投稿日:2025年11月27日

行政と地域企業が協働で進める“地域内完結型”ものづくりトランスフォーメーション

はじめに ― 製造業の現場から見た「地域内完結型」製造の可能性

日本の製造業は、長きにわたり世界をリードしてきた産業分野の一つです。
しかし、グローバル化、供給網の複雑化、デジタル化の波、そして人材不足といった課題に直面している今、業界は大きな転換期を迎えています。
こうした中、これまで昭和型のアナログな商慣行や縦割り構造が根強く残る業界でも、新たな価値創出の動きが見られ始めました。

その一つが「地域内完結型」ものづくりトランスフォーメーションです。
行政と地域企業が一体となり、原材料調達から生産、出荷、アフターサービスに至るまでを地域で完結させる仕組みが模索されています。
これは単なる地産地消にとどまらず、持続可能な産業基盤の確立や、防災・有事リスクへの備え、雇用創出、地域経済の活性化にもつながる大きな可能性を秘めています。

この記事では、製造業現場視点ならではのリアルな課題認識と、行政・企業の両者がどのように協働すべきか、実践的な観点から深掘りしていきます。

なぜ今、「地域内完結型」ものづくりが注目されるのか

サプライチェーン分断リスクの顕在化

2020年以降、新型コロナウイルス感染症や世界的な物流混乱、地政学リスクの高まりにより、グローバルサプライチェーンが前例のない分断を経験しました。
部品や原材料が海外からなかなか入手できず、現場は新車生産の中止や工場ラインの停止といった未曽有の事態に直面しました。

この教訓から、多くの企業が「地域内で調達・生産・販売までを完結できないか」を真剣に考え始めています。
リスク分散と、変化への柔軟な対応力が、今や“競争優位”そのものとなりつつあります。

地域活性化・人口減少時代への対応

地方を中心に人口減少が進み、企業が存続するためには「地元で稼ぐ仕組み」が不可欠です。
行政側も、企業誘致や雇用創出を狙い、従来の補助金行政から、官民一体の持続可能な産業育成へ舵を切る必要に迫られています。

「地域自給力」の強化は、都市部・地方を問わず産業政策のキーワードとなっています。

カーボンニュートラル・SDGsへの適応

環境負荷低減も不可避のテーマです。
地産地消による輸送エネルギーの削減、自地域で循環する産業資源の活用など、環境面での波及効果にも大きな期待が寄せられています。

行政と地域企業の協働の本質 ― 持続可能な“エコシステム”のデザイン

単発の補助金・事業支援では終わらない基盤づくり

製造業の現場では「焼け石に水」になりがちな単発型の行政支援に課題意識を持つ方が多いのも現実です。
自社工夫やサプライヤー頼みに閉じこもるのではなく、「地域全体でどう共栄していくか」という視点が不可欠です。

その柱となるのが、企業同士、行政と企業が“Win-Win”で共存共栄するエコシステム(産業生態系)の設計です。
例えば次のような要素が必要となります。

  • 地元中小企業・ベンチャーの積極的活用
  • ローカルサプライヤーネットワーク、MES等デジタル基盤の共同開発
  • 人材育成・技術伝承の地域ぐるみの仕組み
  • 行政の産業コーディネーター的な立ち回り
  • オープンファクトリー、県内OEMシェアリングによる設備共用
  • 単なる発注-受注の関係を越え、「助け合い・学び合い」の産業コミュニティを目指すことが、より強靭で持続的な地域製造基盤の構築につながります。

    バイヤー視点で考える現場課題と行政支援のリアリティ

    購買・調達部門の立場から見ると、ローカル調達には品質・コスト・納期・安定供給といった現場目線の厳しい判断軸があります。
    「地元だから応援したい」気持ちの一方で、複数調達先の確保、設備・技術レベルの実証、契約リスクヘッジも欠かせません。

    行政が地域完結化を進める場合、現場バイヤーの「本音」と「需給現場の生々しさ」をきちんと理解し、的確な産業マッチング、信頼関係醸成、技術的な壁への“伴走者”たる支援が求められます。

    昭和から抜け出せない業界習慣と、その突破口

    アナログな商流・付き合い文化の根強さ

    「顔が見えるから安心」「帳票や受発注管理はFAXや紙が当たり前」「失敗を許さない現場主義」といった、昭和型のやり方は今なお多くの工場や調達現場に残っているのが実態です。
    この文化が、新しい地域連携やDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入の大きな壁となっています。

    ラテラルシンキングで突破する新発想

    現場目線のラテラルシンキング(水平思考)が必要です。
    たとえば次のような取組みが考えられます。

  • 「競合同士」だと思っていた近隣企業同士で共同受注体制をつくる
  • 通常は社外秘の“困り事”を地域全体で共有し、技術課題解決に挑む
  • 自治体主導で工場のデジタル化ポータルサイトをつくり、調達・生産のスピードアップ
  • 現場起点の「地域まるごとIoT」構想で、地元高校・大学とも連携
  • 大手企業の「購買プロセス」「生産管理手法」を中小にもノウハウ提供(行政調整役)
  • 要は、古い“壁”を越えて、製造現場同士・企業と行政との「本音の対話」と共創型アクションが出発点になるのです。

    事例で見る ― 地域トランスフォーメーションの実践例

    大手メーカーと地元工場群がつくる「部品共同生産」プロジェクト

    九州某県では、自動車メーカーのサプライヤー層にある中小加工会社が、長年の単価競争に苦しんでいました。
    行政支援のもと、複数社連携での「合同受注・共同生産システム」を構築。
    生産管理や部材調達、品質保証の仕組み作りを共通プラットフォーム化することにより、安定受注と大口案件への対応力が大幅に向上しました。
    大手バイヤーも「地元ネットワークごと信頼できる」新しい調達先として高評価を得ています。

    県内内製化による防災レジリエンス強化と物流コスト削減

    関東地方のある中堅食品メーカーは、BCP(事業継続計画)対応で地元自治体と連携し、原材料調達・パッケージ生産から流通まで県内でほぼ完結させる体制を整備。
    大規模災害時も供給維持でき、コスト削減・CO2削減にも成功し、県内他業種との水平展開が進んでいます。

    今後の地域ものづくり変革 ― 管理職・バイヤー・サプライヤーへのメッセージ

    管理職・現場リーダーに必要なマインドセット

    工場長やライン長であれば、自社の枠を越えた“地域利益”に視野を広げること、「競争」ではなく「共創」が成果を生むという意識改革が求められます。
    生産・調達・品質それぞれの現場課題の“本音”を行政や地域仲間と共有し、地域丸ごとのエコシステム創造に主体的に関わることが重要です。

    バイヤー志望の皆さんへ ― 採用される購買担当になるヒント

    自社の確固たるニーズを見極めつつ、ローカルサプライヤーの可能性や制約を“現場で会って確認”する行動力が強みになります。
    固定観念にとらわれず、「地域ネットワークを自ら構築・拡張する力」は、今後の購買人材の核心的な市場価値になるでしょう。

    サプライヤーの皆さんへ ― バイヤーの目線を学ぶことの重要性

    単なる受注待ちではなく、バイヤーが本当に求めているのは何か、安全・品質・安定供給といった管理面の“裏側”を理解し、相互の課題感を日常的にコミュニケーションしましょう。
    また、デジタル化や技術開発においても、行政支援や連携で初期投資負担を乗り越え、「選ばれるサプライヤー」へ進化する道も広がっています。

    まとめ ― 地域発のものづくりトランスフォーメーションで拓く新時代

    行政と地域企業が本気で協働し、「地域内完結型」の新たなものづくりエコシステムを築く動きは、単なる時流ではなく、これからの日本産業の生存戦略と言えます。
    昭和の枠組みに留まらず、現場発の知恵と協働によって、「突破口」が必ず開けると私は確信しています。

    一人ひとりの現場の経験や思い、そして行政の力を結集することで、製造業の未来はより強く面白くなっていくはずです。
    今こそ行動のときです。

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