超撥油性塗料の開発と食品加工設備での適用

超撥油性塗料とは

超撥油性塗料は、油が接触しても玉状になって転がり落ちるほどの高い撥油性を備えた機能性コーティングです。
接触角が150度以上になるよう設計され、油脂分子が塗膜表面とほとんど相互作用しないため、汚れが付着しにくい特長があります。
食品加工設備で多発する油汚れの付着・酸化・焦げつきを抑制し、洗浄作業の負担を大幅に軽減できる点で注目されています。

開発の背景

食品加工ラインでは揚げ物工程や調理油ミストが発生する熱処理工程が多く、設備表面に油が堆積しやすいです。
油汚れは微生物増殖やアレルゲン交差汚染の温床となり、HACCP基準に基づく厳格な衛生管理を阻害します。
従来は高圧洗浄やアルカリ洗剤を頻繁に用いて対応していましたが、水・洗剤の使用量増大や作業時間の長期化、設備部品への腐食リスクが課題でした。
そこで、油自体を寄せ付けない「超撥油性塗料」の開発と適用が求められるようになりました。

超撥油性塗料の開発プロセス

材料選定

フッ素系樹脂やシリコーン樹脂を主体に、低表面エネルギーを実現するナノ粒子を分散させます。
食品接触部に使用するため、FDAや日本の食品衛生法に適合する原料のみを採用することが必須です。

表面構造設計

ロータス効果に着想を得て、マイクロ・ナノレベルの二重粗面構造を形成します。
これにより油の接触面積を極小化し、付着力を理論的に抑え込みます。

塗布・硬化技術

スプレー塗布やディッピング後、150〜200℃で熱硬化させるプロセスが一般的です。
ステンレスやアルミ材への密着性を高めるため、プライマー層を介在させる多層構造が採用されます。

性能評価と試験結果

開発段階では以下の指標で性能を評価します。

・接触角試験：新品状態で155度、耐摩耗後でも148度を維持。
・耐熱試験：200℃×2時間を50サイクル繰り返しても剥離なし。
・耐薬品試験：pH2〜12の洗剤に24時間浸漬しても外観変化が±1%以内。
・食品安全試験：溶出試験で重金属・有機揮発性物質が基準値以下。

これらの結果から、食品加工設備で長期間安定して使用できることが確認されました。

食品加工設備への適用事例

フライヤーの槽内壁

超撥油性塗料を施したフライヤーは、揚げ油の酸化生成物が壁面に固着しにくく、1日1回の簡易拭き取りで清潔性を維持できます。

コンベヤベルトのガイドレール

油性ソースが付着しても滑り落ちるため、製品裏面の汚染リスクが低減し、不良品率が3%から0.5%まで改善した事例があります。

包装機のヒートシールバー

フィルムに付着した油脂がバーに転写して焦げる問題を解決し、シール不良の発生頻度を月間20件から1件以下に抑制しました。

導入メリット

1. 衛生管理レベルの向上
2. 洗浄時間の50%短縮と水・洗剤使用量の40%削減
3. 生産ライン停止時間の短縮による稼働率向上
4. 洗剤による設備腐食の低減でメンテナンスコストを削減
5. SDGsに沿った環境負荷低減アピールが可能

実装時の課題と解決策

密着性の確保

高滑性ゆえに下地との密着性が課題となりますが、ショットブラストによるアンカー処理とプライマーのダブルアプローチで剥離率は0.1%未満まで低減できます。

規制対応

国や地域で要求される食品安全規格が異なるため、事前に認証取得済みの原料リストを整備し、ロット管理を徹底します。

コスト最適化

初期塗布コストはSUS研磨仕上げの1.5倍程度ですが、洗浄時間短縮による人件費削減で1年以内に投資回収が可能との試算結果が報告されています。

今後の展望

超撥油性塗料は今後、抗菌剤や耐指紋性能を組み合わせた多機能化が進むと予想されます。
また、IoTセンサーと連携して塗膜の劣化状態をリアルタイム監視し、最適タイミングで再コートするスマートメンテナンスも検討段階です。
省資源・省人化が求められる食品業界において、超撥油性塗料は持続可能な生産体制を支える重要技術として位置付けられています。

以上のように、超撥油性塗料の開発と食品加工設備での適用は、衛生管理と生産効率を同時に向上させる革新的ソリューションです。
導入にあたっては材料選定から規制対応まで多岐にわたる検討が必要ですが、得られるメリットは大きく、今後ますます普及が加速すると期待されています。