会議で上司の言葉を真に受けず笑い飛ばす社員たち

はじめに ― 製造業に根付く「会議」の現場感覚

昭和から令和へと時代が移り変わる中、日本の製造業は外資系企業とは異なる独自の組織文化を色濃く残しています。

その象徴のひとつが「会議文化」です。

私が20年以上、調達購買や生産管理、品質管理、工場自動化に携わってきた中で、何度も現場で目撃し、時に笑い、時に考えさせられたのは、「会議での上司の発言」に対する現場社員のリアクションでした。

本記事では、そんな現場独特の風土をもとに、現在の製造業会議に潜む問題と、その根底にある昭和的文化、そしてこれからの製造業が目指すべきラテラルシンキングの重要性を紐解きます。

製造業に勤める方、バイヤーを目指す方はもちろん、サプライヤーの立場で取引先バイヤーのホンネを知りたい方にも有益な「現場のリアル」と「これから」を解説します。

現場で良くある「会議」の典型例とは

上司の言葉は本当に「絶対」なのか？

古くから続く日本の製造業工場の会議室に入ると、上座には必ず部長や工場長、課長が並びます。

議題は「工程の進捗」「不良率について」「新規設備導入」「コストダウン案」など多岐にわたりますが、一貫して言えるのは、上司が話したことを現場の社員が基本的に真面目に受け止める・・・ように「見える」ということです。

実際には、上司の威厳や伝統的な組織文化、体面を重んじる空気が強いため、「上司の言葉は建前」と割り切り、本音では別の方向性を探っているケースもよく発生しています。

なぜ社員は「笑い飛ばす」のか

会議で上司が唐突に現場の努力や現象を無視する発言をしたとき、現場社員たち同士で目配せし、「出たよ…」と内心失笑する場面を何度も見てきました。

なぜ、真に受けずに「笑い飛ばす」のでしょうか。

理由は主に以下の3つです。

1. 現場と経営層の乖離
2. 実態を無視した無理な指示
3. 昭和的な精神論・根性論

現場で汗を流す立場と、会議室で数値だけを見る立場では、課題に対する捉え方が根本的に異なることがほとんどです。

また、「とにかく不良をゼロにしろ」「コスト半減だ、あとはヨロシク」など、現場から見れば無茶な要求もよく飛び出します。

その「現実離れ」した言葉をまともに受けていては、やってられない。

だからこそ本音では、お互い苦笑いし合い、裏で「またあんなこと言ってたな」と情報共有することでメンタルを保っているのです。

なぜ会議はこうなってしまったのか ― 歴史背景とアナログ文化の残滓

現場至上主義から数値主義へ ― 変遷の背景

昭和時代の工場は「現場に神宿る」と言われるほど、職人気質と現場リーダーの判断が重視されてきました。

しかし平成に入り、グローバル化や株主資本主義が進む中で、会議はどんどん「数値で人を動かす」構造にシフトしていきました。

その結果、大企業になればなるほど「現場知らずの机上論」と揶揄されるような指示が多くなり、現場社員の士気低下を招くようになっていったのです。

なぜアナログ業界ほど「独自の会議文化」が強いのか

工場自動化が進む一方で、古い設備や伝統業務が残る分野ほど、昭和時代の組織論理や精神論が色濃く残っています。

ペーパーレス化が進まない会議、ハンコ文化、押印回覧の稟議書、現場を知らない役員のTOPダウン指示…。

これらが「会議で上司の言葉を真に受けず、社員同士で笑い飛ばす」下地になっているのです。

バイヤー・サプライヤーから見る「会議の本質」とは

バイヤー目線：本当に大切な情報は「会議後」に生まれる

私の体験から、バイヤーを目指す方や調達担当者に強調したいのは、「公式会議では真実の議論は表に出にくい」点です。

表向きの建前と、現場のリアルは違う。

サプライヤーとしてバイヤーの狙いを正確に掴みたいなら、会議後の立ち話や非公式の雑談こそが勝負所です。

特に、日本企業特有の「根回し」文化では、会議資料に書けない本音や、上席に忖度した議論が水面下で渦巻いています。

ここを掴めるかどうかが、強いバイヤー、選ばれるサプライヤーになるかの分水嶺となります。

サプライヤー目線：表と裏を読む力が必須

サプライヤー側から見れば、バイヤーが社内会議で受けている圧力や忖度を深く理解する必要があります。

時には、バイヤーは自社上司の「無茶振り」や「精神論」にしぶしぶ従っている場合もめずらしくありません。

サプライヤーとして長く信頼されたいなら、バイヤーの抱える本音の課題、現場の声に共感し、建前と本音を丁寧に分けて対応することが極めて重要です。

そのためには、会議室での形式的なやりとりだけでなく、現場や生産ラインでバイヤーと肩を並べて観察力・ヒアリング力を磨くことが求められます。

ラテラルシンキングで現場会議文化を変革するには

今こそ「深く考える」現場力が新時代を切り拓く

日本の製造業が世界で再び輝くためには、上司の言葉をただ「笑い飛ばす」のではなく、それすら一歩踏み台にして互いの立場や本音を「解きほぐす」力が必要です。

この時代、ラテラルシンキング（水平思考）こそが、意識の壁を突破する最大のカギになります。

なぜうちの会議はこうなっているのか？
なぜ上司はこんな指示を出すのか？
なぜ現場社員たちは失笑し合うのか？

こうした構造的課題を俯瞰し、根源から問い直すことで、初めて現場・管理職・サプライヤー・バイヤー全員が腹落ちできる「進化した会議文化」が生み出せるのです。

意識変革のための具体アクション例

– 上司は、できるだけ現場と対話する時間を意図的に確保し、「現物・現場・現実」を体験する
– 会議の中でも、笑い飛ばされそうな自分の発言を「自虐ギャグ」に変えてオープンに議論を誘導
– バイヤー/サプライヤーも、会議で出てこない本音ニーズを「本当に必要な価値は何か」という切り口で探り出す
– 若手社員も、単純に従う／茶化すのではなく、「なぜ？」を掘り下げて議論をリードする

これらの行動パターンが、会議の質を変え、最終的には現場の活力アップやビジネス競争力の向上につながります。