投稿日:2025年12月10日

仕様策定段階での“認識の齟齬”が後半に爆発する典型例

はじめに:現場で多発する“認識の齟齬”とは何か

現場で長年、調達購買や生産管理を担当してきた身として、仕様策定段階での“認識の齟齬”が後々どれほど大きな問題となって跳ね返ってくるかを痛感しています。

本記事では、昭和時代から続くアナログなやり取りや、暗黙知に頼った現場慣習によって生じがちな認識のズレが、プロジェクトの最終局面で“爆発”するまでの典型例と、その予防策について現場目線で深く掘り下げます。

これから調達担当やバイヤーとしてキャリアを積みたい方、サプライヤー側で顧客とより良い関係構築を目指す方にも役立つ“失敗しない仕様策定”の具体的なヒントを、実例とともに解説します。

なぜ“仕様策定段階”で認識の齟齬が起きるのか

あいまい表現と慣習主義の落とし穴

多くの製造現場では、仕様の決定過程において「あとはよろしく」「例年通りで」といったあいまいなコミュニケーションが根強く残っています。

特に設計~生産に至る流れで「暗黙の了解」や「いつもの感じ」で進めてしまうことで、各担当者の頭の中にできあがるイメージが実はバラバラという事態が生まれやすくなります。

昔からのやり方や、その場しのぎの補足説明に頼った結果、正式なドキュメントには落とし込まれていない仕様要求がメンバーごとに異なる形で伝わるのが頻発しているのです。

コミュニケーションの“すれ違い”と人的リソース

忙しい現場では、全体最適よりも「自分のタスクを早く手離れさせたい」意識が働き、意思決定が早急・短絡的になる傾向があります。

さらに、調達・設計・品質保証・現場実作業者などの部門間連携が十分に取れていない場合、専門用語や仕様要求の認識に微妙なズレが生じやすくなります。

このズレの積み重ねが、後々大きな手戻りや品質問題を引き起こす火種となります。

仕様の“ズレ”が爆発するのはいつか──典型的な末路

検収段階で明らかになる“思い違い”

最も多いパターンは、部品や完成品が納品される“検収”の段階です。

例えば「耐熱性が必要」とだけ指示していた場合、設計者は“100℃”を想定し、加工業者は“70℃”で十分だと理解していたらどうなるでしょうか。

出来上がった製品を現場で使って初めて、加熱工程で想定外の不具合が発生し、「なぜ確認しなかったのか」「最初に言ったはずだ」と責任のなすりつけ合いが始まります。

量産初期段階や顧客納入後の“手戻り”リスク

生産工程そのものが動き出し、部品がラインに乗ってから“この形状では治具に入らない”“バリが想定より多くて後工程で不良になる”といった工程間で仕様ズレが顕在化しがちです。

また、最悪の場合はエンドユーザーへ納品後にクレームとして初めて発覚し、大量の手直し=リワーク・回収・再納入コストが事業の継続性に大きく影響する事態となります。

これらはすべて、初期段階での“わずかな認識のずれ”がそのまま累積し、大きな損失となって爆発する典型例です。

なぜ認識のギャップが埋まらないのか──昭和的アナログ業界の背景

属人的ノウハウと口頭伝承文化

日本の製造業は、長らく“現場のベテラン”を中心とした属人的ノウハウで回ってきました。

「〇〇さんに聞けば何でもわかる」「経験と勘があるから大丈夫」といった風潮が、文書化・見える化を妨げる要因となり、若手や新規メンバーへの正確な伝達が難しくなっています。

この悪習が仕様認識のすり合わせを疎かにし、“製品ごとのクセ”“ローカルルール”に頼った対応を生み、それが積み重なって齟齬・トラブルを増幅させます。

“言わなくても分かる”という呪縛

日本人特有の“以心伝心”文化、空気を読むことを重視する風土も一因です。

「わざわざ指示しなくても当然分かるだろう」「こういう時は普通こうするものだ」といった価値観が、仕様の明示的なすり合わせを妨げてしまいます。

これが新規参入メーカーやグローバルサプライヤーとの連携時に重大な壁となり、生産トラブルや品質不良の温床となります。

再発防止のために現場でできること:具体的ノウハウ

要件定義から“見える化”を徹底する

まず最も重要なのは、“どの温度までの耐性が必要か”“バリは〇㎜以下とする”など、口頭ベースの抽象表現を極力排除し、スペックシートや要求仕様書として明記・共有することです。

ExcelやPDFでの管理ではなく、現場では“いかに実用的に”“常に最新版を即座に見返せる”仕組み(工程掲示板、デジタルドキュメント、現物サンプルの見える化など)を導入することが有効です。

要求レベルごとの“合意形成”を重視する

各部門(設計・調達・品証・生産・外注先)ごとに、仕様の優先度や妥協点について事前に徹底したレビューを行うこと。

その上で「ここまでが必須、ここからは相談可能」と境界線を引いておけば“思い込み”による行き違いを最小限にできます。

会議録や確認サインを必ず残すことで、後からの“言った・言わない”問題を未然に防ぎましょう。

“なぜ必要なのか”の背景も共有する

単に「バリがNG」ではなく、「後工程での自動組立ロボットが検知エラーを発生するため」など、要求の背景まで説明しておくことが重要です。

サプライヤーや協力工場の担当者が“なぜこの仕様が大事なのか”を知ることで、単なる作業指示ではなく、製品品質意識の共有につながります。

これが合意形成の質を高め、より強い信頼ベースとなりトラブル削減につながります。

バイヤー・サプライヤー両方が知っておきたい“現場目線”の視点

調達側(バイヤー)が意識すべき点

・要求仕様の優先順位、コスト・納期・品質のトレードオフを明記して伝える
・“図面に書き切れない要求事項”を必ず書面や打合せで補足し、誤解がないか確認を徹底する
・サプライヤーの現場に足を運び、担当者の理解度や作業環境を自分の目で確かめる

サプライヤー側が意識すべき点

・要求仕様が“本当に理解できているか”内省する習慣を持つ
・分からない点や不明瞭な指示があれば、遠慮せず質問・確認する
・要求背景や全体工程を意識して、付加価値提案(VE提案など)に積極的に取り組む

“認識の齟齬”から脱却するためのラテラルシンキング

現場の「今までこうだった」「みんな分かっているだろう」を疑い、徹底的に“なぜ?”“他のやり方は?”と掘り下げて考えることが、認識の齟齬防止の第一歩です。

ITツールやDX導入も有効ですが、現場の理解・納得・合意なくして仕組みが形骸化すれば、結局アナログに逆戻りしてしまいます。

大切なのは、技術やシステムに頼るだけでなく「人と人」「部署と部署」「企業と企業」の間で、お互いが同じ絵を見て、同じ目的に向かって進んでいる状態をつくることです。

この“ラテラルシンキング”と“現場重視”のバランスが、アナログ業界から脱却しつつある今、製造業競争力を大きく左右する要素となっています。

まとめ:仕様認識の“爆発”は未然に防げる

仕様策定段階のわずかな認識の齟齬は、後工程や顧客納入後に大きく“爆発”します。

その背景には、アナログな慣習、暗黙知への依存、コミュニケーション不足が根強く残っています。

ですが、“見える化”と“合意形成”、“なぜ”を説明する習慣を徹底することで、大きな損失やトラブルは未然に防げます。

今求められるのは、「このぐらいでいいだろう」「去年と同じで」の思考を捨て、現場でラテラルシンキングを発揮し、誰もが納得できる仕様策定文化を現場に根付かせることです。

本記事が、製造業従事者の方々、バイヤー志望者、サプライヤー担当者にとって、具体的な気づきと実践への一歩になれば幸いです。

You cannot copy content of this page