食品トレー用紙とバリアコート紙の違いと最新技術

食品トレー用紙とは

食品トレー用紙は、スーパーやコンビニエンスストアで見かける精肉・鮮魚・惣菜などのパック包装に使われる紙素材です。
一般的にはパルプを主原料とし、吸水性やクッション性を高めるために多孔質構造をもたせています。
プラスチック製トレーに代わる環境対応型包材として注目され、リサイクル性や生分解性を発揮できる点が強みです。
さらに印刷適性に優れているため、商品情報やブランドロゴを直接トレーに印刷しやすいというメリットもあります。

求められる機能

食品から出るドリップや油を短時間で吸収し、消費者が手にしたときにべたつきを感じさせない性能が求められます。
同時に、冷蔵・冷凍流通に耐えられる耐湿性と、陳列時の形状保持性も重要です。

従来素材との比較

発泡スチロールトレーは軽量で成形しやすい一方、焼却時に二酸化炭素や黒煙が発生しやすい欠点がありました。
食品トレー用紙は燃焼カロリーが低く、自治体の紙リサイクル回収にも乗せやすいことから、循環型社会に寄与すると評価されています。

バリアコート紙とは

バリアコート紙は、紙基材の表面に特殊コーティングを施し、酸素・水蒸気・油脂などの透過を抑える高機能包装材料です。
菓子・スナック・レトルト食品・コーヒー豆などの鮮度保持を目的に用いられ、プラスチックフィルムやアルミ箔を代替するケースが増えています。

コーティング技術の概要

高分子樹脂コート、無機系薄層バリア、シリカ蒸着、さらには水性分散バリアなど多彩な工法が存在します。
いずれも紙の風合いを活かしつつ、内容物を酸化や湿気から守るためのバリア層を形成するのが特徴です。

用途拡大の背景

プラスチック使用量削減への国内外の規制強化を受け、紙素材で高いバリア性を実現するニーズが急速に高まりました。
サプライチェーン全体でカーボンフットプリントを削減する取り組みが必須となり、バリアコート紙はプラ代替の切り札として採用が進んでいます。

食品トレー用紙とバリアコート紙の主な違い

吸収性と遮断性

食品トレー用紙は「吸収する」機能を最優先します。
血液や水分を取り込み、内容物の鮮度と見た目を保つために空隙率を高めています。
一方、バリアコート紙は「遮断する」機能を最優先し、ガスや水分子の侵入を防ぐために表面を非多孔質化します。
したがって両者は真逆の物性を追求している点が大きな違いです。

加工プロセス

食品トレー用紙は製紙工程で薬品や可食性接着剤を混抄し、多層抄紙やホットプレス成形で立体化します。
バリアコート紙は原紙に後加工としてコーティングやラミネートを施し、ロール形態で供給されます。

リサイクル適性

食品トレー用紙は基本的に単一素材で、繊維構造が保持されているため古紙として再生しやすいです。
バリアコート紙は高分子層や蒸着層が分離しにくい場合、リサイクルラインで歩留まりが課題となりますが、近年は水溶性コート剤の開発により脱離性が向上しています。

最新技術動向

セルロースナノファイバー（CNF）強化トレー

CNFはパルプ由来の微細繊維で、軽量かつ高強度です。
食品トレー用紙に数％添加するだけで、曲げ剛性が向上し、薄肉化による資源削減が可能になります。
またガスバリア性の向上にも寄与し、冷凍焼けの抑制効果が報告されています。

水性ディスパージョンバリア

バリアコート紙では、従来の溶剤型や押出ラミネート型PEコートを、水性ディスパージョン技術で置換する動きが加速しています。
アクリル系やEVOH系の微粒子を水中分散させ、紙表面に均一塗布・乾燥させることで、従来比50％以上のプラスチック削減に成功した事例があります。
水系処方のためVOC排出量が大幅に低減し、食品衛生法改正にも柔軟に対応できます。

組成分解型バリア層

海洋生分解性ポリマーやPHAを用いたバリア層が開発され、コンポスタブル規格（EN13432など）を取得する製品も現れています。
廃棄時に堆肥化処理へ直接投入できるため、リサイクルラインが未整備の地域でも環境負荷を抑制できます。

レーザーカットイージーオープン

バリアコート紙のパッケージ上にレーザーで微細な切れ目を入れ、開封性を高める技術も注目されています。
紙のしなやかさとバリア層の破断挙動を解析し、消費者の商品体験を向上させることが狙いです。

選定ポイントと導入のコツ

流通温度帯を確認する

常温・冷蔵・冷凍のいずれで輸送されるかにより、必要なバリア性や吸収性が変わります。
冷凍流通の場合、紙繊維内の水分凍結による割れを防ぐ耐低温剤の添加が有効です。

印刷・加工ラインとの整合性

紙厚や表面エネルギーが変わるとインク定着やヒートシール条件がシビアになります。
既存設備でテストロットを流し、ラインスピードや乾燥温度を最適化することが重要です。

環境認証の取得状況

FSC認証やPEFC認証のほか、バリア層が堆肥化可能であるかを証明するTÜV OK compost、バイオマス度を示すGreenPlaなど、エンドユーザーの要求仕様を満たす証明書の有無を確認しましょう。

今後の展望

食品トレー用紙とバリアコート紙は、それぞれが互いの機能を補完するハイブリッド化へ向かうと予測されます。
例えば、トレー部は高吸収の多孔質紙、上蓋は高バリアのコート紙という組み合わせにより、プラスチックフリーで総合的な包装性能を実現する動きが加速しています。

また、デジタルプリントやRFIDタグとの一体化により、トレーやパッケージ自体がサプライチェーン情報を発信するスマートパッケージ化も視野に入っています。
紙素材でも導電性インクやフレキシブルアンテナを実装できる技術が進み、トレーの賞味期限監視や温度履歴管理が可能になる日は遠くありません。

さらに、素材メーカーだけでなく、リサイクラーや自治体と連携したクローズドループ回収モデルの構築が不可欠です。
使用済み紙トレーを分別回収し、再び食品用原紙としてアップサイクルする取り組みが実証段階に入っています。

まとめ

食品トレー用紙は吸収性とクッション性で鮮度を守る「受け皿」、バリアコート紙は酸素・水蒸気を遮断し鮮度を保つ「盾」として、それぞれ異なる役割を果たします。
最新技術により、強度向上、バリア性向上、環境対応性が飛躍的に進化しており、今後は両素材を組み合わせたパッケージ設計が主流になると考えられます。
製品選定では流通条件、加工設備、環境認証を総合的に評価し、テストマーケティングで課題を抽出することが成功への鍵です。
持続可能な社会を実現するため、紙素材の可能性を最大化し、循環型パッケージングの新時代を切り開きましょう。