投稿日:2025年8月23日

CMMデータの中立フォーマット共有で測定差異をなくし再検査費を削減

CMMデータの中立フォーマット共有で測定差異をなくし再検査費を削減

はじめに:CMMデータ共有の現状と課題

製造業において品質保証の核となる「三次元測定機(CMM)」の活用は今や一般的です。
調達や受入検査段階から、出荷前検査、現場ラインの工程管理まで、寸法品質の裏付けとして不可欠なCMMですが、データの取り扱いにおいて大きな問題を抱えています。
それは、「CMMデータの形式がベンダーや機種ごとにバラバラで、サプライヤーとバイヤーで情報共有や品質保証のやり取りに手間とコストがかかる」という点です。

今回の記事では、CMMデータを「中立フォーマット」で共有・運用することによる測定差異の撲滅、再検査・再測定にかかる無駄なコスト削減への道筋を、現場目線で深堀りし、アナログ体質が残る日本の製造現場の明日のスタンダードを提案します。

なぜ今、CMMデータの中立フォーマット共有が必要か

従来、測定データのエビデンスはサプライヤーごとに形式も管理方法も異なり、特に昭和から続く中小サプライヤーでは、紙出力・手書き検査表・Excel管理などアナログ管理が主流でした。
一方、バイヤー側はグローバル調達の拡大やIATF16949(自動車)、ISO13485(医療)など、国際規格に基づくデジタル品質保証体制を構築する必要に迫られています。

このギャップによる問題は深刻です。
同じ製品を双方がCMMで測ったものの、「サプライヤーでは合格、バイヤー側の再測定では不合格」という現象が発生。
分析すると、

・CMM機種、測定プログラム、点群の打ち方、データフォーマットの違い
・測定基準の認識齟齬(基準面設置条件や公差適用の解釈違い)
・データ認証やトレースの不備(検査履歴が不透明、後追い不可)

など、物理的な測定差+運用管理上のデータ差が主な原因です。

再検査費・納期遅延…現場が受けるダメージ

こうした齟齬は「受け入れ検査不合格→再測定・追加検査指示→工程再スタート→納期遅延→コスト増大」という悪循環を招きます。
現場でよく耳にする“やり直し検査”は、バイヤー・サプライヤー双方に
・技術者の工数(再計測、データ整理、協議対応)
・機会損失(検査待ち・生産停止、稼働ロス)
・コミュニケーションロス(原因究明のための無駄な会議、書類対応)
このような、多大なダメージを与えているのです。
IT化やIoT導入が叫ばれる中、こうしたくだらないロスが“改善されずに居座る”のは、まさに昭和のアナログ業界に根強い「メーカー文化の壁」だと言えるでしょう。

中立フォーマット(例:QIF、DML、CSV)の役割とメリット

ここでカギを握るのが、「産業標準のデジタル・中立フォーマット」を用いたデータ共有です。
例えば、QIF(Quality Information Framework)やDML(Dimensional Markup Language)、CSVやXMLといった形式がグローバルで利用され始めています。

これらのフォーマットを採用することで、
・ベンダーやCMM機種、測定プログラムに依存せずデータの相互運用が可能
・工程設計書(3D図面)や検査指示とも連携しやすい
・測定点の設定や条件を詳細に記録でき、再現性・トレース性が担保
といった大きなメリットが生まれます。

サプライヤーが自社で測定した“生データ”を、バイヤー側が自動で読み込み・判定し、もし差異があれば、点群データや測定手順まで比較できます。
「測り方の不一致」「人による解釈のずれ」を根本から減らすことができるのです。

現場主義で考える:導入の壁と突破口

ですが、現場は「はい、明日から標準化!」とはなかなか進みません。
その大きな理由は、
・古いCMMが現役で残る(レガシー機器問題)
・測定員がCADやIT操作に苦手意識
・バイヤー側で新フォーマットの受け入れプログラム開発が負荷
という、“過渡期特有の混乱”です。

ここでヒントになるのが、「小さく始めて大きく展開する」ことです。
まずは
・紙の検査表も同時に添付しながら、中立フォーマットもPT(パイロットテスト)として提出
・バイヤー側もトライアルを受け入れ、実測値と再現性をダブルチェック
・現場担当者も「自分の測定・報告業務が、どこまで自動化/簡便化できるか?」を体感

例えば、標準的な外形3点測定品から始め、QC工程表とリンクするだけでも、充分な効果が現れます。
大企業だけでなく、中小サプライヤーでもExcel変換ソフトや、無償のCSV出力ツールなどを活用し、一気に現場のデジタル移行負担を下げることもできます。

サプライヤー側にある「本音」と「チャンス」

サプライヤーの多くは、「バイヤー側の測定要求が厳しすぎる」「測定方法まで細かく指定されると柔軟なものづくりができない」そんな不満を持つことも珍しくありません。
しかし、CMMデータを中立フォーマットで提供できる体制を整えれば、
・客観的に“良品”が主張できる(測定差異の言い訳が不要)
・バイヤーの再検査負担を減らし、信頼度アップ→受注増の好循環
・トラブル検証時も短時間でデータレビューができ、事後負担が激減
と、自社にとっても大きな付加価値になります。

さらに、こうした体制をホームページや営業資料に明記すれば、「先進的な品質管理体制」「グローバル調達にも対応できるデータ連携力」というブランドイメージ向上にも直結します。

バイヤー側が目指す「新たな購買基準」

一方、バイヤー目線では次の購買戦略が見えてきます。
それは、「価格や納期」ではなく、「品質保証体制、検査データ運用の高度化」をサプライヤー選定の必須条件に据える、ことです。

なぜなら、
・事後品質トラブルにかかる隠れコスト(不良品対応、流出リスク、顧客クレーム)は前工程で0に近づけるのが経営上も合理的
・グローバルサプライチェーンや、リコール対応にも迅速なデータ共有基盤が必須

この先、中立フォーマットで「だれが、いつ、どんな条件で、どう測ったデータか」をリアルタイムでやりとりできるサプライヤーこそが、“選ばれる・残れる”時代に入ろうとしています。

昭和的アナログのメリットは残しつつ、デジタル融合を

日本の現場には“手の感覚”や“ベテラン職人の工夫”というアナログの強みも確かにあります。
しかし、それをデータで明文化できてこそ、次のデジタル時代の「ノウハウ継承」「属人性の脱却」という新しい価値が生まれます。

毎回の測定方法がデータとして残れば、“なぜ、どこで、どうズレたか”が明確になり、「勘と経験」さえも第三者と共有できる「新しい昭和の継承」へと進化します。
これは裏を返せば、“現場文化”の良さを最大限に活かしつつ、今のDXトレンドと融合させることができるのです。

まとめ:明日からできる「測定差異ゼロ」への一歩

CMMデータの中立フォーマット共有は、単なるデータ交換の効率化にとどまりません。
それは、
・測定差異によるやり直し、再検査コストの削減
・技術伝承・ノウハウの透明化
・現場の信頼関係強化、ひいてはサプライチェーン全体の競争力向上
こうした、「組織力」の底上げにつながります。

まずは一品番、一工程から。
読者の皆さまの現場から「小さな標準化」「紙+デジタル併用スタート」を始めてみてはいかがでしょうか。

現場の知恵とテクノロジーが真に融合した未来工場へ。
その第一歩が“CMMデータの中立フォーマット共有”です。
これこそ、製造現場にしか分からない「攻めのデジタル改革」なのです。

どんな些細な実践でも、製造業を進化させる一歩。
ぜひ皆様の現場で、この新しい地平線を切り拓いてください。

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