投稿日:2025年10月16日

ノートパソコンケースの衝撃吸収を支えるEVA硬度と圧縮率の設計

ノートパソコンケースにおける衝撃吸収性能の重要性

ノートパソコンは、現代社会においてビジネスやプライベートはもちろん、教育現場でも必須となっています。
その大切なノートパソコンを衝撃や落下から守るため、多くのユーザーがケースやバッグを利用しています。
その中でも、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)素材は抜群の衝撃吸収性能を誇り、多くのノートパソコンケースで採用されています。

しかし、EVA素材がなぜ衝撃吸収に優れているのか、また、実際にどのような硬度や圧縮率の設計が採用されているのかについては、製造現場でも意外と知られていません。
製品選定の際に重要な判断材料となるEVAの硬度と圧縮率に焦点を当て、その設計思想と実際の業界動向、そして課題へのアプローチについて現場目線で解説します。

EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)とは何か

EVA素材の基礎知識

EVAはエチレンと酢酸ビニルという2つのモノマーを共重合して得られる素材です。
ウレタンやラバーなど他の発泡体と比較しても、軽量で弾力性に富み、耐久性も高いことが特徴です。
また、コストパフォーマンスにも優れ、量産がしやすいため、ノートパソコンケースだけでなく、スポーツシューズのミッドソール、玩具やサンダルなどさまざまな用途で利用されています。

EVAの発泡体が衝撃を吸収するメカニズム

EVA発泡体の内部には無数の気泡が含まれています。
この構造により、外部からの衝撃エネルギーを気泡の広がりや収縮によって緩和し、エネルギーを拡散・分散させます。
そのため、外部から加えられた力がダイレクトにノートパソコン本体へ伝わらず、破損リスクを飛躍的に低減できる仕組みとなっています。

EVAの硬度と圧縮率が及ぼす衝撃吸収性能への影響

硬度と圧縮率、どちらも設計の要

ノートパソコンケースのEVAフォーム選定において重要な物性値が「硬度」と「圧縮率」です。
ここでいう硬度とは素材表面の「固さ」、圧縮率とは「潰れやすさ」「復元力」を意味します。
硬すぎれば衝撃をうまく緩和できず、逆に柔らかすぎると圧縮したまま復元できず、ケースの形状も保てなくなります。

設計段階では、この2つの物性バランスを最適化することで、外部からの衝撃エネルギーがうまく拡散・吸収されるケースを作ることが目標となります。

硬度の単位と選定基準

EVA素材の硬度は「アスカーC硬度」や「ショアA硬度」がよく使われます。
ノートパソコンケースなら、ショアAで言えば30~50程度の範囲が主流です。
携帯性やデザイン性を重視したい軽量モデルなら硬度を下げてクッション性を高め、耐衝撃重視モデルなら硬度を上げてケース自体の形をしっかり維持できる設計とします。

圧縮率の設計と評価指標

圧縮率は「初期厚みから何%まで圧縮できるか」や、「圧縮後に何%まで元に戻るか(復元率)」などを数値化します。
ケース内部でパソコンが動かないように適度に圧着する必要がありますが、加圧しすぎて本体を傷めてしまうことは避けなければなりません。
多くの現場では、30~40%程度の圧縮率、復元率は90%以上を目安に設定しています。

設計段階での現場目線の課題とその克服

アナログ業界に根強い「勘と経験」への依存

昭和から続く日本の製造業現場では、「勘と経験」への依存から数値データに基づく客観的設計へのシフトが進み切れていません。
「前回のロットも大丈夫だったから」「いつもの仕入先のA品番で」など、過去の実績やベンチマークが重視されがちで、材料スペックの細かな選定・見直しが後手に回る現状があります。

ラテラルシンキングでの課題解決アプローチ

日本の現場では、「ベストプラクティスのアップデート」が進まず、結果的に海外メーカーとの価格・品質競争で後れをとる状況も増えてきました。
ここにこそラテラルシンキングを活かした視点転換が求められます。
たとえば、「衝撃吸収=厚ければ良い、固ければ良い」ではなく、「同じ衝撃エネルギーでも、受け止め方(硬度×圧縮率×内部構造)によって最小被害になるパラメーターを組み直す」という発想です。

また、実際の落下試験やダミーPCを使ったフィールドテストを多用し、数値だけでなく「本当の保護性能」を追求する姿勢も大切です。
サプライヤーにも用途に応じたカスタムEVAの提案や、汎用品ではカバーできない性能バリエーションの開発が求められています。

設計から量産・購買担当者が知っておくべき落とし穴

規格落ち材料・バラツキリスクの見極め

EVAの発泡体はロットによる品質ばらつきが多い材料です。
とりわけ発泡倍率や保管環境の影響で、硬度・圧縮率とも実測値が異なるケースもしばしばあります。
量産に入る前段階で、規格落ち材料が混入しないよう、QC工程表のアップデートや抜き取り検査の徹底が不可欠です。

購買に求められる適正価格の見抜き方

業界ではとくにアジア圏からの輸入EVAが増加しており、見積もり単価競争が激化しています。
ただし、単価ばかりを追うとリサイクル材や二次発泡品を混ぜたグレードダウン品が採用され、最終的には市場からの品質クレームを招きます。

逆に、あえて「硬度・圧縮率のバリエーション管理が明確なサプライヤー」「用途ごとに性能証明書を付与できるメーカー」を選定指標とすることで、社内外ともに安定供給とコスト最適化の両立を目指すことができます。

バイヤー・サプライヤー双方が進むべき新しい地平線

提案型バイヤー、価値創造型サプライヤーの時代へ

かつての調達部門は「いかに安く仕入れるか」だけが命題でした。
これからの製造業では、「最終製品の付加価値(安心・安全・機能性)」をいかに高めるか、バイヤーには自社の用途や製品群にベストマッチする素材・物性条件を自ら設計し、サプライヤーにも成形技術や複合材ノウハウによる新規提案を求めていく役割が強くなります。

例えば、サイズ・重量ごと最適化したEVA硬度配列の実装、抗菌・難燃など高付加価値機能をプラスしたテクニカルEVAの活用など、従来の枠を超えたアプローチが競争力強化の鍵になるでしょう。

ユーザー本位の設計思想と現場力の融合

最終的に求められるのは、ユーザー(購入者・現場担当者)が直感的に「これならパソコンが守られる」と感じる安心感です。
そのためには、EVA単体の特性分析に留まらず、ケース全体設計の視点や、経年劣化時の安全マージン検討、ユーザー視点での試用フィードバックを最大限に取り込む設計思想が重要です。
業界の枠組みにとらわれず、多様なユーザーニーズを先取りするチャレンジ精神こそが、アナログ業界からデジタル時代の製造現場へと進化するための原動力となります。

まとめ:EVA硬度と圧縮率設計がもたらす製造業現場の進化

ノートパソコンケースにおけるEVA硬度と圧縮率の設計は、単に数値の最適化という枠を超え、利用者の安全や企業の信頼を守るコア技術になっています。
日本の製造業は昭和的勘と経験の蓄積を基盤にしつつ、グローバル競争を勝ち抜くためには、数値根拠と現場知見の融合、新たな価値創造のためのラテラルシンキングが求められています。

バイヤーを志す方、サプライヤーの立場からバイヤーの考えを知りたい方へ。
EVA素材をとことん突き詰め、付加価値と安心を追求した物件づくり・購買提案へ、ぜひ一歩踏み込んでみてください。
現場の知恵と理論が交差した先に、これまでにない「本当の安心と差別化された品質」が実現するはずです。

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