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試作時の“たまたま成功”が量産での地獄を生む設計あるある

目次
試作の「たまたま成功」は量産への落とし穴
製造業に20年以上関わった経験から強く感じるのが、試作段階での「たまたま成功」がそのまま量産に持ち込まれ、多くの現場で大きな問題を誘発してきた事例の多さです。
昭和から続く現場主義、アナログな進行、経験主義が息づく製造業では、試作の偶然の成功体験が無意識に「再現性」を帯びたものと勘違いされて、そのまま量産ラインに流れることがしばしばあります。
本記事は、バイヤー志望の方、購買・調達担当者、またはサプライヤーの立場でバイヤー思考を理解したい方へ、「たまたま」から生まれる量産時の地獄の構造と、抜け出すヒントを現場目線で解説します。
なぜ“たまたま成功”は起こるのか
試作現場のリアル:求められるスピードと曖昧な責任範囲
多くの製造現場で、試作品は短納期・低コストを絶対条件として求められます。
「まずは現物を見せろ」と現場や営業が動き出すことも珍しくありません。
設計からの熱意や顧客の強い要望も絡み、手作業・手動調整・仮部品の組み合わせでなんとか成立させてしまう。
この時点では「まともに通電した」「動いた」「外観が揃った」など、条件が未知数のままの“偶然の成功”が量産の青信号になってしまうことが多いのです。
昭和アナログ体質の弊害
「職人技」「経験則」「みんなそうしている」という現場の空気が、検証や標準化プロセスの軽視につながっていることは否めません。
膨大な熟練者の暗黙知が生産現場を支えているがゆえに、「運よくうまくいった」を再現可能と誤認するリスクが根深く残っています。
サプライヤー・バイヤー関係にひそむ「暗黙の了解」
バイヤー視点では、「とりあえず試作ができたらOK」「後は御社にお任せ」という意識が広まりがちです。
反対に、サプライヤー側も「この程度で通ればラッキー」と油断し、本質的な量産品質への落とし込みが遅れるケースも散見されます。
このような微妙な相互依存が、リスクを先送りしがちな体質として業界に根付いています。
“量産地獄”の典型的なパターンと事例
パターン1:検証しきれていない部品・組立精度
試作では「手作業で何とかなった」微調整も、量産ラインでの自動組立や多台数生産では確実に再現できません。
たとえば、穴位置のずれ、組付けトルクのバラつき、はんだ量の定量化不足などは、1万個生産した途端に歩留り低下や不具合となって現れます。
パターン2:供給条件や部品ロット管理が甘い
試作は試作品部材として特別対応されていた部品も、量産では通常手配品となるため仕様やロット特性が異なることも。
電子部品や樹脂パーツで「ロット替わりによる不良」が発生し、現場で原因究明や再手配の混乱が続出します。
パターン3:作業手順・治具・設備の標準化不十分
「いつものAさんが慣れているから大丈夫」という属人化に頼った試作は、量産現場での技能差・作業者の交替で一気に破綻します。
「治具の精度が出ていない」「設備のばらつきを見越していない」などの脆さが、大量生産で歩留まり・品質問題を加速させます。
現場の“地獄”が及ぼす3つの悪影響
1.コスト爆発と納期遅延
歩留まり低下、不良品対応、リワーク作業の発生によって現場の工数は跳ね上がり、サプライヤー~バイヤー間で責任の押し付け合いも頻発。
納期はどんどん後ろ倒しとなり、結果的に顧客の信頼も大きく損なわれます。
2.現場のモチベーション低下と疲弊
繰り返される不良対応や設計手戻り、再検証作業は、現場・サプライヤー双方の担当者に大きなストレスを与えます。
「上はわかってくれない」「どうせまたやり直し」といった諦めムードが蔓延し、人材流出や離職の要因にもなりかねません。
3.経営的損失とリスク増大
繰り返される不具合は信用問題になり、ひいてはリコール・保証対応、取引停止、損害賠償リスクに直結します。
これが伝統的大手企業だけでなく、中小サプライヤーにとっては致命傷にもなりかねません。
バイヤー・サプライヤーに求められる“ラテラルシンキング”
現象の背後にある「本質的な再現性」に迫れ
単なる確認作業や従来の標準化にとどまらず、現象の因果関係を深掘りして設計・製造プロセスを疑い直すことが必要です。
「なぜこの方法でしか成功しなかったのか」「偶然に頼っていないか」と問い、手戻りありきで“ずらし”や“応用解”にチャレンジする習慣を根付かせましょう。
クロスファンクショナルで試作から量産の一貫管理を
開発、設計、調達、製造、品質管理…部門横断の視点による量産性レビューが不可欠です。
バイヤーだけでも、設計だけでもなく、サプライヤーとの三位一体の検証プロジェクト方式など、従来の「タテ割り」を超えた仕組みが成功率を大きく高めます。
アナログ現場とデジタル技術の融合を目指せ
昭和式の現場勘を否定する必要はありませんが、それをIoT、AI、ビッグデータ解析と組み合わせて“作業の見える化”や“自動品質管理”へつなげていくことが重要です。
「なぜ、このベテランだけがうまくいったのか」をデータで可視化し、全員の標準スキルへ落とし込むことで、“たまたま”を意図的な成功体験に変えましょう。
サプライヤーとバイヤーが今すぐできる3つのアクション
1.試作段階から量産シミュレーションを徹底する
試作はゴールではなく、量産品質の“入り口”です。
必ず「量産条件」「標準設備」「汎用治具」「通常ロット部品」での再検証フェーズを設けましょう。
「この工程、この仕様で1,000台作ったらどうなるか」を想像し、PPAPや量産トライアルなど段階的な承認プロセスを徹底してください。
2.“悪い情報ほど早く共有”の企業文化推進
「隠す」「ごまかす」「後回し」の三重苦を断ち切り、不具合や潜在リスクはすぐに両者で共有し合う信頼関係が必須です。
隠蔽や見て見ぬふりによる損失がどれほど大きいかを、実例も交えて全社で啓発しましょう。
3.標準化マニュアル×現場フィードバックを強化する
現場のリアルな声に基づいて、マニュアルや手順書を日々アップデートする「フィードバック・ループ」を設けてください。
サプライヤー、現場作業者、開発担当者すべてが意見を出し合うことで、属人化・形骸化を防ぎ、“再現性ある成功”へと進化させましょう。
まとめ:本質を問う現場目線が未来の製造業を救う
製造業はいまだにアナログな文化も色濃く、現場主義の強い業界です。
しかし、昭和のやり方や「たまたまうまくいった」の偶然に頼りきる時代は終わりを迎えています。
試作から量産までのギャップを見逃さず、ラテラルに、自ら問い直し、クロスファンクショナルで問題解決を図る知恵と工夫が、新時代のモノづくりには不可欠です。
バイヤーもサプライヤーも、「試作でできた=量産も成功」は幻想であると再認識し、念入りな検証・標準化・情報共有によって“量産地獄”を未然に防ぎましょう。
その積み重ねが、これからの製造業の健全な発展と、現場で働く皆さんの喜びにつながるはずです。
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