自己消火機能を持つ木材の開発と難燃化技術

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木材の燃えやすさと防火ニーズの高まり

木材は軽量で加工性に優れ、温かみのある質感を持つため、住宅から商業施設、家具に至るまで幅広く利用されています。
しかし、セルロース、ヘミセルロース、リグニンといった有機高分子を主成分とするため、発火すると急速に燃焼が進み、有毒ガスや大量の熱を放出します。
都市部の密集建築や高層木造ビルの増加に伴い、火災安全基準は年々厳格化しており、木材の難燃化は必須課題となりました。
さらにSDGsやカーボンニュートラルの観点からは、樹脂や金属の代替として木材利用を拡大する動きが加速しており、防火性能の向上は市場拡大のカギを握っています。

従来の難燃化技術の概要

難燃化とは、材料が着火しにくく、燃焼拡大を抑制し、自己消火性を付与することです。
木材の場合、物理的・化学的手法を組み合わせることが一般的で、主流は以下の三つに大別されます。

表面塗布型難燃剤

塗料やワニスに難燃性成分を配合し、木材表面に薄膜を形成します。
施工が容易で既存構造物にも適用しやすい一方、経年劣化や摩耗による性能低下が課題です。

含浸処理

難燃剤を水溶液や溶媒に溶かし、減圧加圧や真空含浸で細胞壁内部まで浸透させます。
木材内部に難燃成分が固定されるため耐久性に優れますが、処理コストと薬剤の環境負荷が問題視されています。

構造改質と複合化

合板や集成材の接着層に難燃樹脂を組み込む、金属箔や石膏ボードを積層するなど、物理バリアで燃焼を遅延させます。
しかし重量増加や加工性低下が避けられず、木材本来の質感を保つのが難しいという欠点があります。

自己消火機能を持つ木材の原理

自己消火性とは、着火後に外部熱源を除去すると自ら炎を消し止める能力を指します。
近年、この機能を木材そのものに付与する研究が進展しています。

膨張型炭化層の形成

難燃剤が加熱分解して膨張性炭素層(インタメッセント層)を生成し、酸素と熱の供給を遮断します。
従来は塗膜に用いられていましたが、薬剤を繊維内部へ共有結合させることで、木材自体が膨張層を形成する設計が提案されています。

ハロゲンフリーリン酸系の役割

リン酸系化合物は分解時に脱水反応を促進し、木材を早期に炭化させることで可燃性ガスの発生を抑えます。
塩素や臭素を含まないためダイオキシン類のリスクがなく、欧州を中心に採用が拡大しています。

動的センサー機能との融合

マイクロカプセル内に難燃剤と熱膨張性樹脂を封入し、一定温度に達するとカプセルが破裂して難燃成分を放出するスマート素材が登場しています。
平常時は木材の外観や機械特性を保持し、火災時のみ瞬時に自己消火機構が作動します。

最新研究事例

自己消火機能を高効率で実現するため、ナノテクノロジーやバイオマテリアルを活用した革新的手法が報告されています。

セルロースナノファイバーによる多層バリア

セルロースナノファイバー(CNF)は比強度が高く、熱膨張率が低い特徴を持ちます。
CNFとポリリン酸アンモニウムを交互に層状に積層したラメラ構造を木材表面に形成することで、0.1 mm以下の薄膜でも炭化層の緻密化が可能となりました。
試験ではUL-94のV-0認定を取得し、自己消火時間は従来比70%短縮が報告されています。

金属イオン架橋を利用した不燃化

カルボキシル化セルロースをマグネシウムやアルミニウムイオンで架橋すると、熱分解時に耐火性の高い酸化物層が形成されます。
金属酸化物は熱伝導率が低く、同時に木材内部の水分を保持することで蒸気冷却効果も発揮します。

生体模倣型マイクロカプセルの組み込み

海洋生物の自衛システムを模倣し、熱ショックで開裂するカプセルを木材細胞腔内に固定化する研究が進んでいます。
カプセルにはリン酸塩と膨張性グラファイトを封入し、火炎が当たった部位だけが選択的に発泡・炭化することで延焼を防ぎます。

評価試験と標準化動向

自己消火木材の性能評価には、JIS A 1321(小型燃焼試験)やISO 5660(コーンカロリメータ試験)が用いられます。
着火時間、発熱速度、総発熱量、煙密度などを総合的に解析し、建築基準法の材料区分(不燃・準不燃・難燃)の適合性を確認します。
国際規格では、欧州のEN 13501-1に自己消火性を考慮したクラスB s1 d0以上を目標とするケースが多く、日欧米での数値比較が活発化しています。

実用化に向けた課題と展望

第一の課題はコストです。
多段階の含浸やナノ材料の導入は製造コストを押し上げるため、量産スケールでの工程簡素化が不可欠です。
第二に耐候性があります。
屋外暴露下で紫外線や雨水にさらされても、難燃成分が流出せず性能を維持する封じ込め技術が求められます。
第三にリサイクルと健康安全性です。
解体時や廃棄時に有害物質を発生させない設計はもちろん、室内空気質(VOC放散)への影響評価も重視されています。

今後は、AIシミュレーションを用いた分子設計により、木材成分との化学結合効率を高める難燃剤の開発が期待されます。
また、建築BIMと連携し、構造部材ごとの発火リスクをデジタルツイン上で可視化することで、自己消火木材の適材適所配置が可能となるでしょう。

まとめ

自己消火機能を持つ木材は、火災安全と環境配慮を両立する次世代建築材料として注目されています。
膨張型炭化層、リン酸系脱水反応、ナノファイバー多層バリア、金属イオン架橋、スマートマイクロカプセルなど、多様な技術が融合しつつあります。
評価試験と国際標準化をクリアし、コスト・耐久・リサイクル性の課題を解決できれば、高層木造から内装・輸送用資材まで応用範囲は飛躍的に拡大します。
燃えにくいだけでなく、燃え始めても自ら火を消す木材の実用化は、木質社会への転換を大きく加速させると期待されます。

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