水性インクとオフセット印刷の適正用紙の違い

水性インクとオフセット印刷の適正用紙の違い

印刷物の品質を決める要素としてインクと用紙の相性は欠かせません。
同じデザインデータでも、使用するインクが水性か油性か、あるいは印刷方式がオフセットかによって、求められる用紙特性は大きく異なります。
この記事では、水性インク用紙とオフセット印刷用紙の違いを吸収性、コーティング、厚み、環境面などの観点から解説し、最適な用紙選定のポイントをまとめます。

水性インクとは

水性インクは主成分が水であるため、VOC（揮発性有機化合物）が少なく環境負荷が低い点が特徴です。
顔料タイプと染料タイプがあり、顔料は耐光性や耐水性に優れ、染料は発色性に優れます。
乾燥方式は主に水分の蒸発による自然乾燥か、ヒーターやUVランプによる強制乾燥です。
水が主成分であることから、インクが紙に浸透しやすく、用紙側に一定の吸収性が求められます。

オフセット印刷とは

オフセット印刷は、版からブランケット胴へインクを転写し、そのブランケットから用紙に転写する間接印刷方式です。
油性インクを用いることが一般的で、速乾性や面付けの自由度が高く、大量生産に向いています。
インク中の溶剤は酸化重合や浸透で乾燥するため、用紙にはコーティング層があったほうがインクが乗りやすく、網点の再現性も向上します。

水性インク用紙の特徴

高い吸収性が必須

水性インクは水が蒸発して定着するため、用紙がインクをある程度吸収しなければ乾燥時間が長くなります。
吸収性が高すぎるとにじみが発生するため、インクジェット専用紙では表面に微細多孔質のコーティングを施して吸収性と画質を両立させています。

多孔質コーティング

用紙表面にはシリカやアルミナなどの無機顔料とバインダーを組み合わせた層が形成されます。
これによりインク中の水分を素早く吸い込みつつ、顔料粒子を表面に留めることが可能です。
写真用の光沢紙ではレジンコートと合わせて平滑度を高め、光沢感と色鮮やかさを実現しています。

適した用途

家庭用インクジェットプリンタ、オンデマンド印刷機、パッケージ試作など多品種小ロットが中心です。
また顔料インクを使用したポスターや屋外サインでは耐候性が評価されています。

オフセット印刷用紙の特徴

平滑性とコーティング層

油性インクは顔料が大きく、インキローラーで強く圧搾されて紙に転写されます。
コート紙やアート紙のような平滑で白色度が高い用紙は、網点がつぶれにくく高精細な印刷が可能です。
マットコート紙は光沢を抑えつつもインキの発色を保ちたい場合に用いられます。

サイズ剤によるインクコントロール

非コート紙（上質紙など）では内部にサイズ剤を配合し、インクオイルの過度な浸透を防いでいます。
これにより裏抜けを軽減し、文字のエッジをシャープに保ちます。

適した用途

雑誌、カタログ、ポスター、パッケージなど大量印刷物全般で活躍します。
インキコストやスループットの面で経済性に優れ、色再現性も安定しています。

水性インク用紙とオフセット用紙の具体的な違い

インクの浸透メカニズム

水性インクは水分子がセルロース繊維間に入り込みながら乾燥します。
そのため用紙は繊維径や多孔質コートで適度なキャパシティを用意する必要があります。
一方、オフセットインキは油分が主で紙への浸透は限定的です。
インキ表面の樹脂が酸化重合し被膜を作ることで定着するため、用紙は表面強度と平滑度が重視されます。

裏抜け・にじみの対策

水性インクでは急速吸収が不可欠ですが、繊維間に拡散しすぎると裏抜けが発生します。
コート層で顔料を留め、厚紙で裏抜けを抑制する設計が一般的です。
オフセットでは油性インキが裏面まで染みるケースは稀ですが、低坪量紙ではショースルーとして透けが問題化します。

表面処理の違い

水性用紙のコートはインク受容層とも呼ばれ、粒径数十ナノメートルの微細孔が鍵を握ります。
オフセット用コート紙は顔料とバインダーを重ね、スーパーカレンダーで圧光し光沢を得ます。
目的がインク受容か光沢付与かで設計思想が大きく異なります。

用紙選定のチェックポイント

印刷方式別のテストプリント

機種やインクの組み合わせで結果は変わるため、本番前にテストプリントを行い発色、乾燥、耐摩を確認します。
水性インクの場合はインク量が増えると乾燥不足を招くため、濃度設定の微調整が重要です。

坪量と剛度

ポスターやパッケージでは厚みにより反りやカールが起こる場合があります。
水性インクは水分を含むため、薄紙では乾燥過程で波打ちやすく、坪量90g/㎡以上が推奨されます。
オフセットでは搬送性重視で70g/㎡程度から大量印刷できますが、パッケージなら250g/㎡以上が一般的です。

環境配慮

FSC認証紙や再生紙の採用により、企業のCSRやSDGs対応をアピールできます。
水性インクは環境面で優位なため、用紙も古紙配合率の高いものを選ぶと一貫性が高まります。
オフセットもノンVOCインキや植物油インキと組み合わせれば環境対応が可能です。

ケーススタディ：カタログ制作の場合

高精細画像が多い製品カタログを例に、両方式での用紙選定を比較します。
オフセット印刷では光沢コート90kgを選択すれば、シャープな網点と豊かな色再現で製品の質感を表現できます。
部数が1万部を超える場合もコストメリットがあります。
水性インクジェットでオンデマンド印刷する場合、マット調のインクジェット専用紙135kgを選ぶと落ち着いたトーンで高級感が出せます。
小ロットフルバリアブル印刷が必要な場合はこちらが有利です。

まとめ

水性インク用紙はインク受容性を高めた多孔質コーティングが核となり、吸収速度とにじみ抑制のバランスが重要です。
オフセット印刷用紙は平滑性と表面強度を重視し、光沢や網点再現に寄与するコート層が不可欠です。
印刷方式、発色、乾燥、環境要件、部数、コストを総合的に判断して適正用紙を選定することで、印刷物の品質と訴求力を最大化できます。
用紙サンプルを活用し、テスト結果を基に最適解を導き出すことが成功への近道です。