投稿日:2025年11月18日

トレーニングTシャツの乾燥で吸汗機能を維持するための局所硬化温度設計

はじめに

トレーニングTシャツやスポーツウェアといった吸汗速乾機能を持つアパレル製品は、現代のアクティブ層にとって不可欠なアイテムです。

一方で、これらの高機能素材を工場で大量生産する際には、製造工程中の「乾燥」工程が製品の性能に大きな影響を与えることをご存じでしょうか。

特に、合成繊維に施された吸水・拡散加工やコーティングは、繊維自体の持つ特性だけでなく、最終工程の乾燥温度や時間にも大きく左右されます。

本記事では、トレーニングTシャツの吸汗機能を最大限に引き出しつつ、量産品質を安定させるための現場視点での「局所硬化温度設計」の考え方やヒントを、製造業に携わる方、特にバイヤーやサプライヤーの方にも役立つ形で詳しく解説します。

昭和時代から続くアナログな慣習からの脱却を目指しながら、現場で実践できる具体策も提案します。

吸汗機能の本質とその維持が求められる理由

トレーニングTシャツの吸汗機能とは、単純に「汗を吸う」ことではありません。

より重要なのは「汗を素早く肌から引き離し、すばやく拡散・乾燥させる」総合的な機能です。

これらは着用者の快適性やパフォーマンス維持に直結し、ブランド価値やリピート購入にも大きく貢献します。

近年のSDGsや消費者の高機能志向の高まりにより、表面だけでなく商品の「機能品質」自体が重視されるようになりました。

品質管理や検査工程ではこの「機能」が落ちていないかも必ず確認が必要であり、バイヤーとしてもこの点を見極める目線が肝要です。

なぜ「乾燥工程」が重要なのか?

乾燥による化学変化と物理変化

吸汗機能の多くは、繊維に施された親水性高分子・界面活性剤・分散剤などの化学的処理によって成立しています。

しかし、乾燥工程で過剰な熱や時間をかけすぎると、
・コーティング剤の「架橋反応」が進みすぎる
・界面活性剤が熱劣化する
・機能層が収縮・剥離する
などの問題を起こしやすくなります。

一方で、温度が低すぎると、十分な硬化がされず耐久性や洗濯耐性が下がり、市場クレームにつながる危険もあります。

「局所硬化温度設計」とは?

一枚のTシャツや生地を乾燥する際、ライン全体を一律温度で処理するのは旧来の手法です。

最近は、表面/裏面、部位(肩、胴、脇)ごとに最適な温度帯・送風パターンを細かく設計し、「局所的」に最適化する考え方が増えています。

これは自動車部品や電子基板のリフロー工程などの進化をヒントとしたもので、温度と機能品質の微妙なバランスを実現しやすくします。

アナログ業界の課題と現場での工夫

現場に根付いた温度設定の「習慣」

多くのアパレル、加工工場では「去年と同じ」「隣のラインに合わせる」「ベテラン職人の勘」など、属人的で経験則頼みの温度設定が今なお根強く残っています。

これは、過去の原反スペックや機械構造が大きく変わらなかった昭和の時代なら成立していた手法でもあります。

しかし、素材もコーティング剤も年々進化し、在庫調整やサプライチェーンで原材料が流動化する現在、「同じ条件だから同じ出来栄え」という常識は崩れ始めています。

現場の変化をデータで捉える

最近のスマートファクトリー化の波で、乾燥炉一台につき温度センサーや赤外線センサーを複数装備し、部位ごとにログを取る動きが加速しています。

それでも多くの現場は「データは取っても使っていない」「見える化だけ」で止まってしまうことも多いものです。

バイヤーやOEM担当者であれば、サプライヤーが温度ロガーや熱画像カメラを活用しているか確認すると、安定した品質やPDCAの実践力が見えてきます。

最新の実例と現場での着眼点

1. 熱画像カメラによる「焼けムラ」分析

ある海外OEM工場では、Tシャツ全体を赤外線カメラで撮影し、肩や袖の「焼けムラ」をリアルタイムで分析、そのデータをPLC経由で温度コントローラに自動フィードバックするシステムを導入しました。

この仕組みを活かすことで、「脇だけ硬化不足」「胴回りが熱劣化」などのロス品率が激減し、不良削減と歩留まり向上を両立しています。

2. 吸汗機能重点部位の「ソフト硬化」

吸汗機能をもっとも求められる背中や胸部では、硬化温度を敢えて2〜3℃下げ、最低限の耐久性だけ確保する「ソフト硬化」を採用し、肌触りや吸湿残留率が大幅に向上しています。

一方で、縫製部やプリント部は20℃高めの設定でしっかり乾燥することで、全体の物性バランスを取りつつ、最終的な表示試験もクリアしています。

このように局所的な硬化条件をミックス設計することで、従来の「全品一律処理」から数段ランク上のQCD(品質・コスト・納期)バランスを実現できます。

設計・調達・現場管理でのポイント

設計段階での温度帯リストアップ

新規素材や新しいグレードのコーティング剤を採用する際は、
・推奨硬化温度の下限・上限(耐久と吸汗性能のバランス点)
・実際のライン装置での温度分布の確認
・バッチ vs 連続ライン、それぞれでの局所制御可能性
を必須確認事項とすべきです。

調達者やバイヤーは、単なる価格・納期だけでなく「温度対応力」「局所制御履歴」情報も見積もり依頼や技術打合せ段階で要求しましょう。

現場管理でのベストプラクティス

・月次または新ロット投入時の吸汗性能抜取り検査(JIS、ISO法)
・乾燥炉入り口・出口・中央といった3点での温度傾斜ログ取得
・ライン作業者への温度変化シミュレーション教育
・熟練工の判断とAI/デジタル判定の相互補完体制構築
これらの地道な管理が、バイヤー・サプライヤー双方の信頼醸成につながります。

局所硬化温度設計の導入手順と課題

導入のステップ

1. 既存工程の温度・時間プロファイルの「可視化」とロス・不良起因の特定
2. 吸汗機能に寄与する部位や素材の優先付け(背中重視、胸中心など)
3. 部位別に温度・風量・搬送スピード等の実験
4. 相反する評価項目(吸汗性能と耐洗濯強度)のバランス点調査
5. 小ロットでの最適条件パターンの確立
6. 現場作業標準書の更新とサンプル検証
7. 新条件本番移行時の初期トラブルモニタリング

昭和型からの意識改革の壁

最大の障壁は「前例踏襲主義」と「現場の温度合わせ主義」です。

「この温度しか使ってこなかった」という現場の反発をやわらげる最も有効な手段は、「試験データによる数値化」と「自分達でつくる標準化(現場巻き込み型改善会議)」です。

小さな成功例を積み重ねて段階的に導入範囲を広げていく「スモールスタート」型アプローチが現実には成功しやすいです。

サプライヤーとバイヤーが協働で進めるべきこと

サプライヤーの立場で意識すべき視点

・納入先の用途、最終消費者像に即した機能安定化の提案
・「乾燥工程の見直し余地」の積極的な資料化と提示
・カイゼン活動や温度制御トライアル実績の開示
・新たな工程トライ時のリスク共有

バイヤーの立場で押さえるべきポイント

・コスト削減だけでなく、機能性向上施策の要求
・工程変更が最終品質に与える影響予見
・単なる納期管理から一歩踏み込んだ「工程管理力」評価
・長期安定供給体制の構築とトラブル時の原因究明力

まとめ

トレーニングTシャツのような高機能アパレルの吸汗性維持には、素材設計とともに「乾燥工程の細やかな制御」が欠かせません。

昭和型の経験頼みの温度設定から脱し、現場データと最新技術の知見を活かした「局所硬化温度設計」を導入することで、不良率削減・コスト最適化・長期的品質維持を同時に追求できます。

バイヤー・サプライヤーの両者が目的と課題を認識し対話を重ねれば、アナログ業界でも地道なイノベーションは必ず実現可能です。

今こそ現場起点での深いラテラルシンキングと新しい価値創造が、製造業の次の地平線を切り拓く時です。

この記事が現場の皆さまの新たなヒントとなり、製造業の持続的成長に少しでも貢献できれば幸いです。

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