投稿日:2025年9月7日

消耗品OEMのスケールアップで直面する課題と解決方法

はじめに

製造業における消耗品OEM(オリジナル・エクイップメント・マニュファクチャリング)は、コア部品ではないものの生産現場に不可欠な存在です。
消耗品の外注生産はコスト、品質、供給安定性の追求が日常であり、特にそのスケールアップ(生産量増加、取引先拡大)の局面では、経営層や現場担当者にとって数多くの壁が立ちはだかります。
20年以上にわたり、国内外の工場の現場管理や調達・購買業務を経験してきた立場から、昭和的な“当たり前”が残る現場文化や、現代的なデジタル活用が進みきらない業界特有の事情も踏まえ、実践的に解決手法を探ります。

消耗品OEMスケールアップ時に直面する主な課題

1. 品質安定化の壁

OEM製品のスケールアップでは、「小ロットで安定していた品質が量産で維持できない」という悩みを多くの現場で耳にします。
発注ロットの拡大やライン速度の変更、サプライヤーの生産体制増強が品質変動の要因となるからです。

この背景には、“昭和的な職人技依存”が未だ根強い現場が多いことも挙げられます。
暗黙知に頼った製造ノウハウが、量産ラインのスタッフや協力サプライヤーに継承しきれず、標準作業が曖昧になることで再現性が失われます。

2. 供給リスクと納期遅延

コロナ禍や海外リスクの高まりとともに、グローバル供給網への依存は以前にも増して課題となっています。
また、消耗品の多くが“Made in Japan”に固執せず、低コストを狙い海外サプライヤーへ切り替えたことで「言った/聞いてない」トラブルや、港での物流遅延など予想外の納期遅延が頻発しています。

昭和の時代なら「現場同士の直接電話」「顔の見えるやりとり」でなんとか回避できていたトラブルですが、国内外の分業が加速すると、伝統的な現場力だけではスムーズに交渉・リカバリが出来ない場面も目立ってきます。
「買ってやっている/作ってやってる」の垣根が双方の間で厚くなり、スピード感を欠くケースも散見されます。

3. コストダウン圧力の限界

消耗品は、常に「安さ」が命と捉えがちですが、単純な値下げ要求(いわゆる“買い叩き”)には限界があります。
規模拡大時は、資材コストの強い交渉材料になる一方、サプライヤー側の利益圧縮が生じ品質事故や納入トラブル、隠れたコスト転嫁(安価な材料への変更、検査工程の省略など)が発生するリスクも孕みます。

背景にはアナログな業界文化も根強く、「値下げ圧力=調達担当者の実績」という“We”意識が改革の足かせになります。
ちょっとした異材トラブルや品質不良が全社的損失に跳ね返ることを過小評価しがちなのも注意すべき点です。

4. 情報伝達ロスと業務属人化

消耗品OEMの拡大とともに、案件数・種類が増え、現場―調達―サプライヤー間のやりとりも複雑化します。
未だにFAX・電話・エクセル台帳が主流の会社も多く、「○○さんがいないと回らない」「担当替わりでトラブルが再発」のような属人化が進みます。
デジタルツールの活用が進まない現場では、“伝達ミス”“抜け漏れ”“手戻り”が常態化してしまいます。

昭和流からの脱却と最新解決法

1. QCDバランスを定量化し、透明性を持たせる

QCD(品質・コスト・納期)のバランスは、現代のサプライマネジメントでは数値化・見える化が必須です。
「不良率何%未満を目標とし、毎月データでレビュー」
「コストは部材・物流・為替等の構成を明確化し、値上げ・値下げ要因をロジカルに共有」
「納期もリードタイム、遅延状況を定期報告」
というように、主観頼みから脱却し、客観情報で関係者全体の“腹落ち”を図ります。

バイヤー側で「なぜこの価格なのか」「どの工程が不良多発か」を現場とともに議論すれば、サプライヤーの“逃げ”や“言い訳”も減り、納得度も向上します。
逆に言えば、数値が曖昧なまま“安くしろ”“納期守れ”を叫ぶほどに現場は疲弊し、隠ぺいや不良流出リスクが増幅します。

2. サプライヤーとの共創的なパートナーシップ構築

昭和的な「俺たちが上、サプライヤーは下」的な下請支配構造は、今日のリスク社会では逆効果です。
お互いの強みや課題をオープンにし、改善目標・利益の“分かち合い”ができる関係づくりが大切です。

たとえば、「コストダウンは工程簡略化や材料見直しで双方適正な利益が出る案を一緒に探る」「製造現場見学を定期的に実施し、現物現場現実(いわゆる“3現主義”)を共有する」などが有効です。
現場主導のアイデア創出、“ウィンウィン”成果の小さな積み重ねこそが、サプライチェーン強化・長期安定化の近道です。

3. 標準化・マニュアル化による再現性向上

暗黙知や属人技術に頼らず、作業標準や品質マニュアルの充実・定期見直しを徹底しましょう。
要点は、誰でも理解できる「写真・動画付き作業書」「不良発生時フロー」「工程毎のチェックリスト化」などです。
また、現場スタッフにも「改善案の提案活動」や「自分で作る作業手順書づくり」など自律型教育を促すことで、人の入れ替わりや繁忙期でも品質が維持しやすくなります。

4. DX(デジタル化)による情報一元管理

アナログからデジタルへ。簡単なものでは「クラウド型の発注管理システム」「BOM(部品表)共有」「進捗見える化ボード」など、徐々に導入・実践するケースが増えています。
小さな改善として、「エクセル→Googleスプレッドシート」への移行や、手書き伝票のスキャナ保存だけでも効果はあります。

何よりも、「情報は属人知ではなく“データ資産”」という意識転換が大切です。
経営指標にも連動可能なデジタルデータが蓄積されるほどに、現場担当者の負担減や、ミス・ロス削減、スピード経営につながります。

バイヤーとサプライヤーの“本音”に迫る

バイヤーの悩み

・もっとコストを下げろと言われるが、不良が増えるのは困る
・過去の“御用聞き”体質を変え、提案型パートナーに変えたい
・突発トラブルを起こさず、現場の声を吸い上げてくれる業者を探している

サプライヤーの悩み

・「コストダウンしろ」ばかりで“価値”を見てもらえない
・小ロット時と量産時で要求がコロコロ変わり、現場負担が限界
・不具合原因が曖昧なまま“とにかく納期優先”が先行し、信頼されていない気がする

これらは、立場が違えど、本質的な信頼関係/情報共有不足から生じる葛藤です。
自社側だけの論理で動くのではなく、相手の業務・現場・立場まで“一緒に歩く姿勢”が打開策となります。

まとめ:消耗品OEMのスケールアップを“お互い様思考”で乗り越える

消耗品OEMのスケールアップは、単なる発注量や取引額の増大だけでは測れない、現場―企画―調達―品質―サプライヤーを巻き込んだ総合力勝負です。

昭和流の“命令型マネジメント”や旧態依然の業務のままでは、複雑化するサプライチェーンの荒波を越えることはできません。
QCDの見える化、パートナーシップの強化、標準化やデジタル化の推進など、小さな実行を積み重ねることでしか持続的成長はありません。

現場経験者同士だからこそ話せる“誤魔化し”のない対話と、未来志向の新たなやり方(ラテラルシンキングでの発想転換)こそが、次代の製造業に不可欠なのです。
今こそ、お互いを知る一歩、現場目線での課題抽出と解決案創出に踏み出しましょう。それが製造業の変革=日本のモノづくり復活の一助になると信じています。

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