食品包装向けリサイクル可能バリアコーティングの開発と規制適合

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背景:食品包装に求められるサステナビリティ

世界的なプラスチック廃棄物問題の深刻化を受けて、食品業界では包装材料のリサイクル性向上が急務になっています。
従来の高機能包材は多層構造やアルミ蒸着を用いたものが多く、分別が難しいためにリサイクルルートに乗りにくい現状があります。
その結果、焼却あるいは埋立て処理が選択され、CO₂排出や資源ロスに繋がっています。
欧州グリーンディールや日本のプラスチック資源循環促進法では、2030年までにすべてのプラスチック包装をリユースまたはリサイクル可能にする目標が掲げられています。
この潮流を踏まえ、単一樹脂でありながら高い防湿・酸素バリア性を備えたリサイクル可能バリアコーティングの開発が加速しています。

バリアコーティングの基礎と従来技術の課題

食品の風味保持や酸化防止には、酸素透過度(OTR)と水蒸気透過度(WVTR)を極小化することが欠かせません。
従来はEVOH層やPVDC層を多層ラミネートで挟み込み、もしくはアルミ箔を貼り合わせることで高バリア性を確保してきました。
しかし、異種材料の混在はリサイクルの阻害要因となり、機械リサイクル時の品質低下や炭化残渣の問題を引き起こします。
さらに、特定フタル酸エステルやクロロ系重合体に対する規制強化により、残留モノマーや塩素を含む材料への懸念が高まっています。
このような背景から、単層構造で成膜でき、かつ化学的安全性が担保された水系バリアコーティングが注目されています。

リサイクル可能バリアコーティング開発の主要技術

モノマテリアル化を実現する水系コーティング

ポリオレフィンフィルム上に水系アクリルやポリエステル系のバリア層を直接塗布する技術が普及しています。
水分散体を用いることで有機溶剤を排除し、VOC排出量を低減できる利点があります。
また、乾燥後は母材と同一のポリオレフィン系組成となる設計が可能で、分別せずにリサイクルラインへ投入できます。

ナノコンポジットによる高バリア化

粘土鉱物やグラフェンオキシドを数十ナノメートルレベルで分散させると、迷路効果によりガス透過経路が長くなります。
これにより、厚み数ミクロンの薄膜でもOTRを10⁻¹ cc/m²·day以下に抑えることが報告されています。
分散均一性を高めるために、界面相溶化剤や超音波分散を組み合わせるプロセス開発が鍵となります。

生分解性高分子の応用

PLAやPBSに無機ナノフィラーを複合したバリアコーティングも研究が進んでいます。
コンポスト環境での分解性を維持しながら、冷菓やドライフードに必要な防湿性能を付与できます。
ただし、生分解性材料は耐熱性が低いため、ホットフィルやレトルト用途には追加改質が必要です。

規制動向と適合のポイント

食品接触材料に関する法体系

EUではフレームワーク規則(EU)1935/2004に基づき、プラスチック規則(EU)10/2011が適用されます。
日本では食品衛生法第18条に基づくポジティブリスト制度が2020年に全面施行されました。
バリアコーティングの原料は、溶出試験結果とともに収載物質であることを確認する必要があります。
特にナノ材料を用いる場合、EFSAは個別にナノ形態安全性データの提出を要求しています。

リサイクル適合性評価試験

APR(Association of Plastic Recyclers)やRecyClassが示すガイドラインに則り、粉砕・洗浄・ペレット化後の物性評価を行います。
黄変度、MFI変化率、ブラックスポット発生有無を評価し、既存リサイクルストリームへの影響を検証します。
水系コーティングの場合、70℃洗浄でもはがれ落ちず、再溶融時にガスブリスターを生じないことが合格条件となります。

グローバル規制への同時適合

多国籍ブランドオーナー向けには、FDA 21CFR、Mercosur GMC、CFDA GB 9685など複数の法規適合が求められます。
原料情報をサプライチェーンで共有する「デジタル製品パスポート」を活用すると、各地域の書類作成が効率化します。

開発・導入プロセスとLCAの活用

リサイクル可能設計の効果を定量化する手法として、ライフサイクルアセスメント(LCA)が必須になっています。
開発初期段階で原料採掘からエンドオブライフまでのCO₂排出量をモデル化することで、従来包材との比較優位が明確になります。
パイロットコーターで試作したフィルムを用いて、内容物充填後のフードロス率も併せて評価すると、総合的なサステナビリティ指標を可視化できます。

成功事例:ポリオレフィン系モノマテリアル包材への適用

国内大手スナック菓子メーカーでは、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルムに水系アクリルバリアを塗工し、三方シール袋へ加工する試みを実施しました。
結果として、OTRは2 cc/m²·day、WVTRは0.8 g/m²·dayを達成し、従来のEVOHラミネートと同等の品質保持期間を確保しました。
さらに、使用後包材のリサイクル試験では、HDPEのメカニカルリサイクル品に10%混合しても、引張強度の低下は5%以内にとどまりました。
この成功を受けて、年間約120トンの多層材使用削減と850トンのCO₂削減が見込まれています。

今後の展望と企業が取るべきアクション

2030年のリサイクル率目標達成には、素材開発だけでなく、分別インフラ整備と消費者教育が不可欠です。
企業はバリューチェーン全体で協働し、設計段階から「リサイクル容易性」を組み込むデザイン・フォー・リサイクルを推進する必要があります。
また、グリーン購入法やESG投資の評価項目として、低炭素材料の採用が注視されつつあります。
リサイクル可能バリアコーティングは、環境性能と商品保護を両立するキーソリューションとして、食品包装のスタンダードになるでしょう。
技術と規制対応を両輪で進め、市場への早期導入を図ることが企業価値向上の近道となります。

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