合性を両立できる点が高評価です。

航空・宇宙分野

高温・高荷重条件に晒されるターボジェットエンジンでは、合成エステル系潤滑油が標準となっています。
従来は石油由来ネオポリオールエステルが主流でしたが、バイオ由来の中鎖オレフィンエステルに置き換える事例が出てきました。
持続可能な航空燃料(SAF)と同様、ライフサイクル全体でのCO₂排出削減が求められる流れを受けています。

規制・認証とサステナビリティ

欧州ではEUエコラベル、USではEPAのVGP規制により、生分解性と低毒性の潤滑油使用が義務化される領域が拡大しています。
RSB(持続可能バイオ材料円卓会議)やISCC PLUS認証を取得した原料を用いることで、トレーサビリティとGHG排出削減効果を担保できます。
企業はLCA評価を通じて、Scope3排出削減目標にバイオ由来脂肪酸エステルを活用する動きが活発です。

コスト・課題と技術的ブレークスルー

バイオ原料は天候や収穫量に左右されるため、原料価格の変動が大きい点が課題です。
しかし、廃食用油(Used Cooking Oil)や微細藻類油の活用、バイオリファイナリーとの連携により安定供給体制が整いつつあります。
さらに、メタノール回収や酵素リサイクルなどプロセス最適化により、総製造コストは過去5年で25%低減しました。

将来展望

IEAの予測では、バイオベース潤滑剤市場は年平均成長率(CAGR)8%で拡大し、2030年には世界需要の15%を占めると見込まれます。
高度化する電動モビリティや風力発電ギアボックス向けに、さらなる高温耐久性と絶縁性能を両立した次世代エステルが求められています。
化学・バイオの複合技術を活用し、遺伝子改変微生物による特定鎖長脂肪酸の発酵生産や、固体酸触媒による連続フローエステル化など、新しい合成ルートが実用化フェーズに入っています。
脱炭素と高機能化を同時に達成するソリューションとして、バイオ由来脂肪酸エステルは今後も潤滑剤市場を牽引していくでしょう。

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