高強度ティッシュペーパーの製造技術と市場ニーズの変化

高強度ティッシュペーパーとは何か

高強度ティッシュペーパーは、通常の家庭用ティッシュに比べて引張強度や濡れた状態での耐破裂性が大きく向上した製品です。
手や鼻を拭く際に破れにくく、水分を含んでも原形を保ちやすい特徴を持ちます。
紙おむつやキッチンタオルに使われる不織布ほどの厚みはありませんが、薄さとやわらかさを維持しながら高い強度を両立している点が差別化ポイントです。
家庭用のみならず、外食チェーンや医療施設など業務用の需要が拡大しており、市場規模は年率数％で成長しています。

製造技術の進化

原料パルプの改良

高強度を実現する第一歩は、原料パルプの選定と前処理です。
長繊維の針葉樹パルプを主体に、広葉樹パルプや古紙パルプをブレンドし、叩解条件を細かく管理します。
近年はバイオエンザイムを用いて繊維表面を改質し、少ないエネルギーで繊維間の水素結合を強化する技術が注目されています。

ウェットプレスとエアドライ技術

従来のティッシュ抄紙ではクレープドライヤーが主流でしたが、高強度品ではウェットプレス率を高めて含水率を均一化し、乾燥過程で繊維を緊密に結合させます。
さらにTAD（Through Air Drying）方式を導入すると、繊維の立体構造を維持しつつ表層強度を補強できるため、薄くても破れにくいシートが得られます。

バインダーと添加剤の最適化

湿潤強度樹脂（PAAE系、PAM系）やカチオン澱粉を配合すると、水に濡れた状態でも紙力を保てます。
ただし過剰添加は風合いの悪化やコスト増につながるため、添加量を0.5〜1％の範囲で緻密に制御します。
新たに開発された生分解性バインダーは、環境負荷を抑えつつ同等以上の強度を発揮し、欧州を中心に採用が拡大しています。

多層抄紙とエンボス加工

機械的強度を保ちながら柔軟性を確保するために、多層抄紙機で薄層を重ね合わせ、中心層に長繊維、表層に短繊維を配置します。
エンボス加工で表面に空隙を形成すると、吸水性とボリューム感が向上し、見た目の高級感も演出できます。
エンボスパターンは強度にも影響するため、シミュレーションで応力分散を解析しながら設計するのが一般化しています。

後加工での強度向上

ロールカット時の微細なギザ刃形状を最適化し、切り口の繊維切断を最小化すると、箱から引き出す際の裂けを防げます。
また、赤外線照射や超音波処理で表面を軽く溶融させ、繊維交点を固着する“マイクロボンディング”技術が台頭しており、柔らかさを損なわずに強度をプラスできます。

市場ニーズの変化

環境配慮とサステナビリティ

世界的な脱プラスチック潮流により、紙製品への期待が高まっています。
一方で森林資源の保全も求められるため、FSC認証パルプや非木材パルプを活用した高強度ティッシュが注目されます。
また、生分解性包装材と組み合わせた“プラスチックゼロ”パッケージが差別化要素になっています。

衛生意識の高まりと抗菌ニーズ

新型ウイルスの流行以降、手洗い・手拭き用途で強度の高いティッシュを求める声が急増しました。
銀イオンや植物由来の抗菌剤を塗工した製品がドラッグストアで売上を伸ばし、ホテルや商業施設でも導入が進んでいます。
抗菌性能を保持しつつ、皮膚刺激性を低減する処方が競争力の鍵です。

高齢化社会と介護用途

高齢者施設では、皮膚が薄く乾燥しやすい入居者にも使いやすい柔らかさと、高頻度交換に耐える強度の両立が求められます。
尿取りパッド交換時の肌洗浄シート代替として、高強度ティッシュが採用されるケースが増えています。
介護スタッフの作業効率を高める大判サイズや片手で取り出しやすいBOX形状も評価されています。

業務用市場の拡大

飲食チェーンの急速なテイクアウト化に伴い、紙ナプキン代替として強度ティッシュを採用する動きがあります。
厨房での油拭きや機械メンテナンスにも使用できるため、在庫品目を絞りたい現場で重宝されています。
業務用では1000枚単位の大容量パックが主流で、ロジスティクス効率が重要視されます。

価格競争から価値競争へ

従来ティッシュ市場は低価格競争が激しい分野でしたが、原燃料高騰とサステナビリティ意識の高まりにより、機能価値やブランド価値で差別化する戦略が有効になっています。
強度や環境性能、肌ざわりといった多面的なメリットを訴求し、単価アップでも納得感を持ってもらうマーケティングが鍵です。

高強度ティッシュによるビジネスチャンス

高強度ティッシュは包装材やワイパー用途への水平展開が可能です。
特にeコマースの梱包現場では、クッション材や緩衝紙として汎用クラフト紙よりも柔軟で扱いやすい点が評価されています。
また、化粧品メーカーとの協業で「拭き取り化粧水専用シート」としてOEM供給する事例も増えています。
BtoB2Cモデルで付加価値を共創し、高価格帯でもリピートを獲得できる仕組みを構築することが重要です。

今後の課題と展望

高強度と柔らかさを両立するために、添加剤に頼らない繊維構造の最適化が求められます。
特にナノセルロースを均一分散させる技術は、軽量化と強度向上を同時に実現する可能性がありますが、量産コストが課題です。
また、製造プロセス全体のCO2排出量を測定し、LCAで優位性を示すことがサプライヤー選定の条件になる時代が到来します。
デジタルツインを活用した抄紙ラインのリアルタイム最適化や、AIによる需要予測と生産計画の連携が、コストと品質を両立する鍵となるでしょう。
付加価値の高い高強度ティッシュペーパーは、生活者の利便性向上と環境負荷軽減を同時に叶える製品として、今後も市場拡大が期待されます。