投稿日:2025年8月21日

eBLシステム障害時に貨物引取を止めない紙B/L併用ルール

はじめに:製造業物流のデジタル化とリスク

製造業はデジタル化の波に乗り、業務効率化や情報伝達のスピードアップを図っています。
中でも電子船荷証券(eBL:electronic Bill of Lading)の導入は、貿易物流の現場に革命をもたらしています。

従来、紙のB/Lに頼っていた貨物の受け渡しや権利移転の手続きが、eBLにより瞬時かつ安全に行えるようになりました。
しかし、どれほど高度なシステムであっても、絶対に障害やダウンタイムが発生しない保証はありません。
eBLシステム障害が発生した場合、貨物の引き取りが滞るリスクが現実として存在します。

この記事では、20年以上工場現場~管理職を経験した現場目線で、eBL障害時にも貨物引取を止めないための紙B/L併用ルールの重要性と、製造業に根付いたアナログ慣習との向き合い方について掘り下げます。

eBLの基礎知識と期待される効果

eBLとは何か

eBLは、従来紙で発行されていた船荷証券(Bill of Lading、B/L)を電子データで管理・発行するものです。
法的な裏付けとセキュリティを担保し、貿易書類の真正性や権利移転も電子的に実現します。
製造業のグローバルサプライチェーンにおける迅速な貨物受け渡しの実現やペーパーレス化に寄与し、多くの大手企業が導入を進めています。

eBL導入によるメリット

・B/Lの紛失・盗難リスクの排除
・郵送の遅延やコスト削減
・リアルタイムでの権利譲渡や信用供与
・環境負荷低減

これらのメリットは調達購買、生産管理、品質管理の現場業務に大きな効率化をもたらすため、今後eBL利用は業界標準になっていくと見込まれます。

eBLシステム障害リスクとは

想定される障害・トラブル

いくら高機能なeBLシステムでも、現実には以下のような障害リスクがつきまといます。
・サーバーダウン、アクセス障害、システム不具合
・サイバー攻撃、データ改ざん・漏洩
・システム更新のタイミングでの一時利用不可
・関係者(船会社、荷主、銀行、港湾オペレーター等)ネットワークの断絶
こうした時に「eBLが確認できない=貨物引取不可」となるケースは大きな混乱につながります。

昭和アナログ文化の根強さ

製造業の現場では、まだまだ紙文化やアナログ手続きへの安心感が強く残っています。
「電子的にはOKだが、念のため書類も保管しておきたい」「障害時にどのように対応するのか不安」などの声は現場では多数あります。

また、現場をよく知る身からいえば、万が一工場稼働や納期、供給責任に直結するとなれば”紙で担保できる安心材料”は今なお重要です。

紙B/L併用ルールの現場的意義

併用ルールの概要

eBLと紙B/Lの併用ルールとは、通常はeBLでの貨物管理を基本としつつ、eBL障害など非常時には紙B/Lによる引取り手続きもできるようにする仕組みです。

紙B/L自体を並行発行するケースや、あらかじめバックアップ用の印刷データとして保管しておく運用もあります。

なぜ併用が重要なのか

経営や調達購買の立場で考えれば、システム一本足打法は「万が一」に弱く、BCP(事業継続計画)の観点からも極めて危険です。
特にジャストインタイム生産や、納期遵守が価値の源泉となる製造現場では、物流の遅延は即座に顧客信用や収益を毀損します。
“止めない現場”を続けるには、紙B/Lをバックアップとして使用できるルールがリスクヘッジの生命線となるのです。

現場ではどう運用されているのか

多くの日本企業やグローバル企業が、次のような運用ルールを定めています。
・eBL障害が判明した場合、関係者間の合意および証明書提出の下、紙B/Lによる貨物引取を臨時許可
・紙B/Lは通常は“引渡し保留”の扱いだが、BCP発動時のみ窓口対応
・eBL復旧後、紙B/L利用分の取消・照合手続きを必ず実施

こうした運用は、購買担当者やバイヤー、サプライヤー双方で、事前に明確な合意形成と手順確認を行っておくことが不可欠です。

実践的な紙B/L併用ルールの設計ポイント

(1)併用条件の明確化

「いかなる場合に紙B/L運用に切り替えるか」という判断基準を明示します。
例えば、
・システム障害が2時間以上継続
・船会社・港湾・銀行いずれかのインフラ障害が発生
・政府・公的機関の公式証明発行時
など、客観的な要件設定が必要です。

(2)紙B/Lの発行、保管方法

バックアップとしての紙B/Lは、厳格な管理下で保管し、発行・参照ログを必ず残すことが重要です。
“万が一”発行時の不正流出、二重引き渡しを防ぐための複数チェックや署名フローを設定しましょう。

(3)eBL/紙B/L切替時の社内外通知と承認フロー

切替決定後は、必ず船会社・通関業者・港運会社・銀行・サプライヤーに速やかに通知します。
また、引き取り担当者の権限確認、社内承認フローも最優先事項です。

(4)帳簿・記録管理と事後対応

事後には紙B/L利用分の帳簿付けやeBLシステム復旧時のデータ照合作業を必ず実施します。
内部監査・外部監査対応にも耐えられる運用記録の整備が求められます。

買い手・サプライヤー双方の視点

買い手(バイヤー)としての心構え

商流管理や納期の遅延回避という最大ミッションを担うバイヤー・調達部門にとって、eBL/紙B/Lのリスクマネジメントは命綱となります。
常に「最悪のケース」を想定し、柔軟な対応策を事前にサプライヤーと合意形成しておきましょう。

サプライヤーの立場で知っておきたいこと

サプライヤーにとっても、eBL障害時の貨物引渡し遅延リスクは、自社の信用問題や損害賠償リスクにも直結します。
バイヤーが何より重視するのは“現場を止めない”こと。
事前に「もしeBL障害が起きた場合は、こういうフローで紙B/Lを用意できる」ことを提案することで信頼獲得につながります。

アナログとデジタルの融合が生む「新しい現場力」

製造業の現場には、昭和時代から大切にされてきた「紙の安心感」や、人がチェックすることへの信頼があります。
一方で、グローバル競争時代を勝ち残るためにはデジタル化の推進も不可欠です。

eBLシステムの進化に合わせつつも、アナログな紙B/Lを単なる“過去の遺物”とせず、リスク対応の切り札として現場にきちんと根付かせる。
この「二刀流」の運用こそが、製造業に必要な現場力=“止めない・失わない・誤らない”仕組みづくりにつながります。

まとめ:現場を止めないための実践知

eBLは今後、製造業の国際物流における“新しい標準”になるでしょう。
しかし、その安全性・効率性ばかりを強調し、紙B/Lを“過去の遺物”扱いすることは、現場実務・BCPの視点から大きな落とし穴です。

システム障害時にも「貨物を止めない」ための紙B/L併用ルールをしっかり整備し、現場・経営・海外調達サプライヤーまで含めた合意形成とシミュレートを徹底しましょう。

最後に伝えたいのは、
・昭和アナログも尊重しつつ、デジタルの利便性を最大限発揮する
・最悪のリスクを常に想定し、柔軟なバックアップを準備する
・コミュニケーション・情報共有なくして現場は守れない

この三原則です。
読者の皆さまにとって、自社・自工場のリスク強靱化のための行動指針となれば幸いです。

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