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サイレントチェンジが原因で取引が打ち切られる実例

目次
サイレントチェンジが原因で取引が打ち切られる実例
はじめに:製造業に潜む「サイレントチェンジ」とは何か
製造業の現場では、目まぐるしい環境変化やコスト競争が常に求められています。
そのような現場に潜むリスクのひとつが「サイレントチェンジ」です。
サイレントチェンジとは、サプライヤーが製品の設計や仕様、原材料、工程などを、バイヤーに無断でこっそりと変更する行為のことを指します。
一見すると些細な変更であったとしても、最終製品の品質や安全、規格適合に甚大な影響を及ぼすことが多々あります。
昭和から続くアナログな商習慣や、現場の「何とかなるだろう」という精神論が根強く残る日本の製造業では、意図せずこれが常態化してしまい大きな問題を生み出すケースが後を絶ちません。
これから、実際にどのような形でサイレントチェンジが行われ、それが取引中止という厳しい事態につながったのか、現場目線で事例を交えながら掘り下げていきます。
事例1:コネクタの一部部品材質変更によるリコール
ある自動車部品メーカーでは、電装系のコネクタを外部サプライヤーから調達していました。
サプライヤーは、コスト削減や納期短縮のため、コネクタ内の樹脂材料を耐熱グレードから汎用グレードにサイレントチェンジしました。
表面上の色や形状は全く変わらないため、受け入れ検査をしても違いは分かりません。
しかし、量産後半年が経過した頃、完成車に組み込んだコネクタが高温下で変形し、接触不良による不具合が多発、全車リコールに発展しました。
原因究明のための逆算調査で、初めてサプライヤー側の無断材質変更が発覚。
バイヤー(自動車部品メーカー)は、信頼性低下・損失補償の負担もあり、当該サプライヤーとの取引を即時に打ち切る厳しい対応を取りました。
この事例のポイントは、「バイヤーにとってはわずかな材質変更でも大きなリスク」という認識が強化されたことです。
サプライヤー側はその重要性を軽視し、短絡的な経営判断が命取りとなったのです。
事例2:プリント基板のメッキ工程短縮による不良率悪化
OA機器向けプリント基板を供給していたサプライヤーが、省エネ目的で基板メッキ工程の一部を短縮しました。
この変更も、事前連絡や承認なし。
短縮された工程では、目視・寸法検査上の異常は出にくいため、初期出荷ロットは納入されてしまいました。
しかし、1年後、現地サービス修理時に基板の腐食・断線の発生頻度が大幅に上昇。
設計寿命を大きく下回る不具合の連続で、バイヤー側は大規模なアフターサービス対応を余儀なくされたのです。
徹底調査の結果、サイレントチェンジが発覚。
信頼性第一のバイヤーは再発防止のため、即座に取引停止・新規サプライヤー開拓へシフトしました。
サプライヤーの現場としては、工場長や品質責任者が「ここまでは大丈夫だろう」と経験則で判断してしまったことが見逃せないポイントです。
しかしバイヤー側の視点では「工程短縮=安易な妥協」であり、信頼を大きく失う行為です。
事例3:工程内での無断外注化によるトレーサビリティ喪失
あるアセンブリ部品メーカーが、工程負荷軽減のため部品溶接の一部を無断で外部協力工場へ切り替えていました。
当然ながら事前承認は得ていません。
納入後、バイヤーであるメーカーレベルの出荷検査で不具合が頻発。
品質異常の原因特定を進める中、サプライヤートレーサビリティ(製造履歴管理)にほころびが見つかり、協力工場の存在が発覚しました。
外注先は本サプライヤーと比べ安全・品質管理体制が低く、作業標準も徹底されていませんでした。
バイヤーの品質保証部が強く動き、このサプライヤーへの厳しい指摘とともに取引停止を実行。
再契約は数年単位で凍結され、結果的に経営危機に陥りました。
この事例は「工場の忙しさを理由に基本ルールを逸脱した」ことで現場責任者ごと信頼を失っています。
サプライヤー各位は「繁忙」で判断力を鈍らせてはならない、という厳しい教訓を得たのです。
事例4:組立工程の手順簡略化による不具合蔓延
家電部品の現場で良くある例として、組立工程の手順を「現場作業者が良かれと思い」一部省略・簡略化してしまうケースもあります。
例えば、締付けトルク確認を省略したり、検査工程を抜いたりといったことです。
現場では「実績上大丈夫だから」と安易な判断が下されがちですが、納入後に振動・断線・ネジ抜けなどの不具合が大量発生。
問題発覚までに一定の時間がかかり、その間はバイヤーでの不具合対応に膨大なコストと工数が割かれます。
サプライヤーの現場担当は「目の前の効率化」を優先してしまい、「納入先への信頼」という観点が抜け落ちていたのです。
結果、バイヤーは他のサプライヤーへと切り替え、このサプライヤーの現場では人員の大幅削減やリーダー交代という厳しい現実を受け止めることになりました。
なぜサイレントチェンジが起こるのか?その原因を深掘りする
サイレントチェンジの大きな要因として、以下のような現場独特の事情があります。
・現場の経験則による「この程度なら大丈夫だろう」という甘い判断
・納期・コストのプレッシャーが強く、現場判断を優先してしまう
・既存の業界文化(長年の信頼関係や慣習)が、変更連絡の意識を弱めてしまっている
・設備・人員のリソース不足に伴う一時しのぎの現場対応
・BtoB特有の「相手も分かってくれるだろう」という過剰な忖度
これにプラスして、昭和・平成初期から続くアナログな現場文化――具体的には「言わなくても察してほしい」「先方も見逃してくれるはず」「必要なときにだけ報告すればいい」という曖昧なルール意識が、サイレントチェンジ蔓延の温床となっています。
デジタル化・自動化が進む現場でも油断大敵
ここ十数年、IoTやDX(デジタルトランスフォーメーション)、工場の自動化が著しい進展を見せていますが、現場でのサイレントチェンジは根絶していません。
というのも、「現場の目利き」「ベテランの経験」など、システムでカバーしきれない部分が重要視され続けているためです。
機械化やシステム化が進むと、工程変更や資材変更がデータで記録されやすくなりますが、そのデータを正直に入力しなければ意味がありません。
結局、現場の一人一人が「小さな変更でもバイヤーへ必ず届け出る」カルチャーを持たなければ、サイレントチェンジは防げないのです。
バイヤーがサプライヤーに求めていることとは
バイヤー側の立場としては、以下の点を強く求めています。
・どんな些細な変更でも自己判断せず事前に申告すること
・トレーサビリティ(全工程の履歴管理)を徹底すること
・品質や工程変更の承認フローを確実に遵守すること
・現場の教育、リテラシー向上を怠らないこと
・「失敗を隠さず、すぐ相談する」心理的安全性を現場に持たせること
特に、グローバル調達が一般化したいま、サイレントチェンジが企業ブランドへのリスク、最悪は民事・刑事責任にも直結するとの認識を、双方が持たなければなりません。
まとめ:現場の“当たり前”が、命取りになる時代
サイレントチェンジは工場現場に深く根付いた“悪しき当たり前”から生まれやすい問題です。
しかし「このくらい大丈夫」という小さな油断が、取引停止やブランド失墜、そして企業継続すら危ぶまれる大災害につながることを、いま一度全ての現場に強く伝えたいと思います。
徹底した情報開示と、現場―管理層―バイヤー間の信頼関係こそが、これからの製造業における競争力の根幹となります。
製造業の発展は現場一人ひとりの真摯な意識変革から始まります。
バイヤーはこうした現実を知り、サプライヤーとの間でオープン・フラットな関係構築を進めてください。
サプライヤーは「言わなければバレない」ではなく「小さな変化ほど正直に伝える」姿勢を持ってください。
昭和・平成の“ものづくり大国”から、令和の時代にふさわしい持続可能な「ものづくり力」を皆で創り上げていきましょう。
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