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決裁プロセスが遅く設計の手戻り時間が膨れ上がる管理課題

目次
はじめに:製造業が抱える決裁プロセスの遅延という大問題
製造業に従事する方なら、「決裁プロセスが遅い」「設計の手戻りが多すぎる」「社内調整が一向に進まない」といった悩みを一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
この問題は単なる業務手続きの煩雑さにとどまらず、競争力の低下や納期遅延、サプライチェーン全体への悪影響につながる深刻な管理課題です。
筆者は製造現場や調達、品質管理の最前線を20年以上歩んできましたが、昭和時代からアップデートされていない承認フローや、根強く残るアナログ的な社風の中で生じる意思決定の遅延には強い危機感を持っています。
特にDXがこれだけ叫ばれている中でも、管理職が自分事として本質的な改革を進められていない現状があります。
この記事では、現場目線と管理職目線、さらにはサプライヤーやバイヤー視点も交えながら、どうすれば決裁プロセスと設計の手戻りを最小限に抑え、現代の製造業にふさわしい「俊敏な組織」へ変革していけるのか、深く考察します。
なぜ決裁プロセスが遅くなるのか?根本原因の整理
1. 多重承認の文化と“安心・安全志向”
製造業、とくに老舗大手企業の場合、社内決裁は部長、工場長、役員、経営層……と複数の承認を要することが一般的です。
これは万が一のリスクを「全員でカバー」しようという昭和的な相互補完志向の名残です。
また、前例主義や「上が承認したから大丈夫」という心理的安心感も手伝って“多重チェック”が常態化します。
この背景には、「不具合やミスを絶対に出したくない」という、品質本位・リスク回避型の強い組織文化が影響しています。
2. アナログなコミュニケーションと紙の書類文化
いまだに製造業では、重要な決裁・設計変更は紙の書類で回覧され、捺印が必要なケースも少なくありません。
電子申請システムが導入されていても、最終的には上司の机の上で「ハンコ待ち」となる事例もあります。
口頭やFAX、電話でのやりとりが主流のため、担当者が不在で止まる、伝言ゲームで齟齬が生まれる、といった無駄が拡大します。
3. 計画変更や追加要求による“設計の揺り戻し”
プロジェクト進行中に、上層部や顧客からの追加要求、コストダウン指示、品質保証部門からの条件変更などが頻繁に発生します。
その際、最初の段取りが曖昧なほど、設計段階での“やり直し”や“差し戻し”が多発し、時間的ロスが雪だるま式に増えていきます。
これも「一発で決まらない意思決定プロセス」の副作用といえます。
現場・サプライヤー視点で生じるリアルな弊害
1. 手戻りで現場は混乱し、モチベーションも低下
決裁や設計の手戻りが発生すると、現場担当者はその都度手配や帳票、資材調達のやり直しを迫られます。
サプライヤーへの発注も二転三転し、信頼関係の低下や納期遅延の温床となります。
「せっかく苦労して作った資料がまたやり直し…」という精神的負担も大きく、人材の定着率低下やエンゲージメントの低下にも直結します。
2. サプライヤー側のバイヤー不信が生まれる
決裁が遅い、指示が二転三転するバイヤーは、サプライヤーにとって「付き合いづらい顧客」と見なされがちです。
契約遅延や発注リードタイムの長期化、情報不足による品質・コスト面のトラブルリスクが増大します。
また、サプライヤーは常に「先方の承認待ち」で動きが制限され、生産計画や人員配置に無駄が生じやすくなります。
3. 事業全体のスピード競争力が致命的に低下
現代のものづくりは、スピードと柔軟性が勝負です。
決裁の遅さ、設計手戻りの多発は、結果的に納期遅延・コスト上昇といった経営的ダメージへ直結します。
競合がスピーディーに市場投入する中で、自社だけ足踏みしていれば、マーケットの主導権を失う事は避けられません。
【事例紹介】現場経験から学んだ“失敗と成功”
失敗例:旧態依然の決裁フローが招いた納期遅延
ある工場の設備更新プロジェクトでの出来事です。
プロジェクトチームは緊急度の高い新設備導入を企画しましたが、決裁に10人以上の承認を要する複雑なフローが足かせとなりました。
細かな承認手順の不徹底や、人事異動による伝達ミスも重なり、最終的な意思決定までに4ヵ月も要しました。
競合他社は同類の投資を2ヶ月で決着させ納品にこぎつけており、結果として大きなビジネスチャンスを逸してしまいました。
成功例:現場主導型の決裁権委譲でスピード改善
対照的な事例として、ある電気部品メーカーでは現場主導型の“部分的な決裁権委譲”を実践しました。
「一定金額以下の資材調達は工場長までの承認」「設計変更案件の一部はチームリーダー判断で推進」など、明確なガイドラインを定めて決裁権限を下ろしました。
その結果、意思決定までの所要日数が従来の半分以下になり、手戻りや再調整も大幅に減少。
現場の自主性・責任感も高まり、全体の業務効率が大きく向上したのです。
本質的な改善のための戦略的アプローチ
1. 意思決定プロセスの“見える化”とボトルネックの洗い出し
まず着手したいのは、既存の承認フローを詳細に“見える化”することです。
どこで誰が、どのくらい時間を使い、どんなストップ要因があるのかを数値で管理します。
業務フロー図、RPAツール、ワークフローシステムのログ分析などを活用し、ボトルネックとなっている部署・個人・手続き的な無駄を掘り出すことが重要です。
2. 決裁権限の適切な分散とルール化
「安全・品質最優先」でありながらも、全てをトップダウンで決める必要はありません。
購買や設計変更の金額・内容に応じて、誰までの承認で十分か、現場主導判断に委ねても問題ない領域はどこかを明確に定義します。
その際、「事故が起きたら誰が責任を持つか」も事前に可視化し、現場と経営層双方の納得感を強化することが肝要です。
3. デジタル基盤による稟議・設計管理の自動化
電子稟議・ワークフローシステム、設計変更管理用のPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)ツールなどのIT活用は必須です。
決裁プロセスをデジタル化することで、承認待ちのタイムラグを排除し、進捗をリアルタイムで“見える化”できます。
また、設計変更履歴や過去の失敗・知見をナレッジとして蓄積し、次回以降の手戻り削減にも役立てましょう。
4. “現場起点の問題提起と改善活動”の推進
現場担当者・サプライヤーから「なぜ決裁が遅いか」「どの手戻りが現実的に無駄なのか」を積極的に吸い上げ、職場ごとに自律的な改善サイクルを回すことも重要です。
現場目線の“声”なくしては、上層部だけの紙上改革は実効性を持ちません。
QC活動やカイゼンクラスター、職場単位のワンポイント提案活動など、アナログ業界でも取り入れやすい手法を活用しましょう。
バイヤー・サプライヤー両視点で考える“望ましい協業体制”
バイヤー側の心得:サプライヤーに積極的に情報をオープンに
「決裁プロセスが遅くなりやすい」「設計変更のリードタイムが長い」など、社内事情をサプライヤーにすべて隠さず、適切に共有することが信頼関係構築の第一歩です。
また、どのタイミングで何の決裁が必要か、意思決定の基準や社内ガイドラインについても事前に公開することで、無理やり短納期を強いたり、不透明なコミュニケーションで誤解を生むリスクを抑制できます。
サプライヤー側の心得:バイヤーの決裁心理を理解し「提案型」に転換
サプライヤーも「なぜ納期が決められないのか」「なぜ発注が遅れるのか」を一方的に非難せず、バイヤー側の社内意思決定のハードルや文化・位置付けを理解する必要があります。
また、「この承認があればスムーズに進みます」「こういう提案なら一発合格しやすいです」など、手戻りを減らすための具体的な改善アイデアや、先回りしたリスク提案を盛り込んだ姿勢こそ今後の取引拡大への近道です。
まとめ:アナログな現場にも“改革の灯”を届けよう
決裁プロセスの遅延と設計手戻りは、昭和時代そのままのアナログ業界ほど根深い課題ですが、現場発の改革とデジタル活用、そして「バイヤー&サプライヤー双方の歩み寄り」で着実に変革が可能です。
経営陣から現場担当者、サプライヤー各社まで、“自社の意思決定構造そのものを疑うラテラルシンキング”を持ち込み、今日からひとつひとつのプロセスを磨き上げていきましょう。
この記事が、現場で汗をかく全ての製造業関係者へ、新たな気づきと“行動への第一歩”となれば幸いです。
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