投稿日:2025年8月8日

輸入調達の通関情報連携でリードタイムを7日短縮した国際物流デジタル化施策

はじめに:なぜ国際物流デジタル化が必要なのか

2024年現在、製造業を取り巻く国際物流の環境は目まぐるしく変化しています。
原材料や部品の調達先が多様化し、遠く海外の工場から商品やパーツを安定的、かつ迅速に調達することが、競争力強化のカギになっています。
これまでのアナログ的な調達・通関フローでは、さまざまな手戻りや確認作業が発生し、想定よりもリードタイムが長くなってしまう問題がありました。
現場感覚では「あと3日早く届けば生産計画がずれなかったのに」「通関書類のやり取りだけで半日つぶれる」といった機会損失が日常茶飯事です。

この記事では、実際にリードタイムを7日短縮したデジタル化事例をベースに、国際物流における通関情報連携の重要性と、デジタル化推進の具体策について、昭和的なアナログ現場の文化に悩みながらも実践的に乗り越えた現場目線で解説します。

多くの製造業が抱える国際調達・輸入通関の「7つの壁」

1. アナログ書類処理の弊害

インボイスやパッキングリスト、B/L(船荷証券)など、多くの通関書類が「手書き」「FAX」「紙PDF」の形でやり取りされ、担当者が確認・入力・ファイリングに追われています。
何か一つでも差異や不備があると、修正依頼→差し戻し→再提出、というムダな往復が発生します。

2. 輸送・通関ステータスのタイムラグ

「本船が着岸したか」「通関が切れたか」「引き取りは済んでいるか」など、バイヤー・フォワーダー・通関業社・現地サプライヤー・工場など、関係部署が多いほど情報の通知遅延や伝達ミスが多発します。

3. 調達リードタイムのブレ・見通し不良

調達プロセスがリアルタイムで把握できないため、生産計画や納期回答に不確実性が生じ、顧客対応や社内調整が後手に回ります。

4. 責任部署の不明確化

トラブル時の原因特定や対応依頼があいまいになり、現場が疲弊します。
特に海外拠点が絡むと「どこに連絡すれば?」といった状況に直面しがちです。

5. デジタル業務化への文化的抵抗

「今までこのやり方でやってきた」「システムより電話やFAXが安心」と、現場や取引先の昭和的文化が根強く残り、新しい運用構築が難しい場合が多いです。

6. コストの見える化ができない

物流コスト・調達コストを詳細に把握できず、改善活動や交渉材料が限定的になります。

7. トレーサビリティの欠如

“もしもの時”に、どこの誰の手で何がどのように処理されたかを速やかに特定できず、コンプライアンスや品質リスクが高まります。

国際物流のデジタル化 ―輸入調達リードタイム短縮の決め手―

これらの課題を解決するため、当社が進めた国際輸入調達の通関情報連携デジタル化施策を紹介します。
具体的な取り組みと現場が感じた効果を、分かりやすく解説します。

デジタル化施策の全体像

1. サプライヤー~バイヤー~通関業者~物流業者間の共通Webプラットフォーム構築
2. インボイス、パッキングリスト、到着案内、通関申告内容など主要書類をシステム管理
3. 進捗ステータスのタイムリーな自動更新・関係者への自動通知設定
4. 各プロセスごとの担当者・責任者の明確化
5. トラブル発生時のチャット機能による迅速な連絡網
6. 紙・FAX業務の極小化(完全ペーパーレスは難しいが、80%以上削減)

具体的な流れ(私の現場体験をもとに)

・サプライヤー側で出荷前書類をWebシステムにアップロード
・バイヤー側で内容確認・指摘・修正指示をオンライン上で完結
・通関業者もプラットフォームから申告手順を進行し、書類を一元管理
・本船が日本到着時、到着案内が自動でプッシュ通知
・通関完了・引き取りOKの通知もリアルタイム共有
・関係者全員が共通画面で現在地/完了プロセスを即座に把握

このシステム導入前は、どこかで不備や連絡漏れが発生すると、FAX・電話・郵送が複数回飛び交い、下手をすると一件あたり2~3日は平気で遅れが生じていました。
導入後は、仕組みとルールをしっかり作ることで、トータル7日のリードタイム短縮に成功しました。

現場で起きた変化と、乗り越えた壁

現場担当者の意識変革

最初は「慣れたFAXや紙でいい」「システム操作に自信がない」と抵抗感もありました。
ですが、具体的な業務フローを一緒に棚卸しし、「なぜデジタル化するのか」「紙で失敗した苦い経験」を現場同士で共有した結果、“自分たちの仕事を楽にする仕組み”へと前向きに取り組めるようになりました。
属人的な仕事から、チームでの見える化・協業のスタイルに変化。
以前なら「誰かが連絡しているだろう」と思い込んだミスも減りました。

サプライヤー・通関業者への巻き込み

仕組み・システムへのアレルギーは海外サプライヤーにも顕著ですが、「バイヤー側の本気」「業界の主流としてこれから普通になる」と誠実に周知することが、Win-Winの信頼関係作りに不可欠です。
無理に100%導入を押しつけず、スペックの高いサプライヤーから共創を始め、波及効果を狙いました。

トレーサビリティ・記録管理の強化

誰がどの書類を、どのタイミングで提出・確認・承認したかの記録が自動的に残るため、万一トラブルが起きても即時原因追及と再発防止が可能になりました。
これは監査対応・品質事故時にも大きな安心材料です。

7日短縮を生む「仕組み」と「現場力」のハイブリッド

国際物流デジタル化は、単なるシステム導入では終わりません。
現場の文化や日々の運用、ちょっとした不安や疑問へのサポートが「リードタイム短縮効率」の成否を分けます。
デジタル施策推進のポイントをまとめます。

1. 80点主義で始める

いきなり全ての取引先に強要せず、主要サプライヤーから部分的に導入・運用し、不具合や現場の不満点を見える化しながら改善を続けるのが定石です。

2. オペレーション教育の徹底

システム操作教育もありますが、何より「なぜこの情報が必要なのか」「どの部署に負担がかかるのか」など現場全体の流れを理解するよう、全社横断型の教育・ワークショップが効果的です。

3. 管理職のリーダーシップ

現場の変化には必ず現場長・管理職の旗振りと現場巻き込みが必要です。
マニュアルだけの指示では動きません。
現場の声を汲み上げ、成功事例・失敗事例を全社でシェアし、小さな“良い変化”を褒め称える文化を作りました。

今後の展望と、プレイヤー間の新しい協業スタイル

国際物流のデジタル化で短縮できた“7日”は、製造業にとって競争力の源泉です。
加えて、情報共有基盤の整備によって、よりレベルの高い需給調整や、リスクマネジメント、人材多様化への対応がしやすくなっています。

今後はAIによる異常検知や、ブロックチェーンによる更なる透明化、IoTトラッキングなど、より高度な連携も進んでいくでしょう。
ITや新しいシステムに馴染みがない現場でも、最大の武器は“ちょっとした疑問・気づき”を拾い、粘り強く現場目線で改善を続ける力です。
皆様の現場が、デジタル化の波に飲まれるのではなく「波を乗りこなす」リーダーになることを願っています。

まとめ:バイヤー・サプライヤー双方に広がるメリット

国際物流の通関情報連携をデジタル化することで「見える化」「標準化」「属人性の排除」「手戻り削減」が実現し、バイヤー側だけでなくサプライヤー、物流業者、現場作業者すべてにメリットが波及します。
現場目線では“俺たちの働き方改革”ともいえるこの変革が、日本の製造業の競争力回復につながる道筋となるはずです。

リードタイム短縮=“モノづくりの時間が増える”。
そのための武器として、ぜひデジタル化の一歩を踏み出してください。

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