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社内情報を共有できない昭和流文化が生む非効率

目次
はじめに――製造業に根付く「情報は力」の価値観
日本の製造業は戦後の高度成長期、徹底した秘密主義や縦割り体制によって品質とコスト競争力を培ってきました。
その中心には「情報は力」という昭和流の価値観が存在し、長らく生産現場を支配してきました。
ところが現代のグローバル競争下では、こうした情報の囲い込みが多くの非効率を生み出し、社内での迅速な意思決定や現場力の向上を阻んでいます。
この記事では、20年以上製造現場に身を置いた経験から、なぜ情報共有が昭和時代以来難しいままなのか、どのような非効率が生じているのか、そして現場主導で何ができるのかを具体的に解説します。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの視点を知りたい方にも、実践的なヒントが含まれています。
なぜ日本の工場は「情報を共有しない」のか
縦割り組織の弊害と「保身文化」
日本の製造現場では、「製造部」「調達部」「品質保証部」など、部門ごとの縦割りが色濃く残っています。
担当者は部門の責任範囲を守ることに集中し、「自分だけが知っている情報」を武器に評価を得たり、余計なトラブルへの巻き込まれを回避したりしてきました。
「異動したら情報を持っていかれる」「共有すると横取りされ評価されなくなる」。
こうした保身や競争意識が暗黙のプレッシャーとなり、現場や現品管理データ、サプライヤーとの商談内容、工場で発生したトラブル内容など、多くの情報が部門間で遮断されてきました。
紙文化とアナログ管理の落とし穴
業界によっては、今なお紙の伝票やホワイトボードを使った進捗管理が当たり前という現実があります。
生産計画や図面の最新版も、現場に1部しかないことも珍しくありません。
これらは一見ミス防止に見えますが、実は「限られた人しか情報にアクセスできない」仕組を温存してします。
アナログ管理が長く続くことで、「情報を素早く多くの人と共有する」という新しい価値観や、DX推進の気運が現場に浸透しにくいのです。
現場リーダーや工場長が情報の「ゲートキーパー」になる理由
昭和流の現場では、組織階層の上に立つほど、意思決定や情報の握りしめが重要とされがちです。
現場リーダーや工場長が「ニュースや進捗を上に上げるか否か」を判断するだけでなく、問題や失敗を共有しない文化も広がります。
これは表向きをつくろう意図もありますが、多くは「失敗責任を押しつけられたくない」「波風を立てたくない」心理から来ています。
「情報の囲い込み」がもたらす非効率とは
「似た失敗を何度も繰り返す」現場の実態
例えば、ある部品の品質に頻発するトラブルが発生した場合、現場リーダーだけで収束させてしまい、他工程やサプライヤーまで情報を流さないことがあります。
これにより同様の問題が別ラインや別工場で、数ヶ月・数年後に「再発」する悲劇が生まれます。
現場の経験は全体最適でナレッジ化されず、毎回ゼロからのトライ&エラーを繰り返す結果になります。
作業や意思決定の遅延――「知らされていなかった!」の連続
調達部門がサプライヤーと新規サンプルの日程を調整していたが、現場生産側にはうまく伝わっておらず、受け入れ準備ができていなかった…
品質管理が工場と設備メーカーに検査仕様の改訂通知を出し忘れ、本番でラインがストップした…
こうした「伝わっている前提」のすれ違いも、情報共有の欠如によるものです。
各部門・各担当者で「自分事」と捉えられなければ、いつまでもムダな調整工数や焦りが付きまとうことになります。
DXが進まない・AI導入も効果激減
昨今、日本の製造業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI活用が叫ばれています。
しかし、肝心の現場データや製造プロセス情報が人手でしか動かない企業では、せっかく導入したITも「形だけ」になってしまう事例が少なくありません。
情報は現場で細切れに止まり、全体像がつかめなければAIも正しく分析できず、現場の具体的な改善にはつながらないのです。
なぜ情報共有の壁は崩せないのか?現場目線の本質
根強い「評価基準」の問題
多くの製造現場では、「現場でトラブルが起こらない」「自分の管轄内で問題が発生しない」ことが最重視される評価基準です。
このため、少しでもネガティブな情報を出すと査定や人事に不利益となる「現場認識」が根強く残っています。
情報をオープンにするほど、「余計な責任や仕事が自分に降るかもしれない」と現場が感じていれば、デジタルツールをいくら配っても本質的な共有文化は根付きません。
トップダウン型の「やらされ感」施策が現場を萎縮させる
経営層が「情報を全社できちんと共有せよ」と旗を振るだけでは全く浸透しません。
表向きだけ形式的なミーティングや日報が増え、かえって現場の忙しさが増すこともあります。
現場自身が「なぜ情報が必要なのか」「なぜ自分ごととして開示するのか」に納得できない限り、自発的な共有にはつながらず、腹落ちしないまま形骸化していきます。
「現場リーダー」に問われるラテラルシンキング(横断的思考)
金型が壊れた、部品が納期遅れになったという現象の裏には、生産現場・調達部門・出荷管理・品質保証といった多層なプロセスが絡み合っています。
現場リーダーや工場長が「自分の部門だけ」の見方を超え、他部門やサプライヤー、バイヤーの立場まで踏まえた横断的(ラテラル)思考が不可欠です。
一人ひとりが「全体最適」「自分一人で抱え込まない」文化にいかに転換できるかが、情報共有の第一歩となります。
現場から始める、情報共有改革の実践アイデア
知見・失敗事例を「オープンにする」仕掛けづくり
現場で起きたミスやヒヤリハットは、犯人探しの材料ではなく、全社の資産です。
「この失敗が他部門で起きたらどうすればいい?」
「こうした情報を誰でも簡単に参照できたら?」
こうした視点で、現場主体の日報共有会やトラブル事例のストックシステムを、「自分たちの武器」として開発するのが第一歩です。
犯人探しにしない評価制度の変更や、月例の「成功・失敗事例共有会」なども有効です。
バイヤー・サプライヤー間の「壁」をプラスに変える
バイヤーやサプライヤーとは、「コストダウンを要求する敵」ではありません。
購買部門と現場、サプライヤーが協力して情報をオープンにすれば、原価低減案や品質改善策もスムーズに決まり、お互いの信頼も高まります。
「現場担当者も商談の同席を」「図面や現物を囲んでオンライン会議」など、従来の分断を越えるコミュニケーション設計が重要です。
仕組みよりも「語る」文化、聞く姿勢の再構築
最終的には、どんな情報共有ツールも使うのは現場の人間です。
「最近現場で困ったこと」「今感じているムダは?」など、雑談や振り返りの場を定期的に作り、「語る・聞く」文化を定着させましょう。
管理職やリーダーも自ら失敗や学びをオープンにし、「情報を開示しても評価が下がらない」「困りごとを素直に出してもOK」という心理的安全性の醸成が大切です。
まとめ――新しい現場力は、「情報オープン」から生まれる
製造業における「情報は力」という昭和的な発想は、かつては武器でした。
しかし、今の社会や業界、そして現場が本当に求めるのは、「情報を独り占め」することではなく、「みんなで使い尽くし、新しい改善を生み出す」ことです。
情報共有が進まない現場には、今も数多くの非効率が隠れています。
デジタル化やAIの特効薬に頼るだけでなく、現場自身が「横断的な視点=ラテラルシンキング」をもち、腹落ち感を持った情報共有文化を根付かせることが、本当の現場改革の第一歩です。
製造業で働く皆さん、バイヤーを志す方、そしてサプライヤーの皆さんも、「情報の壁」を一歩だけ超えてみませんか?
その先に、新しい現場力と日本製造業の進化があります。
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