情報通信機器での電磁両立性（EMC）試験とその対応策

情報通信機器におけるEMC試験とは

EMC試験（Electromagnetic Compatibility試験）は、電子機器が環境中の他の機器に干渉せず、逆に他の機器や環境要因からの干渉を受けないことを確認するための試験です。
この試験は、情報通信機器において特に重要であり、通信の品質やセキュリティを確保するうえで欠かせません。
EMC試験は、大きく分けて電磁干渉（EMI）試験と電磁耐性（EMS）試験の二つに分類されます。

EMI試験とその重要性

EMI試験（Electromagnetic Interference試験）は、情報通信機器から発生する電磁エネルギーが他の機器に干渉しないことを確認する試験です。
情報通信が正常に行われるためには、各機器が適切に動作し、他機器の通信を妨げないことが前提となります。
特に、無線通信機器が増加している現代では、EMIの影響を最小限にすることが求められます。

EMS試験とその重要性

EMS試験（Electromagnetic Susceptibility試験）は、外部からの電磁妨害が情報通信機器に影響を及ぼさないことを確認する試験です。
外部からの干渉に対して強い耐性を持つことは、セキュリティや機器の信頼性向上のために必要不可欠です。
特に、重要なデータを扱う機器では、EMS試験の合格が使用における最低条件となります。

EMC試験の実施方法

EMC試験は、特別に設計された試験施設で実施されます。
これらの施設は、電磁的に遮蔽された環境を提供し、正確な試験結果を得るために必要です。
EMI試験では、放射電磁波測定、伝導性干渉測定が行われ、EMS試験では、静電放電（ESD）テスト、雷サージテスト、放射電磁波耐性試験が実施されます。

放射電磁波測定

放射電磁波測定は情報通信機器から放射される電磁波が規格値内かを確認する試験です。
この試験では、測定用アンテナを使用して無線周波数を測定し、結果が国際規格の条件を満たしているかをチェックします。
放射電磁波の影響を最小限に抑えるための設計変更やシールド対策が必要となる場合があります。

伝導性干渉測定

伝導性干渉測定は、電源ラインを通じて発生するノイズの有無を確認する試験です。
この試験では、ネットワークアナライザを用いてノイズ電流の特性を精査し、ノイズレベルが既定の基準を満たしているかどうかを確認します。
フィルタやシールドの見直しが必要になることもあります。

静電放電（ESD）テスト

ESDテストは、電子機器が静電気放電による影響を受けないことを確認する試験です。
この試験では、静電気放電シミュレーターを使用して、発生する静電気が機器に与える影響を評価します。
効果的なアース接続や絶縁対策の必要性を判断するのに役立ちます。

雷サージテスト

雷サージテストは、機器が雷放電などによる大電流サージに対して耐性があるかを確認する試験です。
この試験は、高電圧を発生させる装置を用いて、機器が耐えられる最大電圧をチェックし、必要な防護策を講じるための指針を提供します。

放射電磁波耐性試験

放射電磁波耐性試験では、外部から放射される電磁波が情報通信機器に影響を及ぼさないかを確認します。
厳しい電磁環境下でも問題なく動作するかを評価できるこの試験は、機器の配置や外装シールド材の見直しに活用されます。

EMC試験でよく見られる問題と対策

EMC試験に合格することは容易ではなく、特に以下のような問題がよく見られます。

ノイズの発生とその除去

ノイズはEMC試験の大敵であり、機器から発生するノイズが規制を超えると試験に不合格となります。
ノイズ除去には、シールドの強化や回路設計の見直し、フィルタの追加などが有効です。

適切なアース接続の実装

アース接続が不十分だと、ノイズが外部へ漏れたり、外部ノイズに影響を受けたりします。
設計段階から適切なアース接続を計画し、安定した接地が必須です。

設計段階でのEMC対策の考慮

EMC問題を後から解決するのは難しいため、製品の設計段階からEMC対策を考慮することが大切です。
コンポーネントの選定や基板設計にも配慮し、問題発生を未然に防ぎます。

今後のEMC試験におけるトレンド

情報通信技術の進化に伴い、EMC試験の重要性も増しています。

5GやIoTの普及による影響

5G技術の普及は、周波数帯域が今後さらに混雑することを意味します。
それに伴い、EMC試験での高精度な測定技術が求められるようになるでしょう。
また、IoTデバイスの増加により、デバイスが高密度に存在する環境でも安定して動作できるかが評価ポイントとなります。

AI技術を用いたEMC解析

AI技術を活用したEMCの解析やシミュレーションが注目されています。
AIは大規模データを迅速に分析し、どのような設計や配置がEMC対策に最適化されるかの予測を提供します。
これにより、試作段階での改善点が早期に把握でき、開発期間の短縮が期待されます。

まとめ

情報通信機器におけるEMC試験は、通信の安定性や機器の信頼性を確保するうえで避けて通れないプロセスです。
EMIとEMS試験を通じて、機器が法規制を満たし、環境と両立して動作するかを確認することが要求されます。
設計段階からの徹底したEMC対策が、試験への合格と、最終製品の品質保証につながります。
今後も技術進化に伴い、新たな挑戦が登場しますが、重要なのは基礎をしっかりと抑え、柔軟に対応する姿勢です。