低温焼成型塗料の開発とエネルギー消費削減技術

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低温焼成型塗料とは何か

低温焼成型塗料は、従来の180〜200℃前後で硬化する一般的な工業用塗料に対し、120℃以下、場合によっては60〜80℃といった低温域で硬化・焼成が完了する塗料を指します。
樹脂設計の高度化や触媒技術の進歩によって、低温でも十分な架橋反応を起こし、高硬度・高耐候性を実現できる点が最大の特徴です。
その結果、塗装工程で必要なエネルギーを大幅に削減し、CO₂排出量の低減やコストカットを両立できるため、環境規制が強化される中で注目が集まっています。

開発背景とニーズの高まり

省エネルギー・脱炭素への要求

世界的な脱炭素トレンドの中で、製造業のエネルギー使用量削減は最優先課題です。
特に塗装ラインは乾燥炉の燃料消費が大きく、工場全体エネルギーの30〜40%を占めるケースもあります。
低温焼成型塗料は炉温を下げることでガス・電気消費を抑制し、CO₂削減目標の達成に直結します。

熱に弱い基材の増加

自動車の軽量化や家電のデザイン多様化に伴い、樹脂・複合材など熱変形しやすい素材の採用が拡大しています。
従来温度では変形や黄変が懸念されるため、低温で硬化できる塗料が不可欠です。

ラインタクト短縮と歩留まり向上

低温焼成は炉内滞留時間の短縮や冷却工程の簡素化を可能にし、生産タクトを向上させます。
加えて、熱による不良発生が抑制されるため、歩留まり改善にも寄与します。

低温焼成のメカニズム

樹脂・硬化剤の選定

低温架橋を実現するには、エポキシ、アクリル、ウレタンなどの樹脂に、低温活性型硬化剤を組み合わせます。
例えばイミダゾール系触媒やマイクロカプセル化イソシアネートを用いることで、60〜80℃で反応を開始しつつ、室温時には長期保存安定性を維持できます。

ラジカル重合とUV併用

近年は低温焼成とUV硬化をハイブリッドさせたシステムも登場しています。
基材昇温を最小限に抑えながらUV照射で瞬時に表面硬化を得て、内部は低温熱反応で追従硬化させる方式です。

無機ハイブリッド化

シラン結合による無機成分を樹脂骨格に導入することで、低温でも高密度架橋が可能になります。
耐熱性・耐候性が向上し、自動車外装や建材用途でも実績を広げています。

主要原料と添加剤の最適化

バインダー樹脂

低温反応性エポキシや高官能アクリレート、1液湿気硬化型ウレタンが主流です。
VOC削減を目的に水性化技術も進んでおり、ヒドロキシアクリルエマルジョンなどが採用例です。

顔料・充填材

低温では固着力が不足しがちなため、表面処理シリカやフッ素系分散剤を併用し、流動性と密着性を両立します。
遮熱顔料を組み込むことで、さらに基材温度上昇を抑える設計も有効です。

触媒・助剤

ブロック型触媒や潜在型硬化剤を用いて、保管時のゲル化を防ぎつつ、焼成時に活性化させます。
また、泡抜け促進剤やレベリング剤を最適化することで、短時間焼成でも塗膜欠陥を抑制できます。

エネルギー消費削減効果の試算

例えば従来180℃×20分の乾燥条件から、120℃×10分に移行した場合を想定します。
炉温を60℃下げ、時間を半分にしたことで、熱負荷は理論上約60〜65%低減します。
ガス炉で年間2,000時間稼働するラインの場合、約150〜200トンのCO₂削減が試算されます。
電気炉でも年間電力を40万kWh以上削減できるケースが報告されており、電力単価27円/kWhで換算すると年間1,000万円超のコストメリットになります。

導入分野別の事例

自動車部品

樹脂バンパーや内装パネルで低温焼成型水性塗料が採用されています。
変形リスク低減とともに、工程短縮により1台当たりの塗装コストを約15%削減した実績があります。

家電・IT機器

金属筐体と樹脂パーツを一括加熱できるため、ライン統合による設備削減が可能です。
放熱性を高めた無機ハイブリッド塗料で、5G対応の通信機器にも応用が進んでいます。

建材・アルミサッシ

長尺材を低温で連続焼成できるため、ガス炉から電気ヒーター+ヒートポンプへの切り替えを実施する企業が増えています。
これにより、燃焼系排ガスのVOC処理装置が不要になり、保守費用の削減にも寄与します。

品質と性能の評価ポイント

硬度・付着性

低温条件でもJIS及びASTM規格の鉛筆硬度2H以上、クロスカット100/100保持を満たすことが求められます。

耐候性・耐薬品性

キセノンウェザーメーター1,000時間で光沢保持率80%以上、酸・アルカリ溶液24時間浸漬で外観変化がないことが評価基準となります。

生産性

塗布後の指触乾燥時間、完全硬化時間、炉内滞留時間を定量的に比較し、ライン全体のスループットに与える影響を検証します。

導入時の課題と解決策

初期投資の抑制

既存炉を流用する場合、断熱材や温度制御システムの改造が最低限で済むため、大規模な投資を回避できます。
また、ライン停止を最小限にする段階的改修を行うことで生産影響を抑えられます。

保管安定性と作業ウィンドウ

低温活性型塗料は倉庫環境の高温期に反応が進むリスクがあります。
防湿包装や冷暗所保管、現場での混合2液化などで対応し、ポットライフを確保します。

品質保証体制

低温焼成では硬化不足を見逃しやすいため、赤外分光やDSCによる架橋度モニタリングの導入が有効です。
ラインオフ後の塗膜性能を実測し、リアルタイムでフィードバックする体制が品質安定に直結します。

今後の技術動向

水性ハイソリッド化

VOC排出規制の強化を背景に、固形分70%以上の水性ハイソリッド低温焼成塗料が開発段階にあります。
高粘度でもスプレー塗装可能な新規分散技術が鍵となります。

バイオマス原料の活用

バイオマス由来アクリルモノマーや植物油変性ウレタンを採用し、低温焼成とカーボンニュートラルを同時に実現する研究が進んでいます。

デジタルプロセス統合

塗装ラインの温度プロファイルと塗膜乾燥度をIoTセンサーで可視化し、AIで最適制御する試みが加速しています。
これにより、エネルギー使用量のリアルタイム最小化が可能になります。

まとめ

低温焼成型塗料は、製造業の省エネルギー化と環境負荷低減を同時に達成できる革新的技術です。
樹脂設計、触媒、無機ハイブリッドなど多方面の材料技術が融合し、120℃以下で高品質な塗膜を形成できます。
その結果、乾燥炉の燃料・電力使用を大幅に削減し、CO₂排出量削減とコストメリットを提供します。
自動車、家電、建材など用途は拡大しており、今後は水性ハイソリッド化やバイオマス活用、デジタル制御との連携が進む見込みです。
塗装工程の省エネを検討する企業にとって、低温焼成型塗料の導入は競争力向上とサステナブル経営への近道になるといえます。

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