水なし印刷とUV印刷の市場導入事例と適用分野

水なし印刷とUV印刷の基本概念

水なし印刷とは

水なし印刷は、その名のとおり湿し水を使用しないオフセット印刷方式です。
通常のオフセット印刷は版とブランケット間で水と油の反発を利用しますが、水なし印刷ではシリコーン層を持つ専用版を使い、インキ以外の液体を必要としません。
これにより用紙の伸縮が抑えられ、見当精度が高くなるほか、VOC（揮発性有機化合物）の削減、廃液ゼロなど環境負荷を大幅に軽減できます。

UV印刷とは

UV印刷は、UVインキを塗布後、紫外線（Ultra Violet）ランプで瞬時に硬化させる印刷方式です。
従来の油性インキと異なり乾燥を待つ必要がなく、用紙表面にインキが乗ったまま固化するため、光沢と耐摩耗性に優れます。
非吸収性素材であるフィルム、金属、合成紙などにも直接印刷できる点が特徴で、パッケージや特殊印刷の分野で採用が進んでいます。

技術的特徴とメリット・デメリット

水なし印刷の特徴

最大のメリットは環境適合性です。
湿し水に含まれるIPA（イソプロピルアルコール）が不要になり、VOC排出が約60〜90％削減されます。
また、水によるインキ乳化が起きないため網点がシャープになり、広色域で安定した刷りが得られます。
一方、専用版材や温度管理装置が必要となり、版コストや初期投資が高めになる点がデメリットです。

UV印刷の特徴

瞬間硬化により納期短縮と後加工の即時対応が可能です。
蒸発乾燥を前提としないため、油性インキで起こりやすいセットオフや裏移りがありません。
さらに高濃度発色が得られ、メタリック・蛍光など特殊インキのラインアップも豊富です。
ただし、UVランプやLED-UVシステムの導入コスト、オゾン・臭気対策、オペレーターの安全管理などが課題になります。

市場導入事例

国内事例

東京の商業印刷会社A社は、CSR活動の一環として水なし印刷を導入しました。
同社は自治体広報誌や学校案内を受託しており、「環境価値を付加した印刷物」として入札で優位性を確保。
導入後1年で公共案件の受注が20％増加し、CO₂排出量を年間35トン削減しました。

大阪のパッケージ印刷会社B社は、LED-UVオフセットを導入し、化粧品や高級菓子の箱を生産しています。
厚紙に高濃度インキをのせたままエンボスや箔押しへ直行できるため、リードタイムを従来比40％短縮。
高速硬化で粉体スプレーが不要となり、作業環境と製品歩留まりを同時に改善しました。

海外事例

ドイツの出版社C社は、雑誌印刷に水なし＋LED-UVのハイブリッドラインを構築しました。
紙ダストやVOCを最小化したことで、FSC認証に続きブルーエンジェル認証も取得し、欧州エコマーケットでの差別化に成功しています。

アメリカのラベル印刷会社D社は、プラスチックフィルム向けのフルUV輪転機を導入。
スリーブ交換による段替え時間が短く、年間6,000ジョブの少量多品種生産を実現。
食品包装規制（FDA）の低移行性インキを採用し、クラフトビール市場でシェアを拡大しました。

適用分野

パッケージ・ラベル分野

水なし印刷は細線の可読性に優れるため医薬品外箱や成分表示ラベルで採用例が多く、GMP対応工場では廃液レスが評価されています。
UV印刷は厚盛りニスや部分グロス加工との相性が良く、高級感を訴求した化粧品箱、酒類ラベル、食品トレーなどに広がっています。

商業印刷分野

カタログやポスターでは水なし印刷の高精細再現が活かされ、画質要求の高いアートブックや写真集でも採用が進みます。
短納期チラシやPOPはUV印刷の即乾性がメリットとなり、当日発送や店舗直送といった販促スキームに適合しています。

特殊用途・産業用途

クリーンルーム内での電子部品シート印刷や、医療デバイスのマーキングでは揮発溶剤を排除できる水なし印刷が安全面で重宝されています。
一方、UV印刷は室内装飾シート、スマホケース、クレジットカードなど非紙媒体へのダイレクト印字を可能にし、オンデマンド製造を後押ししています。

導入時のポイントと課題

水なし印刷では版温管理が品質を左右します。
冷却ローラーや恒温室で25〜28℃を維持し、インキ粘度変動を抑えることが重要です。
また、現像廃液は出ないものの専用版のリサイクルルート確立が必要です。

UV印刷はランニングコストの大半を占めるランプ電力をLED-UV化で削減できます。
LED-UVは瞬時点灯と長寿命が特徴ですが、インキ選定や波長マッチングに注意が必要です。
さらに、硬化不良を防ぐため照射強度管理と定期的な積算光量測定を行う体制づくりが欠かせません。

今後の市場展望

SDGsやカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中、水なし印刷は環境対応印刷の標準オプションとして認知が高まると予想されます。
国内では2025年の大阪・関西万博を契機に、自治体や公共インフラ関連の印刷物が水なし仕様へ切り替わる動きが見込まれます。

UV印刷はLED光源の高出力化とコストダウンに伴い、従来の中小印刷機でも採用しやすくなっています。
特にオンライン販促の伸長により少量多品種の需要が増える中、即乾性と広素材適性を武器に成長を続けるでしょう。
また、食品安全規制に対応した低移行性UVインキの開発が進み、フレキソやインクジェットとのハイブリッドラインも増加する見込みです。

両技術とも「環境」「高付加価値」「短納期」という市場ニーズを満たす点で親和性が高く、将来的には水なし印刷機にLED-UVを搭載した一体型ラインが主流になる可能性があります。
印刷会社は、その相互補完性を活かして設備導入と営業提案を組み合わせることで、競争優位を確立できるでしょう。