合成ゴムと天然ゴムの特性比較と用途最適化

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ゴムの基礎と分類

ゴムは高分子材料の一種であり、大きく天然ゴムと合成ゴムに分かれます。
天然ゴムはパラゴムノキの樹液から得られるポリイソプレンが主成分です。
合成ゴムは石油由来モノマーを化学反応で合成した人工ゴムで、SBR、NBR、EPDMなど多様な種類があります。
両者は高弾性を共有しながらも、分子構造や添加剤の違いによって特性が大きく異なります。

物理機械特性の比較

引張強度と伸び

天然ゴムは分子鎖の規則的な結晶化が起こりやすく、高い引張強度と伸びを示します。
一般的に引張強度は20MPa以上、伸びは600%以上になる場合があります。
SBRなど多くの合成ゴムは充填剤や補強剤によって強度を高めますが、天然ゴムほどの伸びは得にくいです。
ただし、HNBRやシリコーンゴムなど特定の合成ゴムは特殊配合により高伸びを実現できます。

耐摩耗性

SBRはカーボンブラックを高充填することで優れた耐摩耗性を発揮します。
タイヤトレッド用ゴムとして世界的に採用される理由です。
天然ゴムは摩耗初期に薄い保護層を形成し、実働条件によっては同等以上の摩耗寿命を示します。
しかし高温下では熱劣化が早まり、摩耗が加速する欠点があります。

弾性復元と動的特性

天然ゴムはヒステリシスロスが低く、転がり抵抗が小さいため低発熱性です。
これによりエネルギー損失が少なく、省エネルギータイヤや高弾性ゴムばねに適します。
SBRは充填剤を多く含むため発熱が大きく、連続動負荷が長時間続く用途では温度上昇に注意が必要です。
EPDMやシリコーンは低温でも柔軟性を維持し、寒冷地でのシール材に有利です。

化学的特性の比較

耐油性・耐薬品性

天然ゴムは非極性であり、鉱油や溶剤を吸収しやすく膨潤します。
NBRやHNBRはニトリル基を有し、炭化水素系油に対して優れた抵抗性を示します。
フッ素ゴムは燃料、酸、アルカリにも強く、航空宇宙や化学プラントで重宝されます。

耐候性・耐オゾン性

天然ゴムは二重結合が多く、オゾンや紫外線で劣化亀裂が生じやすいです。
EPDMは飽和骨格を持ち、耐候性が極めて高いため屋外ガスケットの定番です。
SBRは天然ゴムより耐候性が向上しますが、長期曝露では保護ワックスが必要です。

耐熱性・耐寒性

天然ゴムの連続使用温度はおよそ-50℃から80℃程度です。
シリコーンゴムは-60℃から200℃以上まで安定し、極端な温度条件で重宝します。
フッ素ゴムやパーフルオロエラストマーは250℃超でも性能を維持し、エンジン周辺部品に採用されます。

加工性とコスト

天然ゴムは粘度が高く、異物除去やムラ取りが重要ですが、硫黄加硫工程が比較的短時間で済みます。
合成ゴムはモノマー設計により流動性を制御しやすく、自動混練や連続加硫ラインへの適合性が高いです。
コスト面ではNRとSBRが安価で、フッ素ゴムやシリコーンは高価です。
原油市況に左右される合成ゴムに対し、天然ゴムは天候や政治情勢による価格変動が大きいです。

用途最適化の指針

自動車タイヤ

トレッドには耐摩耗性とウェットグリップを両立するSBRとNRのブレンドが主流です。
サイドウォールには低発熱NR、インナーライナーには気体透過を抑えるブチルゴムが用いられます。
スノータイヤやオールシーズンタイヤではシリカ充填SBRで転がり抵抗を低減しつつ、低温弾性を向上させます。

ホース・シール

油圧ホースの内層はNBRやHNBRで耐油性を確保し、外層には耐候EPDMを巻きます。
高温蒸気ホースではフッ素ゴムやエチレンアクリルゴムが選択されます。
シール材では一般流体用OリングにNBRが標準ですが、ブレーキ液にはEPDM、燃料ラインにはフッ素ゴムが適合します。

医療・食品分野

天然ゴムはラテックスアレルギー問題があり、医療手袋はニトリルやTPEへの置換が進んでいます。
シリコーンゴムは生体適合性、無味無臭、滅菌耐性が高く、カテーテルや哺乳瓶に採用されています。
フッ素ゴムは高純度流体ラインのバルブシールとしてクリーンルームでも使用されます。

電気電子分野

シリコーンゴムは優れた電気絶縁性と耐熱性から高圧コネクタや耐トラッキングブッシングに使用されます。
導電性を付与したEPDMは静電気対策マットやシールドガスケットに用いられます。
天然ゴムは絶縁手袋として依然広く使われ、柔軟性と絶縁性のバランスが評価されています。

複合化とブレンドによる性能強化

NRとSBRのブレンドはタイヤ以外にも防振ゴムで一般的です。
NRの高伸びとSBRの耐摩耗性を相互補完できます。
EPDMにポリプロピレンを共混すると、熱可塑性エラストマーTPVが得られ、リサイクル加工が容易になります。
シリコーンゴムにフッ素基を導入したFVMQは耐燃料性と耐熱性を融合します。

環境対応とサステナビリティ

天然ゴムは再生可能資源であり、森林保護認証を取得したプランテーションが増えています。
RoHSやREACH規制に対応した低PAHオイルを使用することで環境負荷を低減できます。
合成ゴムでもバイオマスナフサ由来のSBRやNBRが商業化され、カーボンニュートラルに寄与します。
廃タイヤ熱分解油をモノマーとして再利用するケミカルリサイクルの動きも活発です。

選定フローチャート例

1. 使用温度範囲を確認し、上限温度が120℃以上ならシリコーンかフッ素ゴムを候補にします。
2. 接液媒体が鉱油系ならNBR、極性溶剤ならECO、酸性ガスならEPDMを優先します。
3. 動的荷重や高伸びが必要でコスト制約が大きい場合、NR主体でブレンド設計を行います。
4. 耐候性と意匠性が重要な屋外部品にはEPDMまたはSBS系TPEを選びます。

ケーススタディ

産業用ベルトの改善事例

従来NR100%であった搬送ベルトは高温ラインで硬化割れが発生していました。
NR60%とSBR40%に配合変更し、耐熱処方カーボンを使用することで寿命を2倍に延長しました。
同時に屈曲疲労も改善し、保守コストを30%削減できました。

ドローン用パッキンの軽量化

フッ素ゴムから低密度シリコーンフォームへ切替え、重量を40%低減しました。
耐燃料性は表面フッ素コーティングで補完し、飛行時間を15%向上させる効果が得られました。

今後の技術動向

バイオイソプレンの商業化が進めば、天然ゴムと同等特性を持つ合成生分解ゴムが期待されます。
グラフェンやセルロースナノファイバーの補強により、従来比3倍の強度を持つゴム複合材料が研究中です。
AIを活用した配合最適化により、実験回数を大幅に減らしながら性能向上を図る取り組みが進んでいます。
また、使用後のゴムをマイクロ波で選択的に脱硫し、再加硫可能にするリサイクル技術が実用段階に入っています。

まとめ

天然ゴムは高弾性とコスト優位が強みですが、耐油・耐候面で制約があります。
合成ゴムは多様な分子設計により、油、薬品、温度など用途ごとに最適特性を付与できます。
両者を適切にブレンドし、充填剤や添加剤を賢く選択することで、性能とコストをバランスさせることが可能です。
環境規制が強まる中、再生可能資源の活用とリサイクル設計は今後の必須課題になります。
用途特性を正確に分析し、材料選定フローを体系化することで、合成ゴムと天然ゴムの最適活用が実現できます。

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