食品包装向け耐油バリアコーティングの開発とサーキュラーエコノミーへの貢献

耐油バリアコーティングとは

食品包装に求められる機能の一つが、揚げ物やソース類などの油脂が包装材を透過するのを防ぐ耐油性です。
従来はアルミ箔や多層プラスチックフィルムが主流でしたが、使い捨て需要の増大、リサイクル困難、化石資源依存といった課題がありました。
そこで近年注目されているのが、紙やバイオマス系フィルムに水系コーティングを施して耐油性を付与する「耐油バリアコーティング」です。
紙本来のリサイクル適性や生分解性を保ちつつ、油をはじく性能を付与できるため、サーキュラーエコノミーの実現に向けた有望技術といえます。

開発の背景

プラスチックごみ問題が顕在化し、EUを中心に使い捨てプラスチック規制が加速しています。
同時にPFAS（ペルフルオロアルキル化合物）などのフッ素系撥水剤が人体・環境へ与える影響も指摘され、食品接触用途では使用制限が強まっています。
こうした潮流のもと、非フッ素・非溶剤系の耐油バリア技術が求められており、紙メーカー、インキメーカー、スタートアップが競うように研究開発を進めています。

技術的アプローチ

バリア層の材料選定

現在主流となりつつあるのは、水性アクリル、スチレンアクリル、EVOH分散液、ポリウレタン分散液といった水系樹脂です。
これらを単独またはブレンドし、紙繊維間の空隙を埋めることで油の毛細管浸透を抑制します。
一方、生分解性を重視する場合は、PLA、PBS、PHA、セルロースナノファイバー（CNF）といったバイオベースポリマーも採用されています。

紙基材の表面処理技術

紙は多孔質であり、そのままでは少量のコーティングでは油を完全に遮断できません。
そこで、カレンダー処理による平滑化、サイジングプレスでの内部サイズ剤塗布、前塗りプライマー層の形成など、基材側の表面改質が重要になります。

塗工プロセスの最適化

ロッドコーター、アニロックスロール、ブレードコーターなど、用途や生産量に合わせた塗工方式が採用されています。
乾燥温度と乾燥時間を適切に制御し、溶剤残留や紙の波打ちを防ぐことで、食品安全性と寸法安定性を両立できます。

性能評価と試験方法

耐油バリア性能は主に「KIT値」や「TAPPI油浸透テスト」で定量評価します。
KIT値は12段階で、揚げ物包装には8以上が目安です。
また酸素透過率（OTR）や水蒸気透過率（WVTR）を測定し、酸化や乾燥による食品劣化を抑えられるか確認します。
食品接触材としては、FDAやEU10/2011などの溶出試験をパスする必要があります。
特に水系コーティングは低分子移行のリスクが低く、規制対応の面でも優位性があります。

サーキュラーエコノミーへの貢献

単一素材化によるリサイクル性向上

紙に薄い水系樹脂を塗布しただけの耐油紙は、通常の古紙リサイクルラインで脱インキ処理が可能です。
多層プラスチックと異なり、分離工程を必要とせず、資源循環効率が高まります。
加えて、既存の製紙設備を活用できるため、追加投資を抑えつつ循環型サプライチェーンを構築できます。

バイオマス資源の循環

バイオベースポリマーをコーティング材に用いれば、化石資源の消費を削減できます。
さらにコンポスト環境下で分解しやすい配合を設計すれば、リサイクルが難しい食品残渣付き包装でも堆肥化ルートに乗せられます。
このように、素材選択とエンドオブライフ設計を組み合わせることで、リサイクルとコンポストの二本柱による循環経済モデルが実現します。

事例紹介

国内大手製紙メーカーA社は、CNF複合アクリルコーティングを使用した耐油紙を開発し、フライドチキンチェーンで採用されています。
リサイクルテストでは、一般的な牛乳パック並みの歩留まりを達成し、年間200トンのプラスチック削減効果が報告されています。
また欧州のスタートアップB社は、PVOHと澱粉をハイブリッド化した水性コートを紙ストローに適用し、ストローの生分解性を損なうことなく油性調味料にも対応するパッケージへ応用しています。

課題と今後の展望

耐油性と耐水性を同時に高めると、水系樹脂の膜厚が増え、紙らしさ（折り曲げ易さ・印刷適性）が低下します。
したがって多機能化と素材軽量化のバランスが最大の課題です。
また、水性処方は乾燥エネルギー負荷が高いため、余熱回収やIR乾燥とのハイブリッド化による省エネ技術が求められます。
ロジスティクス面では、リサイクルルートの確立と消費者教育が不可欠です。
QRコード印字により排出方法を案内する取り組みや、自治体と連携した回収実証が進行しています。

将来的には、AIを用いた配合最適化や、分子レベルで油と水を選択的に弾くブロック共重合体の導入が検討されています。
さらに、紙基材に直接プラズマ処理を施し、ナノスケールの撥油層を形成するドライプロセスも研究段階にあります。

まとめ

食品包装向け耐油バリアコーティングは、脱プラスチックとPFAS規制の潮流を背景に急速に普及しています。
非フッ素・水系・バイオベースというキーワードを軸に、紙を中心とした単一素材化が進み、リサイクルやコンポストによる資源循環を可能にします。
KIT値やOTR測定などの評価指標をクリアしつつ、乾燥エネルギー削減やコスト低減の課題を解決できれば、大量消費されるテイクアウト包装や冷凍食品トレイでの採用が加速するでしょう。
耐油バリア技術は、サーキュラーエコノミーへの移行を後押しする重要なピースとして、今後も素材開発とサプライチェーン連携が求められます。