日本の森林政策と林業の持続可能な発展に向けた課題

日本の森林政策の現状と意義

日本は国土の約67％が森林で覆われており、世界有数の森林大国です。
この豊かな森林資源は、生物多様性の保全、水源涵養、地球温暖化防止、木材供給、レクリエーションの場の提供など、多岐にわたる機能を果たしています。
その一方で、戦後の拡大造林政策によって人工林が増加し、林業の衰退や高齢化、森林の荒廃といった新たな課題も浮上しています。
こうした背景から、日本の森林政策は国土保全や資源利用のみならず、持続可能性や多面的機能の維持を重視する方向へと転換してきました。

特に、1992年の地球サミット以降、持続可能な森林経営（SFM：Sustainable Forest Management）の理念が国際的にも強まっています。
日本でも「森林・林業基本法」（2001年施行）をはじめとする法制度を整備し、環境保全と経済利用の両立を目指した政策へと進化しています。

日本の森林政策の主な枠組み

森林・林業基本計画

国の最上位計画である「森林・林業基本計画」は、5年ごとに見直され、森林・林業施策の方向性を示しています。
この計画では、森林の有する多面的機能の発揮、木材の安定供給体制の強化、林業の成長産業化、山村地域の振興などを柱としています。

森林環境譲与税と森林整備推進

2019年度から導入された森林環境譲与税制度により、地方自治体の森林整備活動への財源が充実しました。
これによって間伐や路網整備、山主への支援などが進められています。
一方で、自治体による森林管理の人材やノウハウの不足といった課題もあります。

林業成長産業化とスマート林業

国産材の需要拡大・供給力向上を目指し、ICTやロボット技術を活用した「スマート林業」や、流通・加工の効率化、CLT（直交集成板）などの新技術の普及も推進されています。
持続可能なサプライチェーンの構築とともに、地元での雇用創出や地域活性化も目指されています。

日本の林業の現状

木材自給率の推移と課題

日本の木材自給率は、戦後60％台から一時は2割以下にまで低下しました。
現在では国産材利用促進政策の効果もあり、2023年度には約4割まで回復しています。
しかし依然として輸入材への依存度は高く、需給バランスや国産材の競争力強化が課題です。

経営者の高齢化と担い手不足

もう一つ深刻なのは、山主や林業労働者の高齢化と担い手不足です。
所有者不明森林や相続・売買の困難、複雑な所有形態が管理・整備の妨げとなっています。
若年層の参入や、女性・多様な人材の参加促進、労働安全衛生の確保など、“林業の魅力”向上も求められています。

放置林と森林荒廃

手入れされない人工林（放置林）の増加も深刻です。
間伐や下刈りが行き届かず、台風・大雨による倒木や土砂災害のリスクが高まります。
また、生物多様性低下や景観悪化、二酸化炭素吸収力の低下にもつながります。

持続可能な発展に向けた課題

1. 森林管理・整備の再構築

森林の持続的な管理には、所有者の意欲や資金だけでなく、地域ぐるみで取り組む体制が不可欠です。
いわゆる「新たな森林管理システム」では、意欲がない山主から市町村が経営管理を受託し、適正な整備・利用につなげる仕組みが試行されています。
しかし、自治体や現場の担い手の不足、所有情報の不備、意思疎通の難しさなど解決すべき問題も多く残ります。

2. サプライチェーンと国産材利用拡大

林業経営の安定化と持続可能性には、安定した木材需要の確保が欠かせません。
公共建築物の木造化・木質化や、CLT・バイオマス発電など新たな用途の開拓、輸出促進も重要です。
また、JAS認証などによる品質保証や、再エネ政策と連動したバイオマス利用の拡大も今後の焦点となります。

3. 生物多様性と多面的機能の維持

森林の持つ機能は木材生産のみならず、防災や水源涵養、生物多様性の保全など多面的です。
絶滅危惧種の保護、里山再生、自然公園の管理、都市と森林の多角的な連携など、複合的な視点で政策を展開する必要があります。
地域住民やNPO、企業など多様な主体による森林管理も期待されます。

4. スマート林業とICT活用

省力化・効率化につながるドローンやGIS、リモートセンシングなどの最新技術の導入は急務です。
また、AIによる需要予測や作業計画、IOTによる作業の見える化、マーケティングの高度化も求められています。
こうしたデジタル林業は、若手人材の獲得にも寄与すると期待されています。

今後の展望と持続可能な林業への道

日本の森林政策と林業の持続可能な発展には、経済性・環境性・社会性の調和が欠かせません。
今後は以下のような多角的な取り組みが求められます。

まず、林業の経営基盤の強化のためには、木材価格の安定と需要拡大、流通・加工体制の整備が不可欠です。
国産材ブランドの浸透や、木の文化の継承、地元のエコ建材としてのPRを進めることで持続的な事業が期待できます。

また、所有者不明森林や小規模所有の問題には、林地台帳の整備や地籍調査の推進、山主への啓発・相談体制の充実が効果的です。
さらに補助金や税制優遇による新規参入支援、女性・若者をターゲットにした研修・安全対策、林業労働のイメージ一新も重要です。

森林の環境機能を高めるためには、針葉樹偏重から広葉樹交じりの多様な林相への転換、自然林の維持・再生、外来種問題や獣害対策も必要です。
多様な主体による「森づくり」に加え、都市住民の参加や企業のCSR活動、森林浴・レクリエーションの推進など、社会全体を巻き込む仕組みが今後のカギとなるでしょう。

まとめ

日本の森林と林業は、多面的に重要な価値を有していますが、その持続的な発展には今なお多くの課題が横たわっています。
国や自治体の政策強化、地域ぐるみの管理体制、ICT・新技術の導入、需要拡大とブランド化、人材確保、環境保全など、総合的で一体的な取り組みが不可欠です。
今後も社会全体が森林の価値と役割を再認識し、地域と共に歩む「持続可能な森林・林業」の実現を目指すことが、国土と次世代のためにますます重要となるでしょう。