投稿日:2025年12月1日

設備起因の不良が誰の責任か曖昧になりがちな組織の闇

はじめに:製造現場に蔓延る「責任の曖昧さ」という課題

製造業の現場において、「製品の不良」が発生したとき、その原因が設備にあると分かった途端に、誰の責任かが曖昧になるケースが数多く見受けられます。

この「責任の所在がはっきりしない」という現象は、昭和の時代から現代令和に至るまで、製造業界全体に根強く残っています。

自動化やDX推進が叫ばれる時代であっても、現場に根差した日本独特の組織文化や、属人的な業務フローが壁となり、「なぜ不良が減らないのか」「なぜ責任のなすり合いが起こるのか」といった問題が解決されていません。

この記事では、設備起因の不良がなぜ誰の責任かわからなくなりがちな現場の闇、その構造的な背景とリアルな事例、そして、具体的な打開策と、購買やバイヤーの立場で考えるべきポイントを実践的に解説します。

設備起因の不良はなぜ「組織の闇」になりやすいのか

古い組織文化がもたらす責任のボヤけ

製造業の多くの現場において、「設備」にまつわる責任はとても複雑です。

不良品が発生した際、その直接原因が機械や治工具であれば、「それは設備保全部門の責任」なのか、「それを使ったオペレーター(生産部門)の責任」なのか、それとも「メンテナンスの指示を出さなかった上長か」など、関係者が多いために、明確な責任範囲が曖昧になる傾向があります。

さらに、多くの工場では「和」を重視する文化が根付いています。

問題発生時の検証は、「みんなで考え、みんなで解決しよう」という雰囲気が優先され、個人や部署ごとの責任が薄まる傾向につながっています。

昭和時代から受け継がれる「あたらずさわらず」の精神が、責任の所在をうやむやにし、再発防止が進まない温床になっているのです。

業務の属人化が不良を『見えなく』する

また、現場では熟練作業者の勘や経験値に頼る運用が根強く残っています。

例えば「この設備は古いから、こうやって温度を微調整しないと焼きが失敗する」といった、データや記録に残らないノウハウが横行しています。

その結果、「誰が、いつ、どんな調整をしたか」という事実が可視化されず、いざ不良が起きた時には「誰が悪いのか」議論が先送りにされてしまいがちです。

この「業務の属人化」と「データ軽視」が、不良原因の追求や再発防止活動を鈍らせ、組織にとって見過ごせないリスクとなっています。

代表的なトラブル事例と責任所在のグレーゾーン

実際によくあるケース

・設備の老朽化による突発的な停止
・メンテナンス不備による規定外の動作
・日常点検(現場)と定期保全(保全部)の狭間
・生産現場の独自調整によるパラメータ逸脱

例えば、ある自動車部品メーカーで、プレス工程中に寸法不良が頻発したケースを挙げてみましょう。

<主な流れ>
1. 現場オペレーターが毎日のように微調整して操業を維持していた
2. 不良多発により調査開始
3. 調査の場で「メンテナンス不足」と「現場の調整ミス」で意見が対立
4. 設備メーカー(外部サプライヤー)も巻き込んで責任の押し付け合い

この時、表向きには再発防止会議や改善報告書がまとめられますが、本質的な「真因追及」や「個別責任の明確化」はなされず、問題がなかったこととして進められがちです。

この繰り返しこそが「組織の闇」です。

原因を見極めるポイント

・現場でのオペレーション記録の有無
・設備管理台帳やメンテナンス記録の整合性
・設備メーカーや保全部門との境界管理(責任分界点)
・事前リスクアセスメントの実施状況
・内部監査や第三者チェックの体制

これらを冷静・客観的に見極め、明文化・ルール化している会社はまだ多くありません。

「なぜ責任転嫁が止まらないのか?」組織構造から探る本当の理由

分業制ゆえの「責任の死角」

日本の製造業は、多くの現場が「生産」「保全」「品質管理」「技術」「購買」など、部門横断型で分業されています。

そのため、設備不良の発生時は、
「現場(生産部門)が日々気を付けていれば…」
「保全部(メンテナンス)がちゃんと保全していれば…」
「技術が設計を工夫していれば…」
「購買がもっと良い設備/サプライヤーを選んでいれば…」
という“見えない矢印”が各部署を行き来します。

「俺の仕事(責任)じゃない」「自分には決定権がなかった」といった納得感のない対応がまかり通り、責任感なき現象対応が繰り返されてしまうのです。

縦割り組織と「責任の分散」メカニズム

また、日本企業特有の縦割り組織では、「問題をトップ(部長・役員)まであげてまで解決するリスクを敢えて取らない」風潮があります。

現場レベルで“丸く治める”ことが優先された結果、責任追及の手が緩み、結局「誰も本気で困らない」構造に落ち着いてしまいます。

そして、その組織構造の穴に潜む形で、不良やトラブルが再発し続けるのです。

改革の糸口:現場にできる5つの実践的アプローチ

1. データ記録の『誰でも分かる化』を進める

点検・保全・品質異常時の調整履歴も含め、全てデジタルで「誰が」「いつ」「何をしたか」を可視化しましょう。

現場で良くある「その都度記入」ではなく、IoTセンサーやバーコード管理などを使い、履歴が自動保存される仕組みが理想です。

また、属人化を排し、誰が見ても「ここがボトルネック、ここが責任分岐点」と分かるような運用ルールを構築することも肝要です。

2. 境界管理と責任範囲の明文化

設備のどの部分までが「保全部」、どこからが「現場(日常点検)」、また「購買・技術・品質」のテリトリーなのか、組織のルール・RACIマトリクス等で可視化しましょう。

また、設備メーカー(サプライヤー)との間で、納入後の責任分界や修理範囲を契約書で明確化することも重要です。

3. 技術だけでなく「現場の声」を活かす意思決定プロセス

現場オペレーターや保全部の意見が、設計・購買・経営層にダイレクトに上がる仕組みをつくることが、不良の本質原因発見に役立ちます。

そのためには、部門横断の問題解決会議の実施や、匿名可の現場提案箱、社内SNSの活用などリアルとデジタルを融合させたボトムアップ運用も効果的です。

4. 定期レビューで「なぁなぁ」を許さない習慣づけ

設備保全・工程改善・品質異常のレビューを、月次・四半期単位で「責任」と紐づけて確認する文化を根付かせましょう。

仮に何も問題がなかった場合も「だからこそ何がうまくいっているのか」を見える化し、次世代へノウハウ継承できる仕組み作りが大切です。

5. サプライヤーとバイヤーの立場別視点を養う

購買・バイヤーとしては「どの範囲まで設備メーカー・外部業者に責任を求めるべきか」を常に具体化し、納入後の連携・費用分担までを想定しておくことが重要です。

逆にサプライヤー側は「現場で起こる運用ミスや点検ルーチンの問題は当社の責任範囲ではない」など、契約時からあらかじめ顧客との認識合わせを進めましょう。

両者が“精神論”でなく、実務として責任分界点を握り合う場面を増やすことで、曖昧さは大幅に減らせます。

バイヤー&サプライヤーのためのチェックリスト(実務編)

設備導入時のチェックポイント

・運用開始後の不良・トラブル解析手法と対応フローの明記
・点検・メンテナンスの分担(ユーザー/メーカー/外注)の明確化
・保証期間満了後のサポート体制・費用分担
・現場担当者への操作/点検教育と教育履歴の残し方
・部品摩耗時の交換役割と緊急時の連絡系統

トラブル発生後の対応フロー

・再発防止会議には関係者全員(購買・保全・現場・品質)が必ず参画する
・問題が複合要因で構成される場合、「責任のグレーゾーン」は合意プロセスで残さない
・原因が完全に特定できない場合も、「暫定対応案+今後の監視体制」を文書化
・外部サプライヤーとの記録やメールも残し、後であやふやにされない証跡を保存

まとめ:組織の闇に向き合う姿勢が未来を変える

製造業の現場で繰り返される「設備起因の不良は誰の責任か分からない」という現象は、組織の構造的な課題に根差した「闇」です。

誰かが声を上げなければ、何も変わらず、業界全体が“昭和のまま”になってしまいます。

しかし、一人一人が日々の記録に残す、責任範囲を明文化する、部門横断的なレビューを行う、責任を持って契約と運用を行う、といった小さなアクションが重なれば、“闇”は必ず薄まり、製造現場全体が進化するきっかけになります。

バイヤーも、サプライヤーも、現場のオペレーターも、「自分ごと化」したうえで、責任の明示化・見える化へ一歩踏み出しましょう。

それが、日本のものづくりの未来を“令和時代”にアップデートする確かな一歩です。

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