水性塗料の高耐久性化と建築市場での性能向上

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水性塗料が注目される背景

建築用塗料の主流は長らく溶剤型でしたが、VOC規制やSDGsへの機運が高まる中で水性塗料への置き換えが加速しています。
溶剤を使用しないことで作業環境を改善し、火災・中毒リスクを低減できる点は明確なメリットです。
一方で「耐久性は溶剤型に劣る」という固定観念が根強く残っていました。
近年、この弱点を克服する高耐久水性塗料が次々に上市され、外壁や屋根など高レベルの性能が要求される部位でも採用が拡大しています。

高耐久性を実現する主要技術

高耐久水性塗料の裏側では、樹脂設計から顔料・添加剤まで多角的な技術革新が進んでいます。

高分子量アクリルシリコン樹脂の開発

ベースとなるアクリル樹脂にシリコン骨格を導入し、架橋点を細かく制御することで高分子量化を図る手法が主流になっています。
架橋密度が高まると紫外線による主鎖切断が抑えられ、塗膜の柔軟性を維持しながら光沢保持率を大幅に向上できます。

フッ素・無機ハイブリッド化

フッ素樹脂は炭素–フッ素結合のエネルギーが高く、耐候性の指標であるΔE(色差)を長期にわたり低く保ちます。
しかしコストと硬化反応性が課題でした。
近年はフッ素をシリカネットワークに部分的に組み込むハイブリッド設計が採用され、コストを抑えつつ耐紫外線性を確保しています。

セラミック微粒子分散技術

ナノサイズの酸化チタンやシリカを樹脂中に均一分散させることで、塗膜内部で紫外線を散乱・遮蔽します。
分散が不十分だと光触媒反応で逆に塗膜が劣化するため、界面制御剤による被覆やpH最適化が鍵となります。

建築市場で求められる性能指標

設計者やゼネコンが採用可否を判断する際、カタログ値だけでなく実機環境でのデータが重視されます。

耐候性と光沢保持率

JIS K 5600に基づくサンシャインウェザーメータ試験が標準ですが、近年は沖縄・宮古島暴露試験の結果も要求されるケースが増えています。
光沢保持率80%以上を15年以上維持できるかが一つの目安です。

付着性とクラック追従性

高層建築では躯体の振動や熱伸縮が大きく、塗膜が下地と一体で伸びる能力が求められます。
JIS A 6909の可とう性試験で−20℃でも割れない設計が理想とされます。

防藻・防かび性

多湿地域では有機系防カビ剤が溶出すると長期保護が困難になります。
最近は無機系銀担持粒子をカプセル化し、長期に渡り徐放させる技術が採用されています。

高耐久水性塗料の採用メリット

耐用年数が延びることで塗り替え回数を削減でき、ライフサイクルコスト(LCC)は大幅に低減します。
また溶剤系に比べ乾燥中の臭気が少ないため、病院・学校・ホテルなど24時間稼働施設でも営業を止めずに施工可能です。
環境負荷低減を数値化したLCA報告書を提出するメーカーも増え、環境配慮型建築物の認証(LEED、BELS 等)取得に寄与します。

採用事例と市場動向

都市再開発で象徴的なのが、某都心オフィスの全面ガラスカーテンウォール裏面に高耐久水性クリアを適用した案件です。
従来は溶剤型フッ素クリアが必須でしたが、水系でも15年保証を実現し総工費を7%削減しました。
地方自治体では学校校舎の外壁塗装において「VOC排出量を従来比80%削減」という成果が報告され、全国に波及しています。
矢野経済研究所の調査では、建築用水性上塗り市場は2022年度比で2030年度に約1.4倍へ拡大する見込みです。
特に外断熱工法の普及や木造中高層の増加が追い風になっています。

今後の課題と展望

一つ目の課題は低温乾燥性です。
水性塗料は5℃以下での硬化が遅れ、白化や付着不良を招くリスクがあります。
防凍剤や早期架橋剤の開発が進んでいますが、施工マージンのさらなる拡大が必要です。

二つ目は着色自由度です。
有機顔料の光安定性が課題で、鮮やかな赤・紫系の長期耐候データが不足しています。
顔料表面処理や無機系高彩度顔料のコスト低減が鍵となります。

三つ目はCO₂排出量のさらなる削減です。
水性樹脂の製造プロセスは溶剤回収工程が不要な一方で乾燥工程のエネルギーが大きい傾向があります。
遠赤外線乾燥や光硬化型水性樹脂など、省エネプロセスへの移行が期待されます。

今後はAIとマテリアルインフォマティクスを活用し、樹脂、顔料、添加剤の組成最適化を高速化する動きが加速するでしょう。
高耐久水性塗料は環境負荷低減とLCC削減を両立するソリューションとして、建築市場での地位をさらに高めると予想されます。

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