製紙業界の排水処理技術とゼロエミッションの取り組み

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製紙業界における排水の現状と課題

製紙業界は、大量の水を消費し、多種多様な排水を発生させる産業の一つです。
原材料であるパルプの洗浄や抄紙工程、漂白工程において膨大な水が使用され、その過程で化学物質、繊維、微生物、有機・無機物などが排水に含まれます。
特に漂白工程では塩素化合物やCOD(化学的酸素要求量)、BOD(生物学的酸素要求量)が高くなる傾向があり、適切な排水処理を実施しなければ環境への負荷が増大します。

水質汚濁防止法やPRTR法といった厳しい法規制もあり、製紙業界は排水の浄化対策に積極的に取り組む必要が高まっています。
同時に、企業の環境配慮姿勢も問われ、透明性のある情報開示とESG(環境・社会・ガバナンス)経営の観点からも排水問題への対応が求められています。

主な排水処理技術の概要

製紙業界で普及している代表的な排水処理技術には、以下のものがあります。

物理的処理

粗大な懸濁物(SS:Suspended Solid)を取り除くためにスクリーンや沈砂池、凝集沈殿池などが利用されます。
ここでは主に大きな繊維片やパルプの破片、砂利、ゴミなどが除去されます。

生物学的処理

製紙業界排水のBODやCODの多くは有機物によるものが中心で微生物による分解が有効です。
代表的な方式は活性汚泥法であり、曝気槽で微生物を増殖させ、有機物を分解します。
また、負荷の高い排水には接触曝気法や接触媒体を用いるバイオリアクターなども採用されます。

化学的処理

難分解性有機物や色素など、単独の生物処理では対応が難しい場合には、加えて化学的酸化(オゾン、過酸化水素、Fenton法)や吸着(活性炭等)が利用されます。
この段階では特定の有害物質、臭気、色度などがさらに低減されるメリットがあります。

高度処理・再利用技術

排水の再利用やさらなる浄化のため、膜分離法(MF、UF、RO膜)や高度酸化処理(AOPs:先進的酸化プロセス)、イオン交換樹脂などが活用されています。
特にRO膜を用いた再利用は、工場内でのクローズド・システムやゼロエミッションを実現する上でも有効です。

ゼロエミッションの定義と製紙業界の意義

ゼロエミッションとは、産業活動から生じる廃棄物や排出物をすべて資源として再利用し、最終的な排出をゼロに近づける取り組みです。
製紙産業においては、排水から得られる水の再利用、スラッジや回収セルロースの有効活用、そして他産業への副産物の供給など多角的なアプローチが進行しています。

この「ゼロエミッション」は、企業価値の向上やブランドイメージの強化のみならず、ESG投資の促進や新たなサーキュラー・エコノミー(循環型経済)ループの形成という観点で、重要な戦略となっています。

実際の取り組み事例

製紙業界では既に多くの企業が先進的な排水処理技術とゼロエミッションの取り組みを開始しています。

回収および再利用システム導入

各工程で使用された水を再利用するため、工場内におけるクローズド回路化が進んでいます。
高度な膜分離装置や逆浸透(RO)装置を使い、工程水として再利用される量を大幅に増やした事例も増加しています。
これにより新たな工業用水の取水量が80%以上削減された例もあります。

有用物質の副産物利用

排水の処理過程で発生する有機スラッジや回収セルロース、排水中のリグニン等を、肥料、飼料、バイオマス燃料として再利用する取り組みが進んでいます。
特にバイオマス発電所でのエネルギー源としての活用や、紙土壌改良剤としての提供ケースも実際に見られます。

施設全体でのゼロエミッション化達成企業

すでに国内外の大手製紙メーカーでは、工場からの最終的な排水ゼロ、廃棄物ゼロを達成し、工程水のほぼ100%をリサイクルする、いわゆる「閉鎖型システム」を実現した工場が誕生しています。
これらの工場では再生処理工程を多段階で設け、同時に発生熱も他工程で有効利用するなど、総合的なエネルギー循環型工場となっています。

今後の技術開発動向と課題

技術革新が進みつつある現状ですが、依然として解決すべき課題も少なくありません。

新規有害物質の問題

製紙排水には微量の難分解性有機物、マイクロプラスチック、吸着性有機フッ素化合物(PFAS)など新たな知見による汚染物質も含まれることが明らかになってきています。
これらの高度処理・無害化が今後は求められています。

エネルギーコストとCO2排出

生物処理や高度化学処理、膜処理の導入に伴い、運転エネルギーやCO2排出が増加する傾向も課題です。
効率の良い省エネ型曝気システム、再生可能エネルギーとの連携が将来的にはますます重要になります。

地域資源循環と産業連携

副産物や排水中の回収物質の多様な用途開発とともに、農業や建設業など他産業との連携が進むことで、真の地域資源循環型社会の構築が期待されます。
今後は自治体レベルでの産廃物統合活用スキームも必要です。

まとめ:サステナブルな製紙産業に向けて

製紙業界では、省水、省エネルギー、排水再利用技術が加速度的に進化しつつあります。
ゼロエミッション達成の事例も増加し、ただの法令遵守やコストダウンだけでなく、持続可能な社会基盤形成を担う産業への転換が求められます。

近年は消費者意識の高まりを受け、ESGやSDGs(持続可能な開発目標)に基づく経営が重視され、環境付加価値の高い紙製品にも注目が集まっています。
今後も排水処理の技術革新と産業連携により、経済成長と環境保全の調和が実現する製紙業界の未来を期待できるでしょう。

持続可能な製紙産業を支えるためには、最新技術の積極的導入と、排水ゼロ・廃棄物ゼロという目標の達成に向け、業界全体で努力を続けることが重要です。

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