合成ゴムと天然ゴムの違いとそれぞれの製造工程【業界技術者】

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合成ゴムと天然ゴムの違いとそれぞれの製造工程【業界技術者】

ゴムとは何か――基本概念の整理

ゴムは弾性を有する高分子材料の総称です。
天然由来の樹液から得られる天然ゴムと、石油化学原料を重合して得られる合成ゴムに大別されます。
自動車タイヤをはじめ、シール材、ベルト、ホース、医療機器など用途は多岐にわたります。

天然ゴムの特徴

天然ゴムはパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)の樹液であるラテックスを主原料とします。
主成分はシス‐1,4‐ポリイソプレンで、結晶化能力が高く優れた伸長強度と反発弾性を示します。
耐摩耗性、低温柔軟性も良好で、特にトラック・バス用大型タイヤで重宝されています。

天然ゴムのメリット

弾性回復力が大きい。
耐疲労性に優れる。
生分解の可能性があり環境負荷を低減しやすい。

天然ゴムのデメリット

熱酸化劣化を受けやすく、耐候性・耐オゾン性は低い。
供給が気象や政治情勢に左右されやすい。
アレルゲン問題(ラテックスアレルギー)がある。

合成ゴムの特徴

合成ゴムは石油由来モノマー(ブタジエン、スチレン、イソプレン、イソブチレンなど)を重合させて製造されます。
種類が非常に多く、最適設計が可能です。
代表例としてSBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)などがあります。

合成ゴムのメリット

耐熱性・耐油性・耐薬品性など、用途別に特化した性能を付与できる。
原料供給が石油化学プラントに依存するため規格化・量産化が容易。
配合設計の自由度が高く、ハイブリッド化も可能。

合成ゴムのデメリット

一般に天然ゴムほどの伸長強度・反発弾性は得にくい。
原油価格変動の影響を受けやすい。
一部グレードでは難燃性や環境規制物質(ハロゲン系)の懸念がある。

天然ゴムの製造工程

1. ラテックス採取(タッピング)

パラゴムノキの樹皮を斜めに傷つけ、ラテックスを採取します。
早朝に行うことで樹液の流動性と収量を確保します。

2. 凝固

採取したラテックスにギ酸や酢酸を添加してpHを下げ、イソプレン微粒子を凝固させます。
この段階で固形分がシート状に沈殿します。

3. 圧搾・洗浄

ローリングマシンで圧延し、水洗いを繰り返して不純物や酸を除去します。

4. 乾燥・スモーク

燻煙室で低温乾燥しながら煙の成分を付着させます。
防カビ効果が得られると同時に特有の飴色と香りが形成されます。

5. 分級・梱包

シートの外観、色調、不純物含有量で等級付けし、プレス梱包して出荷します。

合成ゴムの製造工程

合成ゴムは重合技術によって大きく「エマルション重合」「溶液重合」「メタセシス重合」などに分類されます。
以下では汎用合成ゴムであるSBR(エマルション重合法)を例に解説します。

1. 原料精製・配合

ブタジエンとスチレンを一定モル比でブレンドし、界面活性剤、水、ラジカル開始剤(過酸化物やレドックス系)を添加します。
この乳化液が重合釜に送られます。

2. エマルション重合

反応温度5℃前後で連続的に重合を進行させます。
粒径約100 nmのラテックス粒子内でラジカル重合が進み、SBRラテックスが形成されます。
温度とモノマー転化率を制御して分子量や共重合比を最適化します。

3. 重合停止・未反応モノマー回収

反応末期に硫黄化合物やヒドロキシルアミンで重合を停止し、真空蒸留で未反応モノマーを回収します。
これによりVOC排出を抑制し再利用率を高めます。

4. 凝固・洗浄

ラテックスを塩酸や塩化カルシウムで凝固させ、ロールで洗浄します。
不純物や界面活性剤を除去することで物性と色調を改善します。

5. 脱水・乾燥

加圧フィルターで脱水した後、流動層乾燥機で70〜80℃にて乾燥します。
最終水分は0.2%以下へ管理し、ブロッキングを防止します。

6. 製品カット・梱包

ペレットもしくはベール形状にカットし、ポリ袋および段ボールにパッキングして出荷します。

両者の物性比較

天然ゴムは高いクリスタリニティとネットワーク密度により生の弾性が大きいです。
一方、合成ゴムは分子設計により耐油性や耐熱性を自在に付与できます。
例えばNBRはアクリロニトリル含有率を上げることでガソリンや鉱油への耐性が向上します。
EPDMは非極性骨格と飽和度の高さにより耐候・耐オゾン性で他を圧倒します。

用途による選択指針

自動車用ラジアルタイヤのトレッドには高摩耗性と低発熱性が必要なため、BRやS-SBRが主流です。
トラックタイヤや航空機タイヤなど高負荷用途では、天然ゴムが現在も中核を担います。
耐油ホースやOリングにはNBR、フッ素ゴム(FKM)が用いられます。
建築用シーリング材では耐候・耐熱性を評価してEPDMが採用されるケースが多いです。

製造工程における環境対策

天然ゴムは森林管理認証(FSC)を取得し、持続可能なプランテーション運営が拡大しています。
一方、合成ゴム製造ではバイオマス由来ブタジエンやスチレンの研究が進み、LCA(ライフサイクルアセスメント)でCO₂排出を抑える動きがあります。
排水中の界面活性剤や重金属の除去、VOC回収ユニットの設置など、プラント環境負荷低減技術も年々高度化しています。

まとめ――選択の鍵は「用途特性×供給安定性」

天然ゴムと合成ゴムは化学構造、物性、製造方法が大きく異なりますが、双方とも現代産業に欠かせない素材です。
高強度・高弾性が要求される用途では天然ゴムが中心となり、耐油・耐熱・耐候など条件別特性を求める場合は合成ゴムが主役となります。
最終製品の性能、コスト、サプライチェーンリスク、環境規制を総合的に勘案し、最適なゴム種類と加工プロセスを選択することが業界技術者に求められます。

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