印刷用紙の環境適合認証（FSC、PEFC）と市場の動向

環境適合認証とは何か

印刷用紙の環境適合認証は、森林資源を持続可能に利用し、環境・社会・経済のバランスを図ることを目的とした第三者認証制度です。
代表的な認証にFSC（Forest Stewardship Council）とPEFC（Programme for the Endorsement of Forest Certification）があり、両者とも森林の管理や原材料のトレーサビリティを厳格に審査します。
この認証を受けた用紙は「認証紙」と呼ばれ、印刷物にロゴを表示することで、持続可能性への取り組みを対外的にアピールできます。

FSCとPEFCの共通点と相違点

FSCもPEFCも、森林を伐採する際に再植林や生物多様性の保護、地域社会への配慮などを求める点では共通しています。
違いは制度設計のアプローチにあります。
FSCは国際本部が定めた10の原則に基づき、世界共通のルールを適用するトップダウン型です。
一方、PEFCは各国の森林認証制度を相互承認するボトムアップ型で、地域ごとの実情に合わせやすい柔軟性があります。

印刷業界で求められる背景

環境配慮型社会の実現に向け、企業はサプライチェーン全体でCO2排出や資源利用を見える化することが求められています。
印刷物は大量の紙を使用するため、森林破壊や気候変動への影響が注目される分野です。
そのため、広告やパッケージを発注する企業が「認証紙であること」を条件に入札するケースが増えています。
加えて、SDGsやESG投資の観点から株主や投資家が情報開示を求めるため、印刷会社や紙商社も認証取得を急いでいます。

認証取得のプロセスとコスト

認証紙として流通するには、森林管理認証（FM）と加工・流通過程のCoC（Chain of Custody）認証の両方が必要です。
印刷会社が必要なのは主にCoC認証で、認証を保持するには以下のステップを踏みます。

1. 社内体制の整備

担当部署を設置し、仕入れから在庫管理、製造、納品までの書類管理を標準化します。
トレーサビリティを確保するため、認証製品と非認証製品を明確に分ける仕組みが必要です。

2. 審査機関による現地監査

第三者機関が帳票・現場を確認し、ルールが遵守されているかを評価します。
初回監査に合格すると認証番号が付与され、認証ロゴを使用できます。

3. 維持審査と更新

年1回のサーベイランス監査と、5年ごとの更新監査が義務付けられます。
審査費用は会社規模によって異なりますが、数十万～数百万円が目安です。
しかし、環境配慮を重視する顧客からの受注増加により、投資回収が見込めるケースが多いです。

認証紙を採用するメリット

1. 差別化とブランド価値向上
消費者の環境意識が高まり、「エコな商品」を選ぶ傾向が強まっています。
認証ロゴを印刷物に掲示することで、他社との差別化につながります。

2. 企業リスクの低減
違法伐採由来の紙を使用した場合、ブランドイメージの毀損や取引停止リスクがあります。
第三者認証はコンプライアンス体制を示す有効な証左です。

3. サステナビリティ報告書への活用
CSRレポートや統合報告書で具体的な環境施策として提示できるため、投資家との対話が円滑になります。

市場動向と統計データ

国際環境NGOによると、2023年時点でFSC認証林は世界で約2億ヘクタール、PEFC認証林は約3億ヘクタールに達しました。
日本国内のFSC CoC認証取得企業は2,000社を超え、印刷・製紙・流通分野が大半を占めています。
国内の印刷用紙総需要は減少傾向にある一方、認証紙の需要は前年比10%以上の成長を見せています。
特に商業印刷・出版向けよりも、化粧品や食品パッケージ向けの採用が顕著です。

デジタル化と紙需要の関係

電子媒体への移行で紙の総量は減少していますが、残る紙需要は付加価値化が進んでいます。
その象徴が環境対応であり、「少量でも質を高める」方向へシフトしています。
結果として、非認証紙と比べて7〜12%高い単価でも認証紙が選ばれるケースが増えています。

今後のトレンド予測

1. バイオマスインキや非木材パルプとの複合提案
印刷会社は紙だけでなく、インキや製造工程の電力にも再生可能エネルギーを導入し、総合的なカーボンフットプリント削減を訴求する流れが加速します。

2. 政策面での後押し
EUではデューデリジェンス規則が強化され、違法伐採リスクの高い木材を排除する動きが進んでいます。
これに追随する形で日本政府もグリーン購入法の見直しを検討しており、公共調達で認証紙が必須となる可能性があります。

3. ブロックチェーンによるトレーサビリティ強化
デジタル台帳を用いた原材料追跡が試験導入され、透明性が一層高まる見込みです。
偽装リスクが低減されることで、認証価値がさらに向上します。

企業が取るべきアクション

1. 早期のCoC認証取得
導入社数が増えるほど差別化効果は薄れるため、先行取得が有利です。

2. サプライヤーとの連携
紙商社や製紙メーカーと協力し、安定供給体制を構築することが重要です。
売れ筋銘柄や在庫情報を共有し、欠品リスクを最小化します。

3. 社内外への情報発信
ウェブサイトやSNSで認証取得を告知し、クライアントに具体的な環境メリットを提示します。
営業資料にCO2削減量の試算を加えると説得力が高まります。

まとめ

印刷用紙の環境適合認証であるFSCとPEFCは、持続可能な森林経営を推進しつつ、企業のブランド価値を高める有効な手段です。
市場では認証紙の需要が年々拡大し、政策動向や投資家の関心から今後も成長が見込まれます。
印刷業界は認証取得を入り口に、サステナブル素材や再生エネルギーまで視野を広げ、総合的な環境戦略を推進することが求められます。
早期に対応することで、グリーン市場での競争優位を確立できるでしょう。