家具の防火性能と耐火基準―商業施設向け製品の選定ポイント

商業施設に求められる防火対策の全体像

商業施設は不特定多数の来場者が長時間滞在するため、火災時の被害を最小限に抑えることが重要です。
出火要因の約3割は電気設備と内装材が占めるという統計があり、家具の防火性能は避難の成否を左右します。
また、商業施設はスプリンクラーや排煙設備を備えていても、可燃性の高い家具が燃えれば煙と有毒ガスの発生量が増加し、初期避難を阻害します。
そのため、家具を選定する段階で耐火基準を満たす製品を採用し、配置計画に防火区画を反映させることが不可欠です。

主な家具の耐火基準と関連法規

建築基準法・消防法の位置づけ

建築基準法では、内装制限として壁・天井に加え、可動家具も準不燃材料以上が求められるケースがあります。
消防法では、防炎規制により展示会場や百貨店売場面積が300平方メートルを超える場合、カーテンやパーティションだけでなく大型家具も防炎性能を証明する書類を備え付ける義務があります。

JISおよびISOの燃焼試験

日本産業規格（JIS A 1322）は室内装飾品の燃焼性試験を規定し、発熱量・炎の広がりを定量化します。
国際規格ISO 11925-2は小火試験、小さな炎を試料に当てて15秒以内の燃え広がり長さを測定し、不燃、準不燃、難燃の評価を行います。
これらの試験結果は設計段階の仕様書に添付することで、審査機関へ適合性を示すエビデンスとなります。

TB117とBIFMAの北米基準

海外ブランド家具を輸入する場合、米国カリフォルニア州のTB117-2013（ウレタンフォーム難燃性）や、BIFMA X5.7（公共施設用家具の安全基準）にも留意する必要があります。
日本国内の法規とは項目が異なるため、証明書類を相互認証できるか事前に確認するとリスク低減につながります。

材料別に見る防火性能の特徴

木材・合板

木材は可燃性が高いものの、厚みがあると表面が炭化層を形成し燃え広がりを抑える特性があります。
難燃加工を施した木材は薬剤含浸により発火点を上げ、煙量を2～3割削減すると報告されています。
しかし湿気や摩耗で薬剤が流失するため、5年ごとの再処理やサンプル試験で性能維持を確認することが推奨されます。

金属・ガラス

鋼材やアルミフレームは不燃材料として扱われ、耐火構造を計画する際に最も信頼性が高い選択肢です。
ただし金属は熱伝導率が高く、高温で強度が低下するため、耐火被覆材やエポキシ系耐火塗料を併用すると安全域が広がります。
ガラスはワイヤー入りや耐熱強化ガラスを採用することで、破裂防止と熱割れ抑制が可能です。

樹脂・ウレタンフォーム

ポリプロピレンやABSは加工性とデザイン性に優れますが、高熱時に滴下燃焼しやすく、有毒ガスを発生します。
難燃グレードの樹脂はハロゲン系添加剤を用いるのが一般的ですが、燃焼時に黒煙が増える点が課題です。
座面クッションに使われるウレタンフォームは、無機系難燃剤を練り込んだ高密度フォームが主流で、自己消火性に優れています。

メラミン化粧板・高圧ラミネート

メラミン化粧板は樹脂を含侵したクラフト紙を高圧熱硬化したもので、不燃性能は石膏ボードに匹敵します。
表面硬度が高くキズに強いため、フードコートやロビーのテーブル天板にも適しています。
ただし切断面の封止処理を怠ると、下地木質材が露出して燃え広がる恐れがあるため、エッジバンドで完全に被覆することが重要です。

商業施設での家具選定ポイント

用途と人流を踏まえたレイアウト

避難経路に沿ったベンチや什器は、転倒・移動しにくい重量と形状を選ぶことで、通路閉塞を防ぎます。
飲食ゾーンでは、油煙やアルコールが付着し着火点が下がるリスクを想定し、不燃素材の採用率を高めると安全です。

防火とデザイン両立のチェックリスト

1. 不燃・準不燃材料か
2. 難燃証明書（JIS・ISO）が添付されているか
3. 天板や背面の裏貼りまで難燃処理されているか
4. メンテナンス時に同等品で交換可能か
5. 色・テクスチャーがブランドイメージを損なわないか

これらをプロジェクト初期に整理し、建築設計者と共有することで、仕様変更による納期遅延を防ぎます。

コストとライフサイクル視点

難燃グレードの家具は初期コストが約15〜30％上昇するものの、火災保険料の割引や事故による休業損失を考慮すると、トータルコストは低減します。
ライフサイクルコスト分析（LCC）を用い、耐用年数10年で比較試算を行うと、難燃家具の方が約12％コスト優位となった事例もあります。

導入後に行うべき維持管理と運用

定期点検と再処理

難燃薬剤は摩耗や洗浄で徐々に脱落します。
半年に一度、試験片を採取して簡易燃焼試験を実施し、基準値を下回る場合は再処理や交換を行います。

スタッフ教育とマニュアル整備

店舗スタッフが日常清掃でシンナー系溶剤を使用すると、難燃コーティングが劣化する恐れがあります。
洗剤選定やメンテナンス手順をマニュアル化し、月次ミーティングで共有することで性能維持につながります。

ITを活用した資産管理

家具にRFIDタグを取り付け、設置日や難燃グレードをクラウドで一括管理すると、更新時期を自動通知できます。
防火性能を証明する書類を電子化して紐づけておくことで、消防査察時の提示が迅速になります。

まとめ

商業施設における家具の防火性能は、建築基準法や消防法に加え、JIS・ISO試験で裏付けられた耐火基準をクリアすることが前提です。
木材、金属、樹脂など素材ごとの特性を理解し、用途や人流に合わせて最適な製品を選定することで、火災リスクを大幅に低減できます。
また、難燃性能の維持には定期点検とスタッフ教育が欠かせません。
コスト面でもライフサイクル全体で見れば、難燃家具の導入は長期的な収益を守る投資となります。
防火性能を意識した家具選びを実践し、安全で魅力的な商業空間を実現しましょう。