ポリウレタン(PU)とアクリル樹脂の接着性比較と選定方法【業界向け】

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ポリウレタンとアクリル樹脂の基礎特性

ポリウレタン(PU)は、軟質フォームからエラストマーまで幅広い硬度を持つ熱可塑性・熱硬化性樹脂です。
柔軟性、耐摩耗性、耐油性に優れ、自動車内装材や靴底、シール材などに多用されます。
一方、アクリル樹脂は透明性、耐候性、耐薬品性が高く、光学部品や建築外装、塗料バインダーに用いられます。
PUは分子中にウレタン結合(-NHCOO-)を、アクリル樹脂はエステル結合(-COO-)を有し、極性やガラス転移温度(Tg)が異なるため、接着挙動にも顕著な差が生じます。

接着メカニズムの違い

極性と表面エネルギー

PUは中程度の極性を持ち、表面エネルギーは36~42 mN/mです。
アクリル樹脂はエステル基由来の高極性により38~46 mN/mとやや高く、極性溶剤や水系接着剤とも相性が良い傾向にあります。

分子鎖の可動性

軟質PUは低Tg(-40 ℃前後)で分子鎖が柔らかく、接着界面でウェッティングしやすい反面、温度上昇で流動しやすいという欠点があります。
アクリル樹脂はTgが50~105 ℃と高く、接着剤硬化後の寸法安定性に優れますが、低温域では脆性破壊のリスクが高まります。

化学的相溶性

PUはポリオールとイソシアネートから構成されるため、水酸基やイソシアネート基を含む反応形接着剤とケミカルボンドを形成しやすいです。
アクリル樹脂はカルボニル基が中心で、ラジカル重合型やエポキシ系接着剤との相溶性が良好です。

ポリウレタンの接着性評価

密着性の優位点

・可撓性が高く、衝撃吸収性に優れるため層間剥離を抑制できる。
・含水率が低く、湿潤環境でも加水分解しにくいグレードを選択可能。

課題と対策

・ホットメルトPUでは初期タックが不足しやすい。
 ▶表面温度を60 ℃以上に保つか、プライマーで濡れ性を改善する。
・可塑剤移行による接着劣化。
 ▶可塑剤フリーPU、遮断層コーティングの採用で耐久性を向上。

アクリル樹脂の接着性評価

密着性の優位点

・UV硬化型アクリル接着剤との化学的親和性が高い。
・透明性を活かし、光学デバイスで無色クリア接着が可能。

課題と対策

・高Tgグレードは低温衝撃でクラックが入りやすい。
 ▶柔軟性付与型アクリル接着剤(ブタジエン変性など)を併用する。
・表面が疎水化処理されている場合、濡れ性不足。
 ▶プラズマ処理やコロナ放電で表面エネルギーを引き上げる。

接着剤選定のポイント

化学反応型 vs 物理吸着型

PU基材の場合、イソシアネート末端型ウレタン樹脂やエポキシ-ポリスルフィドハイブリッド系が好相性です。
アクリル基材では、2液硬化型アクリル接着剤、光硬化型アクリレートモノマーが高い密着強度を示します。

硬化収縮と応力分散

硬化収縮率が高いと界面剥離を誘発します。
PUのように柔軟な基材では低弾性接着剤を選び、応力集中を緩和することで耐衝撃性を確保します。
アクリル樹脂では被着体側が硬い場合が多く、接着剤層を厚め(150 µm前後)に設定し応力を分散させるのが効果的です。

耐環境性

自動車外装や建材用途では、紫外線・温湿度サイクル試験に耐える必要があります。
PUは光劣化で黄変しやすいため、光安定剤添加接着剤を推奨します。
アクリル樹脂はUVに強いものの、溶剤クラックを生じやすいため、低揮発性または水系接着剤が望ましいです。

表面処理・前処理方法

物理処理

・サンディング:粗さ#400程度で機械的咬み合わせを付与。
・ブラスティング:高荷重部品で高粗度が必要な際に有効。

化学処理

・プラズマ処理:表面エネルギーを20~30 %向上。
・コロナ放電:ロールtoロール製造ラインで量産対応可能。
・プライマー塗布:イソシアネートプライマー(PU向け)、クロメートプライマー(アクリル向け)など。

洗浄

イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂し、ホコリ・離型剤を除去するだけでも剥離強度は1.5倍以上改善すると報告されています。

試験方法と評価指標

せん断接着強度

ASTM D1002、JIS K6850に準拠し、プライムサンプル寸法を考慮して試験します。
PUは柔軟性があるため、接着剤だけでなく基材破壊モード(CF)が理想です。
アクリル樹脂では接着層破壊(AF)になりやすいので、引張剪断強度8 MPa以上が目安となります。

Tピール試験

薄膜ラミネートやフィルム材ではASTM D1876により180°ピール強度を評価します。
PUフィルムは30 N/25 mm以上、アクリルフィルムは20 N/25 mm以上が実用レベルとされています。

耐久試験

・温湿度サイクル:-40 ℃/+85 ℃、相対湿度95 %で500 h。
・塩水噴霧:5 %NaCl、35 ℃、240 h。
・紫外線暴露:QUV 340 nm、0.68 W/m²、1000 h。
これらに合格することで、屋外10年相当の耐候性を担保できます。

実装事例

自動車インパネのソフトフィール部材

PUフォームとABS基材をポリウレタン反応型ホットメルト(RHM)で接着。
プラズマ処理併用でせん断強度を6.5 MPa → 11.2 MPaに向上し、クリープ試験1000 h無剥離を達成しました。

建築用透明パネルの積層

キャストアクリル板をUV硬化型アクリレート接着剤でラミネートし、光学歪みを1 µm以下に抑制。
紫外線4000 h曝露後でも黄変ΔYI 1.2と、高い耐候性を確認しました。

ウェアラブルデバイスのパッキン接着

TPUガスケットとガラスカバーをシリル基改質ポリウレタン接着剤で封止。
90°ピール強度は20 N/25 mmを維持しつつ、IP68防水規格をクリアしました。

まとめ

ポリウレタンとアクリル樹脂は用途・物性が大きく異なるため、接着性も一様ではありません。
PUは柔軟性と反応性を活かし、イソシアネート型や低弾性接着剤で高い密着性を得られます。
アクリル樹脂は高極性と透明性を活かし、UV硬化型や2液型アクリル接着剤で優れた光学特性と耐候性を確保できます。
選定時は①化学的相溶性、②硬化後弾性率、③耐環境性、④生産性(硬化時間・VOC)を総合的に評価することが重要です。
表面処理ではプラズマ、コロナ、プライマーを組み合わせることで接着強度を大幅に改善できます。
最終的には実機条件での耐久試験を行い、基材破壊を目標に設計することで長期信頼性を担保できます。
本記事を参考に、用途に最適な接着剤と前処理を選定し、高品質な製品開発にお役立てください。

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