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越境ECのSection321/ICS2適用ミスでの貨物留置を避ける申告運用

目次
越境ECにおけるSection321/ICS2とは
越境EC(電子商取引)はグローバルな市場で大きな成長を遂げていますが、海外向けの出荷では、各国の貿易規制や通関制度に対応することが不可欠です。
近年注目されているのが、アメリカのSection321とヨーロッパのICS2(Import Control System 2)という2つの制度です。
まず、Section321とはアメリカで1日あたり1人につき800ドル以下の貨物に対して、関税・消費税が免除される制度です。
一方で、ICS2は欧州連合(EU)が導入した事前貨物情報提出制度で、航空輸送されるすべての貨物について安全保障の観点から詳細な情報提出が求められます。
どちらも国境をまたぐ越境ECにとって、通過点となる大きな壁です。
制度対応を間違えると起きる貨物留置の現実
Section321やICS2への申告運用を誤ると、何が起こるのでしょうか。
それは「貨物の留置」です。
実際の例では、電子申告情報の不備や誤送信が原因で、税関で貨物が止められ、予定していた納期にお客様へ配送できなくなった事案が多発しています。
例えばICS2の場合、EORI番号やHSコード、正確な商品説明の未記載・誤記載が原因で、EUの空港で数百箱の貨物が足止めされるケースが今年に入ってから増えています。
また、Section321では、1人の顧客宛に複数配送して1日800ドルルールを超えていた場合、「分割配送」とみなされて規則違反扱いとなり、没収や罰則のリスクも発生します。
これは単なるシステム的なミスではなく、販路拡大を狙う日本企業の信頼や、継続的な取引関係そのものを揺るがしかねない大きな痛手となります。
製造業現場の視点:アナログとデジタルが交錯する現状
製造業の現場は、今でもアナログ工程が根強く残る一方、デジタル化・自動化の波が急速に押し寄せています。
業界の多くはグローバル化に追いつこうとしていますが、情報管理や伝票作成のミス、担当者の属人化など、昭和の仕事の仕方が色濃く残る部分と、最新の越境ECプラットフォームやAPI連携による自動申告システムが混在しているのが現状です。
こうした環境下では、「誰が、どこまで、どのルールで対応するのか」という業務設計が曖昧になりがちで、Section321やICS2対応においても思わぬ凡ミスや確認漏れが頻繁に起きています。
現場では、デジタルシステムへの移行疲れや現場担当者のITリテラシー差、複数案件・納期対応に追われて本来の通関ルールの厳格な確認が後回しになってしまう事態が、業界を問わず起きています。
越境EC物流・通関の現場で実際に起きた失敗事例
セクション321、ICS2の申告ミスによる貨物留置の典型例をいくつかご紹介します。
1. ICS2で商品説明(Description)が抽象的
ある日系アパレル企業は「clothes」や「Accessory」といった抽象的表現で申告した結果、EU税関から「内容不明」とされ、2000箱がベルギーの空港で2週間留置。
追加情報の提出や新たな運賃負担でコスト増加、納期遅延のクレームも発生しました。
2. Section321で1日2便出荷しルール違反とみなされた
海外の一顧客から複数注文を受け、伝票を分けて2便に分けて発送したところ、アメリカ税関で「同一顧客宛の分割配送」と認定され、全貨物が没収。
特に越境EC代行会社を挟んだ配送では、個人情報連携ミスも発覚し、貴重な商品在庫を失う結果となっています。
3. ICS2でHSコードや重量の記載ミス
緊急部品の輸送で、HSコードと正味重量の記載を誤ったため、EU側で過大・過少申告として調査・再査定。
数日間の貨物留置の末、追加関税が課されてしまい、取引先からペナルティも発生しています。
申告運用で失敗しないための現場実践策
現場では「申告運用(Declaration Operation)」の精度向上が求められます。
具体的には以下のような対策が実践的です。
(1)マスターデータ管理の徹底
商品別に正確なDescription、HSコード、重量、寸法、原産国情報を一元管理する専用台帳(マスター)の整備が不可欠です。
また、これらを定期的に棚卸して誤記載が発生しないよう、現場の「二重チェック」「現物確認」も実務では重要になります。
(2)データ連携システムの見直し
自社システムと越境ECプラットフォーム(Shopify、Amazonなど)、配送会社システム(FedEx、DHL等)、通関業務管理システム間でデータがスムーズに連携されているかを見直します。
「人力での再入力」→「ボタン一つで全情報連携/自動化」とするのが理想で、バッチシステムやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、API連携の導入が有効です。
(3)現場担当者教育と手順書整備
現場担当者への通関制度(Section321やICS2)の最新動向、失敗事例共有、操作手順書やFAQの整備は欠かせません。
「なぜこのルールが必要なのか」「間違えるとどうなるのか」まで背景を説明することが、属人的な慣れ・油断によるうっかりミス予防に非常に効果的です。
(4)サプライヤー・バイヤー間の連携強化
サプライヤーからの出荷指示と、バイヤー(顧客)側の受け取り情報に食い違いがないよう、事前の詳細確認・データ突合が必要です。
特に個人通販の場合、受取人名や住所など、少しの記載ズレ・名義違いでも申告ミス扱いになるため、事前のWチェック運用が有効です。
昭和的な調達・購買現場で今こそ見直すべきこと
日本の製造業は依然としてアナログ色が強く、調達・購買業務でもFAXや手書き伝票、電話の相談が当たり前という企業も珍しくありません。
この環境下で「越境ECならではの情報管理」を徹底しようとすると、IT化慣れしていない人ほど「現場は忙しいから」と後回し・責任のなすりつけが起きやすくなります。
このような組織体質を変えるには、「誰が、いつ、何を根拠に判断して、どこで手続きするのか」のガバナンス強化が不可欠です。
例えば、
– 出荷ラベルと申告書は別部門でクロスチェック
– 日次・週次でエラーレポートを管理職が再確認
– 現場QA会などで「なぜこの制度が必要か」本音で話し合う
といった昭和的現場の良さ(人の目の細かさや現物主義)と、新しい制度の知識を融合する地道な取り組みが、結局一番ミスを防げる現実解だと感じます。
越境EC現場のビジネスチャンスと失敗しない文化作り
越境ECは世界中にお客様を瞬時に拡大できる夢のある販路です。
一方で通関制度対応は「守らない・ミスする=即トラブル」の世界でもあります。
申告運用に失敗しないためには、属人的ノウハウに頼らず、マスター情報やプロセスの標準化、記録・伝達の「見える化」に尽きます。
決して難しいテクノロジーや新しい機材を導入しなくても、昭和から連綿と続く現場主義を活かしつつ、データやチェック体制をアップデートすることで、大手メーカーから中小の現場まで飛躍的にトラブルを減らすことが可能です。
また、バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの思考を知りたい方も、これら申告運用の現場を知ることでより強い信頼関係が築けるでしょう。
越境ECの申告運用は地味に見えて、製造業の未来を左右する非常に重要な要素です。
今こそ部門横断でこのテーマに真剣に取り組み、世界で通用する現場体制を築いていきましょう。
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