フレキソ印刷とグラビア印刷の市場シェアと技術進化

世界市場における軟包装印刷の潮流

近年のパッケージング需要はアジア新興国の人口増加とEC拡大を背景に右肩上がりです。
その中核を担う軟包装印刷ではフレキソ印刷とグラビア印刷が二大技術として君臨しています。
グローバル調査会社Smithersによると軟包装全体の印刷量は2022年時点で約5兆8000億平方メートルに達し、年率3〜4％で成長しています。
この巨大市場においてフレキソ印刷はシェア37％、グラビア印刷はシェア34％と拮抗しながらも地域や用途で色濃い特徴を示しています。

フレキソ印刷の市場シェア動向

北米と欧州で加速するフレキソシフト

北米では2022年時点で軟包装の56％がフレキソ印刷へ移行しました。
背景には無溶剤インキの採用や短納期対応のニーズがあります。
欧州でも食品安全規制の強化により水性フレキソインキが浸透し、2025年にはグラビアを抜くと予測されています。

アジア市場での追い上げ

アジア太平洋地域は依然としてグラビア優位ですが、中国やインドの大手パッケージャーがフレキソラインを導入し始め、2027年にはシェア30％に到達する見込みです。
これに伴いフレキソ用アナイロックスロールやフォトポリマープレートのサプライチェーンも急拡大しています。

グラビア印刷の市場シェア動向

高級包装分野での堅調な需要

グラビア印刷は連続階調表現とメタリック・ホログラム加工との親和性が高く、プレミアム菓子、アルコール飲料、化粧品包装で根強い支持があります。
日本国内では依然として軟包装の約60％がグラビアで印刷されており、医薬・食品向けでの溶剤型インキの管理ノウハウが競争力となっています。

新興国におけるコスト優位

設備投資額が大きいグラビアですが、高速機一台で長尺ロットを大量生産できるため、価格競争力を求めるASEANや南米ではシェア45％前後を維持しています。
ただし環境規制の遅れに依存する側面があり、VOC排出規制が強化されるとフレキソに置き換わるリスクをはらんでいます。

フレキソ印刷技術の進化

解像度向上とデジタルプロセス化

最新のフレキソプレートはダイレクトレーザー彫刻により200lpi相当の線数を実現します。
デジタルプレート露光装置の普及で製版時間が従来の半日から1時間へ短縮され、短納期・多品種対応が可能になりました。

環境負荷低減へのアプローチ

水性インキやEB硬化型インキの採用によりVOC排出量を90％削減できます。
同時に薄膜インキ転移技術とアナイロックスのセル容量最適化によりインキ使用量も20％削減できるため、サステナブル経営を掲げるブランドオーナーから評価が高まっています。

グラビア印刷技術の進化

シリンダー再生コストの圧縮

レーザーダイレクト彫刻機の導入によりシリンダー表面のクロムレス化が進み、再メッキ工程が不要となりました。
これによりシリンダー再生コストを従来比40％削減し、リードタイムも短縮しています。

高機能インキと複合加飾

グラビアは厚膜塗布が得意で、バリアコート、抗菌・抗ウイルスニス、感温性インキなど高機能材料の塗工プロセスとして進化しています。
ホログラムボス転写とのインライン化により高付加価値化が進み、ブランドプロテクション需要を取り込んでいます。

環境規制とサステナビリティ戦略

EUのPPWR、米国のExtended Producer Responsibility、そして日本のプラスチック資源循環促進法など、環境関連法の強化はどちらの印刷方式にも大きな影響を与えます。
フレキソ印刷は水性インキ比率70％超を達成でき、リサイクル適合性でも優位です。
一方、グラビア印刷は溶剤回収システムの高度化やバイオマス溶剤の採用で環境負荷を軽減していますが、設備投資・運用コスト増が課題となっています。

競争優位性と導入課題の比較

フレキソ印刷の強み・弱み

強みはプレート交換の迅速さ、低ランニングコスト、環境適合性です。
弱みは超精細グラデーション表現やメタリック厚膜コートの難易度が高い点です。

グラビア印刷の強み・弱み

強みは高濃度インキでの発色と再現性、長尺連続印刷での安定品質です。
弱みはシリンダー製造リードタイムの長さとVOC排出対策コストの高さです。

今後の市場予測と企業戦略

2030年までに世界の軟包装印刷市場は年間6兆7000億平方メートルに拡大すると予測されています。
フレキソ印刷は水性・EBインキ技術を武器にシェア45％へ伸長する一方、グラビア印刷はシェア30％前後まで縮小するものの高付加価値分野に特化し収益性を高めるシナリオが有力です。

設備メーカーはハイブリッド機の開発を加速し、一台でフレキソとグラビア双方のユニットを切替運用できるソリューションを提案しています。
資材メーカーは溶剤リサイクル技術や再生PET対応インキで循環型ビジネスを強化しています。

まとめ

フレキソ印刷とグラビア印刷はそれぞれ異なる強みを持ち、市場・用途・規制環境によって選択が分かれています。
今後は環境規制への対応力とデジタル製版による短納期化が競争軸となり、フレキソのシェア拡大が加速すると見込まれます。
しかしグラビア印刷も高級パッケージや機能性コーティング領域で不可欠な技術であり、両者の共存は続きます。
印刷会社は市場セグメントごとの付加価値と環境性能を見極め、最適なプロセスミックスを構築することが成長の鍵となるでしょう。