金属粉末射出成形における脱脂工程の欠陥対策と改善例
金属粉末射出成形における脱脂工程とは
金属粉末射出成形(MIM: Metal Injection Molding)は、精密な金属部品を大量生産するための画期的な加工技術です。
このプロセスは、プラスチック射出成形と似た工程でありながら、最終的に金属製品を得るために用いられています。
金属粉末射出成形の主な工程は、フィードストックの調製、射出成形、脱脂、焼結の順に進みます。
この中でも「脱脂工程」は、成形体からバインダー成分(樹脂)を除去し、純粋な金属粉末体へと変換する重要なステップです。
脱脂が不完全だと、焼結中に欠陥が生じやすく、最終製品の品質に大きな影響を及ぼします。
脱脂工程で発生する主な欠陥
脱脂工程は、MIMプロセス全体の中で最もデリケートな工程のひとつです。
この段階で発生しうる主な欠陥には、以下のようなものがあります。
形状崩れ(歪み)
脱脂中に形状が崩れたり歪みが発生することがあります。
これは、バインダー除去によって緻密なネットワークが失われ、成形体が自重や熱応力で変形するためです。
割れやクラック
急速な脱脂や局所的なバインダー除去が進行すると、内部で応力が発生し、クラックや割れが生じやすくなります。
脱脂不足
バインダーの除去が不十分なまま次工程に進むと、焼結時にガスが発生したり、ピンホールや膨張、発泡欠陥の原因となります。
成分の偏析
脱脂過程で部分的にバインダー残留が生じると、金属粉末の密度や化学組成に偏りが出て、焼結時に収縮ムラや機械特性の低下が懸念されます。
脱脂欠陥の原因
脱脂工程の欠陥には、原材料、成形条件、脱脂条件など様々な要因が絡み合っています。
バインダー組成の不適合
金属粉末とバインダーの相性が悪い場合や、バインダーの種類や比率が不適切だと、脱脂性や成形体の強度に問題が生じやすくなります。
成形体の形状やサイズ
複雑な形状や大型部品では、脱脂ガスや溶剤が内部まで均一に到達しにくく、脱脂ムラが生じやすくなります。
脱脂速度のコントロール不良
温度上昇が急すぎる、脱脂溶剤の流速が速すぎる場合、成形体内部での圧力変化によってクラックや膨張が起こることがあります。
雰囲気管理の不十分さ
酸素や湿度の管理がされていないと、金属粉末の表面酸化や脱脂の不均一が顕在化する場合があります。
脱脂欠陥の対策法
脱脂工程の安定化、欠陥防止のためには、材料選定からプロセス管理まで多角的な対策が必要です。
バインダー配合の最適化
MIM用バインダーは、主に主成分(主バインダー)と補助成分(可塑剤や界面活性剤)から成ります。
主成分は成形体に強度を付与し、補助成分は脱脂性や流動性の向上に寄与します。
適切な配合比によって、成形体の脱脂性と強度をバランス良く制御できます。
成形体設計の工夫
脱脂しやすい肉抜き形状やベント(排気用の細孔)を設けることで、脱脂ガスや溶剤が成形体内部まで浸透しやすくなり、脱脂時間の短縮や欠陥防止に効果的です。
脱脂条件の最適化
脱脂温度の上昇速度を緩やかにし、徐々にバインダー成分を除去することが重要です。
また、積み重ね脱脂を避けてワークを1段で並べる、脱脂溶剤の新鮮なものを使用する、溶剤交換を頻繁に行うことでムラを防ぎます。
雰囲気管理の徹底
脱脂雰囲気としては、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気がよく用いられます。
酸素濃度、湿度、ガス流量などパラメータを監視・制御することで、不要な酸化や脱脂反応のばらつきを抑制できます。
脱脂方式ごとの欠陥対策
MIMの脱脂方式には主に、熱分解脱脂、溶剤脱脂、触媒脱脂があります。
それぞれの方式ごとの対策を見ていきます。
熱分解脱脂のポイント
加熱速度を段階的に設定し、初期脱脂では低温(200〜300℃)でゆっくり加熱します。
ガス抜きを十分にして、内部圧力の急激な上昇を防ぎます。
脱脂炉内のワーク間隔確保、温度分布均一化も必須です。
溶剤脱脂のポイント
溶剤の種類(例えばヘキサンやエタノール等)や温度・濃度を制御し、成形体が溶剤中に長時間滞留しすぎないように注意します。
定期的な溶剤の交換、新鮮な溶剤使用でバインダーの完全溶解除去を図ります。
触媒脱脂のポイント
触媒(酸性ガス等)の濃度や流速、反応温度の管理が重要です。
触媒供給が偏在すると脱脂ムラの原因となるため、均一な雰囲気確保を心掛けます。
実際の改善例の紹介
脱脂工程のトラブルに対して、現場レベルでは以下のような改善事例が報告されています。
クラック対策としての脱脂温度プログラム改良
あるMIMメーカーでは、形状崩れやクラックが頻発していました。
そこで、段間ごとに加熱速度を細かく制御し、初期脱脂では極めて低温から徐々に昇温、バインダーが軟化・流動する温度域を長めに確保しました。
この結果、クラック発生率が90%以上低減しました。
脱脂不足へのベント孔追加対応
大型部品の中央部で脱脂不足が報告されていた現場では、モデル設計変更で肉抜き形状とベント孔を設けました。
これにより、内部構造にも効率よく溶剤やガスが到達でき、脱脂完全率が向上しました。
バインダー組成変更による残留バインダー対策
従来はポリエチレン系バインダーを用いていたが、温度依存性の高いポリオレフィン系補助バインダーに一部変更しました。
これにより脱脂開始温度が明確になり、バインダーの除去プロファイルが安定化、残留量が半減しました。
今後の脱脂工程の技術動向
脱脂工程は、工程の完全自動化やスマートファクトリー化に伴い、ますます高度な制御技術と最適化が期待されています。
AI・IoTを活用した脱脂温度やガス濃度のリアルタイム監視システムの導入例も増えてきました。
また、環境負荷低減の観点から、廃溶剤回収システムや触媒再利用技術なども研究開発が進められています。
バイオ由来の環境対応型バインダーや新しい脱脂方式(超音波アシスト、プラズマ脱脂等)も登場しつつあります。
まとめ
金属粉末射出成形における脱脂工程は、製品品質の根幹を支える重要なプロセスです。
バインダーの完全除去を実現しながら、形状安定性や歩留まり向上を両立するためには、多様な対策と現場ごとの細かな最適化が不可欠です。
現状のプロセスを的確に把握し、バインダーや設計、脱脂雰囲気やプロセス制御まで包括的に取り組むことで、MIM製品の品質向上や効率化が着実に図れます。
今回紹介した欠陥・対策事例を参考にしながら、貴社の脱脂工程改善にお役立てください。