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ハーネス標準長のラダーを定義し裁断端材と在庫を同時に削る電装設計

目次
はじめに 〜製造業が直面する「ハーネス端材・在庫」問題とその背景〜
現代の製造業、とりわけ自動車や産業機械、家電などの電装系現場では、ハーネス(ワイヤーハーネス)設計・生産において非効率が多く存在します。
その代表的な課題が「ハーネス標準長の未定義」に起因する裁断端材の大量発生と、複雑化する在庫管理問題です。
本来、最終製品に組み込まれる配線(ハーネス)は、種類・長さともに千差万別ですが、なぜ今まで標準長という考え方が根付かなかったのか?
そして、その業界慣行を打破することで現場にもたらされる革新的メリットとは何か。
この記事では、筆者が20年以上もの製造現場で実践し、成功と失敗を通じて得た「標準長ラダー定義」の実践法を、発想法から具体的運用、現場での導入の壁まで体系的に解説します。
また、サプライヤー・バイヤー双方の立場を含めた新しい電装設計の地平も深く掘り下げていきます。
なぜハーネスの標準長定義が注目されていなかったのか
昭和の慣習、設計分断と「個別最適化」の弊害
日本のモノづくり現場は、職人技とその場の対応力に大きく依存してきました。
ハーネスに関しても、その設計やカット長は「その都度案件ごとに最適長を指示する」のが長きにわたる通例でした。
なぜなら個別製品ごとに配線ルートや曲げ半径、端末処理が微妙に異なり、「ちょうど良い長さ」を現場で都度判断するのが、歩留まりと生産性の最良解だと信じられていたためです。
この「個別最適」の考え方が現場に染みこんだ結果、以下の問題が潜在化していました。
・工程管理や在庫管理が極めて煩雑になる
・端材(半端なワイヤー長)が日々発生し、再利用困難
・調達量の見積もり精度が低下。余剰在庫や欠品リスクが慢性化
・新規バイヤーやサプライヤーが介入しにくいブラックボックス化
つまり、現場の「勘と経験」を絶対視するあまり、全体最適化や標準化へのチャレンジが阻害されていたのです。
ラテラルシンキングで考える:標準長「ラダー(はしご)」という新しい発想
個別最適から全体最適への転換 〜“はしご”の上で設計せよ〜
これまでの「個別都度設計」から一歩引き、「”段階的な長さ” をあらかじめ標準化」した状態で設計・調達・生産を回す。
この思考法が「標準長ラダー(はしご)」の発想です。
すなわち、
・10mm刻み、50mm刻み、100mm刻みなど、定期的な長さの“段”を業務基準に設定
・それぞれに型番を付与。基本的にその長さを基本単位に設計・購買・在庫を連動
・どうしても規格外長が必要な場合だけ、特注扱いやラベル発行で管理
こうすることで、「用途別に1mm単位で無限に裁断する」状況から「既成長に載せ替え、端材を最小限に抑え、在庫もスリム化」が可能となります。
たとえば
・引き回しルートが650mm→700mmでも問題ない場合は700mm標準長を採用
・800mmと810mmで迷ったらどちらもスタンダードラダーの800mmに統合
・各長さのワイヤーは「A-700」「A-800」として倉庫も一元管理
→ 端材の再利用や在庫残量把握、原価計算が格段に単純化します。
この「全体最適・超実践型のラテラルシンキング」が、ハーネス設計・電装設計に新風を吹き込むのです。
標準長ラダー定義の実践ステップ
Step1:設計現場と生産現場の相互ヒアリング
まず最初に重要なのが「設計」と「生産」双方の現場担当者を巻き込むことです。
それぞれの現場が
・どの長さが一番需要が多いか
・どの長さが端材として余りやすいか
・端部処理、コネクタ加工まで含めて作業時間・難易度・在庫負担がどう変化するか
これらを机上だけでなく、現物ベースで徹底的に洗い出します。
多くの現場では「どうせ数mm単位で違う製品にしか使えない」という思い込みが根強く、実際には±数cmの調整が効くケースも少なくありません。
ここで大切なのは、「絶対に“今すぐ全部標準長に揃えろ”とせず、まず標準長で流せそうなユニットやラインのみトライ」「生産・調達・設計で巻き込み型の小さな改善から始め、ベースラインを探る」ことです。
Step2:調達・購買の視点でのインパクト計算
調達/購買担当者にとって、標準長導入のメリットは明快です。
・発注ロットの集約でコストダウン提案がしやすくなる
・サプライヤーとの交渉材料増加
・在庫支給(預託品や委託加工)の指示・受払管理が平準化
具体的には「A-500mm×1000本」「A-600mm×1000本」…と端数をグルーピングできれば、発注処理や社内調整も大幅に簡素化します。
サプライヤー側から見ても、“ひとつの工程でまとめて製作・配分”できるため、歩留まり改善や納期管理も強化されます。
バイヤー志望の方は「単位長でまとめて頼める先進バイヤー」「需給計画が明確な発注者」という印象を現場に与えられ、将来的に上流工程の設計支援や調達指揮に携わるチャンスも広がるでしょう。
Step3:在庫設計・倉庫管理のリプレイス
標準長ラダーで設計・調達したハーネスは、倉庫管理も抜本的に変わります。
従来は型号や用途ごとに1m・1.03m・1.06mなどバラバラの長さがごちゃつき、ピッキングや棚卸しも複雑を極めていました。
しかし、標準長ラダー導入後は
・700mmのカゴ
・800mmのカゴ…
のように明確なスペース分けでの「段取り化」が可能です。
在庫の減り方や残り量も一目瞭然となり、端材再投入や払い出し・補充の自動化(画像認識・バーコード化等)にも踏み出せます。
さらに、工場全体の棚卸し効率や物流システムの最適化、時には倉庫ロボットとの連動まで広がる土台ともなります。
現場の活性化、ミスの低減、将来のDX・自動化につながる基盤が作れるのです。
昭和型アナログ業界、導入の壁とその突破方法
「ウチの現場はムリ」勢を動かすカギ
標準化や全体最適化の提言に現場が必ずといっていいほど反発する最大の理由――それは
「いままでのやり方でなんとかやれていた」「細かい現場事情が無視されるのでは」
という、“現場の知見”が抜け落ちることへの恐怖と不信です。
この壁を突破するために筆者が推奨するのは、
・現場出身リーダーが「1ラインだけでも標準長化」「ロス削減に直結した実績の見える化」など、超小規模からトライ
・定量効果だけでなく、「作業者負担の低減」や「ロス管理の例外処理が減る」など“現場メリット”のプロセス開示
「うちは特殊だから…」という声には、その特殊性ごとラダー幅に取り込む柔軟設計(必要なら3mm刻み仕様もOK)を示し、「本当に標準長で困る重要部位はごく一部」であると丁寧に説明して動かすことを強く推奨します。
標準長ラダー化がもたらす製造業界の未来
電装設計から経営戦略までをつなぐ重要ファクターへ
ハーネス標準長のラダー設計を本格運用できれば、単なる現場改善ではとどまりません。
・経営としてのコスト競争力向上
・生産と在庫コントロールの可視化
・仕様変更対応の俊敏化
・新規サプライヤー・バイヤーとの取引ハードル低減
・IoT/自動化/DXの次世代化基盤の構築
これら広範なメリットが波状的に現場に波及し、海外工場・グローバルサプライチェーン全体への拡張展開も夢ではありません。
「電装設計」という一見地味な領域が、実はモノづくり改革のコアエンジンとなりうるのです。
バイヤー・サプライヤー・現場全員が“標準”でつながる世界へ
サプライヤー側の皆さまにとっても、標準長毎の納品という新ルールは
・生産リードタイム短縮
・仕掛りのサイクルタイム低減
・ロス無し・高付加価値提案への道筋
となり、受注精度やサービストータル品質が格段にアップします。
また、バイヤーの志望者・新人バイヤーも、“切り口の鋭い改善提案”が現場に受け入れられる経験を積みやすくなります。
すべてのプレイヤーが「共通言語」で議論し、在庫・端材のロスを組織横断で抑える――
そうした現代的で多様性のあるモノづくり現場を、みなさんと一緒に作っていきましょう。
まとめ 〜新しい電装設計のスタンダードを現場から発信しよう〜
・標準長ラダーによる設計・調達・生産・在庫統合で、端材ロスと在庫過多を同時に削減
・昭和的な「個別最適主義」から全体最適化への脱皮が、業界の新たな競争力となる
・現場〜バイヤー〜サプライヤーの三位一体で進化する“つながるモノづくり”によるメリットは計り知れない
明日からみなさんの会社でも、まずは「どの長さに標準化できるか」「どこまで共通化できそうか」を見ることから始めてみてください。
多くの現場で、電装設計改革は、未来を切り拓くパワフルなトリガーとなるはずです。
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