投稿日:2024年7月13日

モデルベース開発手法講座

モデルベース開発手法とは?

モデルベース開発手法(Model-Based Development, MBD)は、システムやソフトウェアの設計・開発においてモデルを中心に据えた手法です。
具体的には、開発過程で使用される各種モデルを基にシステムを構築し、そのモデルを逐次改良・検証していくことで、品質の高い製品を効率的に開発することを目指します。
この手法は、航空宇宙産業や自動車産業など、特に高い信頼性が求められる分野で早くから採用されてきました。

モデルベース開発の利点

モデルベース開発手法の利点は多岐にわたります。
以下に、いくつかの主要な利点を挙げます。

1. 開発スピードの向上

モデルベース開発手法では、設計段階で詳細なモデルを作成し、それを基に開発を進めるため、後からの手戻りが少なくなります。
これにより、開発スピードが大幅に向上します。

2. コスト削減

初期段階で問題点を抽出し、修正することが容易になるため、全体の開発コストを削減することができます。
また、再利用可能なモデルコンポーネントを活用することで、一からの開発を要する部分が減少します。

3. 高い品質の保証

モデルを基にシミュレーションや検証を行うことで、設計の精度を高めることができ、高品質な製品を提供することが可能です。
特に、安全性が重視される分野では、この利点が大きく評価されています。

4. コミュニケーションの円滑化

視覚的なモデルを使用することで、チーム間のコミュニケーションが円滑になり、誤解や認識のズレを減少させることができます。
これにより、プロジェクト全体の効率化が図れます。

モデルベース開発の主要なステップ

モデルベース開発手法を実践するための主要なステップを以下に示します。

1. 要件定義

プロジェクトの最初の段階で、システムの要求事項や機能要件を明確にします。
ここで収集された情報は、後のモデル作成において基盤となります。

2. モデル構築

要件定義を基に、システム全体または部分的なモデルを構築します。
このモデルには、システムの動作や構造を視覚的に表現する図やダイアグラムが含まれます。

3. モデルシミュレーション

構築されたモデルを基に、シミュレーションを実施してシステムの動作を仮想的に検証します。
この段階で、モデルの改善点や潜在的な問題を抽出します。

4. モデルの改良

シミュレーション結果を基に、モデルを改良します。
このプロセスは、システムが期待通りに動作するまで繰り返し行います。

5. 実装とテスト

改良されたモデルに基づき、実際のシステムを実装します。
その後、テストを行い、モデルと現実のシステムとの整合性を確認します。

モデルベース開発に使われるツール

モデルベース開発手法を実践するためには、各種ツールの利用が不可欠です。
ここでは、代表的なツールをいくつか紹介します。

1. MATLAB/Simulink

MATLABとSimulinkは、数値解析とシミュレーションのための強力なツールセットです。
特に、制御システムの設計や動的モデルのシミュレーションに広く使用されています。

2. UML(統一モデリング言語)

UMLは、システムの構造や動作を視覚的に表現するための標準的なモデリング言語です。
ソフトウェア開発における設計や分析を支援します。

3. SysML(システムモデリング言語)

SysMLは、UMLを基に拡張したモデリング言語で、システム工程全体をカバーするために設計されています。
特に、複雑なシステムの設計や分析に適しています。

製造業におけるモデルベース開発の具体的な事例

製造業におけるモデルベース開発手法の実際の適用事例として、いくつかの具体的なケースを紹介します。

1. 自動車産業

自動車メーカーでは、車両の制御システムやエンジン制御にモデルベース開発手法が採用されています。
例えば、ホンダはエンジンの制御システム開発にSimulinkを利用し、開発効率と品質の向上を図っています。

2. 航空宇宙産業

航空機の飛行制御システムやナビゲーションシステムの開発には、高い精度が求められます。
ボーイングやエアバスなどの大手航空機メーカーでは、MATLAB/SimulinkやSysMLを活用して、信頼性の高いシステムを開発しています。

3. ロボティクス

産業用ロボットやサービスロボットの制御システム設計においても、モデルベース開発手法が有効です。
特に、複雑な動作やインタラクションが要求される場合には、シミュレーションを通じて精度を高めることができます。

製造業の未来とモデルベース開発

モデルベース開発手法は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。
その背景には、次のような要因があります。

1. IoTとインダストリー4.0

IoT(Internet of Things)やインダストリー4.0の進展により、製造業におけるデジタル化が進んでいます。
これに伴い、システムの複雑さが増す中で、モデルベース開発手法が引き続き重要な役割を果たすことが期待されています。

2. 人工知能(AI)と機械学習

AIや機械学習の進化により、システムの自動化や最適化が進展しています。
モデルベース開発手法とこれらの技術を組み合わせることで、より高度なシステム開発が可能となります。

3. 環境関連の規制強化

製造業における環境関連の規制が強化される中、エネルギー効率の向上や排出ガス削減が求められます。
モデルベース開発手法を活用することで、より環境に配慮した製品開発が可能となります。

まとめ

モデルベース開発手法は、システムの設計・開発において非常に有効な手法です。
その利点として、開発スピードの向上、コストの削減、高い品質の保証、コミュニケーションの円滑化などが挙げられます。
また、MATLAB/Simulink、UML、SysMLなどのツールを活用することで、効果的なモデルベース開発を実現することができます。

さらに、自動車産業や航空宇宙産業、ロボティクスなどの製造業においても多くの具体的な事例が存在します。
これにより、製造業の未来においてモデルベース開発手法がますます重要な役割を果たしていくことは間違いありません。
そのため、製造業に携わる方々には、モデルベース開発手法の理解と実践を進めていくことを強くお勧めします。

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