食品加工向けの抗菌・防汚塗料の開発とHACCP対応の技術進化

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食品加工現場における抗菌・防汚塗料の重要性

食品工場では、壁や床、ラインコンベヤー、作業台などの表面に微生物が付着・繁殖しやすい環境が生まれます。
湿度や温度が一定に保たれ、栄養源となる有機物が存在するためです。
これらの場所にバイオフィルムが形成されると、洗浄や消毒を繰り返しても除去が難しく、製品汚染のリスクが高まります。
そこで近年注目されるのが、抗菌・防汚機能を併せ持つ塗料の導入です。
塗装面そのものが微生物の付着を抑制し、汚れを落としやすくすることで、食の安全と衛生管理コストの削減を同時に実現できます。

HACCP制度化と塗料に求められる性能

HACCPはHazard Analysis and Critical Control Pointの略で、食品製造の各工程に潜む危害要因を分析し、重要管理点でモニタリングを行う衛生管理手法です。
2021年6月に完全施行された改正食品衛生法により、国内すべての食品等事業者でHACCPに沿った管理が義務化されました。
HACCP適合をめざす際、製造環境の清潔さを維持するために壁・床・設備表面の改修が不可欠です。
抗菌・防汚塗料は、以下のような観点でHACCPへの貢献が期待されます。

微生物リスクの低減

塗膜に抗菌成分を分散させ、細菌やカビの増殖を抑えます。
これにより、重要管理点(CCP)での汚染発生確率を下げられます。

清掃・点検の効率化

付着しにくく、洗浄で汚れが短時間に落とせるため、作業負荷を軽減しつつ洗浄バリデーションを容易にします。

設備寿命の延長

防汚層が腐食や摩耗を遅らせ、メンテナンス頻度を減らします。
停⽌時間の短縮は、HACCPで重視される継続的なモニタリング体制の維持にも寄与します。

抗菌・防汚塗料の主な技術要素

抗菌・防汚機能をもたらす材料には多様なアプローチがあります。

無機系抗菌剤

銀イオン、亜鉛、銅などをガラスやジルコニアのマトリクスに担持するタイプです。
イオンが徐放し、細胞壁を破壊したり代謝を阻害したりすることで微生物を死滅させます。
耐熱性・耐薬品性が高く、オーブン周辺や高温殺菌ラインにも適用できます。

有機系抗菌剤

第四級アンモニウム塩や有機金属錯体が代表例です。
塗膜中で移行しやすく速効性を示す一方、長期耐久性や溶出規制への配慮が必要です。
食品接触可能な樹脂設計や添加量の最適化が求められます。

光触媒・ハイブリッド型

二酸化チタンに可視光応答成分をドーピングし、工場照明下でも活性酸素種を発生させる技術があります。
有機汚れを分解しつつ、銀やフッ素系防汚剤と組み合わせて多機能化するケースも増えています。

フッ素・シリコーン系防汚技術

低表面エネルギー樹脂により、油脂やタンパク質が凝集しにくくなります。
撥水・撥油性が高く、洗浄水量や洗剤使用量の削減に寄与します。

評価試験と国際規格

抗菌・防汚塗料の効果を客観的に示すには、規格化された試験方法が欠かせません。

ISO 22196 / JIS Z 2801

プラスチック表面の抗菌性試験として広く採用され、塗装板にも適用可能です。
24時間接触後の生菌数を対照試験片と比較し、抗菌活性値Rが2.0以上であることが基準の目安とされます。

ASTM D5590

塗料塗膜上のカビ抵抗性を評価する方法で、培地を含む寒天プレートに試験片を置き、一定時間培養して発生度を判定します。

洗浄性・付着性試験

人工汚れを塗布し、水洗・薬液洗浄を行った後の残渣量を画像解析で評価します。
また、耐摩耗性や耐薬品性はASTM D4060(タバーテスト)やISO 2812などを組み合わせて総合的に判断します。

食品加工ラインでの導入事例

ある冷凍食品メーカーでは、急速凍結室のアルミパネルに抗菌・防汚塗料を塗布しました。
従来は氷結と油脂が混在して洗浄に2時間を要していましたが、導入後は付着が著しく減り、洗浄時間が40分まで短縮しました。
生産停止コストを年間120万円削減し、2年で初期投資を回収したと報告されています。

また、大手乳製品工場では、発酵タンク周辺の床に防滑性を兼ねた抗菌エポキシ塗料を施工しました。
乳酸菌やカビの発生率がISO 14698の空中落下菌測定で30%低下し、HACCP監査で指摘がゼロになった事例もあります。

施工時の注意点とメンテナンス

抗菌・防汚機能を最大限活かすには、下地処理と定期保守が重要です。

下地処理

旧塗膜や汚染物質を完全に除去し、サンダー研磨やブラストで表面粗さを整えます。
含水率が高いと密着不良の原因となるため、乾燥状態を確認してからプライマーを塗布します。

膜厚管理

抗菌剤は塗膜全体に均一に分散して初めて性能を発現します。
膜厚計で規定値を超える塗り残しや薄膜部分がないか確認します。

日常清掃と点検

防汚塗料を使う場合でも、定期的な洗浄は必要です。
ただし高濃度のアルカリや塩素が長時間付着すると、抗菌成分が失活する可能性があるため、メーカーの推奨洗剤と希釈倍率を守ります。

環境対応型塗料へのシフト

SDGsの観点から、揮発性有機化合物(VOC)を低減した水性塗料やバイオマス由来樹脂を使った製品が増えています。
無溶剤UV硬化型は硬化時間が秒単位と短く、省エネかつライン停止を最小化できます。
欧州RoHSやREACHに適合した抗菌剤の採用も進み、輸出を視野に入れた食品企業にとって有利です。

IoT・AIと連携した次世代ソリューション

塗膜表面に埋め込んだセンサーが温度やpH、バイオフィルム形成をリアルタイムで検知し、クラウドにデータを送信するスマートコーティングの研究が進んでいます。
AIが洗浄タイミングを最適化し、人手に頼らないHACCPモニタリングを実現できる可能性があります。
さらに、自己修復機能を持つマイクロカプセル型樹脂が傷を自動的に埋め、抗菌剤を再供給する技術も開発段階にあります。

まとめ:食品安全と生産効率を両立する鍵

食品加工向け抗菌・防汚塗料は、HACCP制度化における衛生管理の強力なツールです。
適切な材料選定、規格試験による性能証明、そして施工後の維持管理を徹底することで、微生物リスクを最小化しつつコスト削減と持続可能性を実現できます。
今後も環境対応型やIoT連携型など技術革新が進むことで、より高度な食品安全マネジメントが可能になるでしょう。

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