表面プラズモン共鳴SPRによる結合定数算出と非特異吸着対策

表面プラズモン共鳴SPRによる結合定数算出と非特異吸着対策について、バイオセンサー技術や分子間相互作用解析の分野で高い注目を集めています。
本記事では、SPRによる正確な結合定数算出の仕組みと、測定時にしばしば問題となる非特異吸着への対策について詳しく解説します。

表面プラズモン共鳴(SPR)とは

表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)は、金属薄膜に入射した光が特定の角度で共鳴を起こす現象を利用した、非標識型の分子間相互作用解析法です。
SPRはバイオ分子が金属表面に結合した時に生じる屈折率変化をリアルタイムで検出できます。

SPRでは、解析対象の分子(リガンド)を金属薄膜表面に固定し、相手分子(アナライト)を流すことで両者の結合および解離をリアルタイムで計測します。
この信号(応答単位:RU)を解析することで、分子間の親和性や結合速度、解離速度といった物理化学的パラメータである結合定数を求めることが可能です。

SPRによる結合定数の算出方法

SPRで得られるセンサグラム(センサーグラム)は、アナライトの注入に伴う応答の上昇(結合過程)、注入停止後の応答低下(解離過程)から成ります。

1: 速度論解析とは

SPRでは、結合速度定数(association rate constant, ka)および解離速度定数(dissociation rate constant, kd)を算出できます。
これにはセンサグラムの結合曲線、解離曲線それぞれの傾きをモデルに当てはめて数値化します。

速度論モデルとしては1:1色素結合モデルがよく使われ、式は以下のようになります。

結合過程:dR/dt = ka・C・(Rmax-R) – kd・R
解離過程:dR/dt = -kd・R

ここでRはセンサー表面の応答、Cはアナライト濃度、Rmaxは理論的飽和応答です。

2: 親和性定数(KD)の算出

結合定数KD(親和性定数)は、kaとkdから数値的に求められます。

KD = kd / ka

KD値が小さいほど、リガンドとアナライトの分子間親和性が高いと言えます。
逆にKD値が大きい場合は、結合しにくいことを示します。

3: 平衡解析による算出

また、複数濃度のアナライトで平衡に達したときの応答値から、リガンド・アナライトの結合曲線(Languir曲線)を作成し、平衡解析としてKDを算出する方法もあります。
この場合はアナライト濃度と応答の関係から、結合曲線フィッティングでKDを求めます。

SPR測定における非特異吸着の影響

SPR解析では、目的分子以外の成分がセンサー表面に吸着する、非特異吸着(ノン・スペシフィックバインディング)がしばしば問題となります。
これは解析精度を大きく下げ、実際の結合定数の過大評価やノイズの増大、誤解析につながります。

非特異吸着の主な原因には以下が挙げられます。

・アナライト分子自体の持つ疎水性・電荷特性
・試料中のコンタミネーション(タンパク質や他の分子汚染)
・センサー表面の修飾が不十分
・測定バッファーの組成が適切でない

非特異吸着は、大量のバックグラウンド応答を引き起こし、実際の結合反応との差異が不明瞭になります。

非特異吸着対策の具体例

SPRによる結合定数分析の信頼性を高めるには、非特異吸着対策が不可欠です。
以下に実際に有効な対策を紹介します。

1: ブロッキング剤の添加

非特異吸着を抑制するためには、ブロッキング剤を用いる方法が効果的です。
BSA(ウシ血清アルブミン)、ケースイン、スキムミルク、ゼラチン、または合成ポリマー(PEGなど)が代表的です。
これらをバッファーやセンサー表面処理に用いることで、目的外の吸着をブロックできます。

2: 適切なバッファー設計

SPR測定用バッファーには、pHやイオン強度、界面活性剤(例:Tween-20, P20など)を最適化することが重要です。
界面活性剤の添加は、弱い疎水性相互作用による非特異吸着の低減に寄与します。
また、測定対象分子の安定性も考慮してバッファー組成を設計しましょう。

3: ネガティブコントロールの利用

対象分子を固定しないキャピラリーセルやネガティブコントロールフローセルを設け、同一条件下で非特異吸着の応答値を取得します。
そのバックグラウンド信号を実測値から差し引くことで、純粋な結合応答を抽出できます。

4: センサーチップの選択・表面修飾

測定アプリケーションごとにセンサーチップ表面の化学組成(カーバクシルデキストラン、NTA、PEG修飾など)を選択することも重要です。
ときにはリガンド自身の表面固定方法(アミンカップリング、ヒスチジンタグ、ビオチン/ストレプトアビジン)も、非特異吸着に影響します。
用途に応じて最適な表面修飾・固定法を選択してください。

SPRによる高精度結合定数算出の実践ポイント

最適な実験設計

SPR解析の成功は実験計画にかかっています。
分析感度を最大限に引き出すためには以下の点を押さえましょう。

・リガンドの固定密度設定(Rmaxの飽和を避ける適切密度)
・アナライト濃度範囲の選択(低値~高値、複数濃度段階で測定)
・流速やインジェクション時間の工夫(結合・解離曲線のしっかりしたデータ取得)

正確なデータ解析

SPRデータのモデルフィッティングには、1:1モデル以外にも複数サイトモデルやヘテロジニアスモデルなど、適切なモデル選択が必要です。
実データと理論曲線が適合しており、残差プロットに著しい系統誤差がないかをチェックしましょう。

バックグラウンド減算、リファレンスセルの利用、再現性試験も高精度解析には必ず行いましょう。

SPR法の活用事例と最新動向

SPRによる結合定数算出は、以下の分野で広く活用されています。

・抗体-抗原の親和性比較(医薬品開発、診断薬開発)
・酵素-阻害剤の相互作用解析(創薬リード化合物スクリーニング)
・タンパク質-タンパク質相互作用検証
・DNA-タンパク質の相互作用研究(転写因子の解析など)

近年はハイスループット化やナノプレート化、小型デバイスによる現場応用、AI解析の導入などSPR技術も深化しています。

まとめ

表面プラズモン共鳴SPRは、バイオ分子間相互作用の結合定数を非侵襲的にリアルタイム測定できる強力な手法です。
正確な結合定数算出のためには、実験設計と非特異吸着対策が極めて重要となります。

ブロッキング剤の活用やバッファー最適化、センサー表面修飾の工夫、リファレンス測定の徹底など、多層的な対策でクリーンなデータ取得を目指しましょう。

SPRによるデータは、創薬やバイオ研究の根拠強化や効率化に大きく寄与します。
常に最先端の知見と技術を取り入れながら、結合定数解析を高精度に進めていきましょう。

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