投稿日:2025年12月14日

市場クレームが設計起因か判断つかず長期調査になる本音

はじめに:終わらない市場クレーム調査の苦悩

製造業において、顧客からの市場クレームは避けては通れません。

しかし、そのクレームが「設計起因かどうか判然としないケース」は、調査や対応が長期化しがちです。

この難題は、単なる業務上の“面倒ごと”にとどまらず、現場の負担増・顧客満足度の低下・改善活動の遅れなど、さまざまな悪影響を引き起こします。

そして実際、昭和の時代から続く「責任の押し付け合い」や、部門間の壁、データ不足といった構造的な課題が存在し、話は一筋縄ではいきません。

ここでは、製造現場で実際に直面した事例や、購買・品質・設計・生産管理の各視点を交えながら、「いかに市場クレームの設計起因を見極めるか」「調査がなぜ長期化しがちなのか」について、深く掘り下げていきます。

現場のリアルな本音とともに、これからの製造業で求められる新たな視点や“突破口”も提示します。

市場クレームのよくある迷宮:なぜ調査が長期化するのか

責任区分が曖昧で泥沼に

市場クレームが入った際、多くの工場では「設計」か「製造」か「購買部品」か「取扱ミス」か、原因を特定せよという指示が下ります。

しかし現実には、明確に切り分けできるケースはむしろ稀です。

特に「微妙な不具合」や「再現性の低い現象」は、検証しても根本原因にたどり着けません。

こうなると、担当者間で責任のなすり合いが発生し、調査が消耗戦になりがちです。

アナログ文化が根強く残る現場

品質データや工程データが十分に蓄積されていない、設備の記録が紙ベースのみという現場も多く、調査資料そのものが手元に揃いません。

経験則や「カン」に頼った原因推定も多く、客観的な説明ができずに調査が停滞します。

昭和の職人文化がいまだ色濃く残っている現場では、データの活用に消極的で、せっかくの過去トラ事例も“人の頭”で消化されています。

部門間の縦割りが根深い

設計、生産、品質、調達、営業…。

それぞれが「自分の守備範囲」を固く守ろうとし、情報共有や協力がスムーズに進みません。

「これはそっちの仕事だろう」と、分かりにくい原因ほどたらい回しになりやすい傾向があります。

この“部門間の壁”こそ、市場クレーム調査の最大の敵です。

設計起因の見極めが難しい背景とは

設計上の許容範囲と現場の“実力”

設計者は図面や仕様書で許容値・保証範囲を定めますが、製造現場は、設備のばらつき、材料ロットの違い、作業の手順差など、必ず“現実的なゆとり”でものを作ります。

国語的には設計図通りのはずでも、市場で出た不具合が「設計の想定不足」なのか「現場の誤差吸収力不足」なのか、シビアな判断が求められます。

このグレーゾーンこそが、市場クレーム調査を難しくさせる本丸です。

サプライヤー側から見る「設計意図」への猜疑心

購買部門、ひいてはサプライヤーの立場から見ると、設計側が本当に現場の実態やユーザー使用環境まで把握して設計できているのか、納得できない部分も多いです。

社外のバイヤーであれば、購買スペックの厳しさに「なぜここまで必要なのか?」と根本から問い直すでしょう。

ですが下請けメーカーやパートナー企業は、大手メーカー設計部門の“常識”に疑問を持ちつつもそのまま部品を納めているのが実情です。

不具合発生時には設計側とサプライヤーとの間で「解釈のギャップ」が生じ、原因特定が遅れる大きな要因となっています。

本音:調査を長引かせる本当の理由

・他部門に責任を持たせたくない防衛本能
・人員・予算不足による「後回し」
・誰もが“面倒ごと回避”に走る
実は調査が長期化する大きな理由の一つに、こうした人間臭い事情も根深く絡んでいることはあまり語られません。

結果として「設計起因かどうかよく分からないまま時間だけが経過していく」という、製造業あるあるの“クレーム調査長期化ループ”が繰り返されています。

クレーム調査を短縮するためのラテラルシンキング:突破口はどこに?

業界動向:データ駆動型ものづくりへの移行

近年はDX・スマートファクトリーの潮流も加わり、IoTやAIを駆使した「現場可視化」「不良傾向のリアルタイム把握」が進みつつあります。

これにより、工程データや材料履歴を一元管理し、クレーム発生時も「設計条件」「現場条件」「納入履歴」「実際の使用環境」を一気通貫で追跡できる仕組みが構築されつつあります。

これまでは“誰が悪いか”の追及ばかりになりがちだった調査も、データ主導型でものごとを「事実ベースで公平」に判断できる時代になってきました。

「設計×現場×バイヤー」クロスファンクショナルチームの力

部門間の壁をぶち壊すためにも、設計・生産・品質・調達(バイヤー)・サプライヤーが一体となって議論するクロスファンクショナルチームが不可欠です。

設計部門単独では気付けない現場のリアル、サプライヤーの知見、逆にバイヤーでも分からない設計意図など、多様な視点が融合してはじめて「本質的な真因」に迫ることができます。

昨今、サプライヤーが設計開発段階から深く関与するコ・デザインや、顧客+設計+生産一体の開発手法が徐々に広がっているのもその表れです。

クレーム対応専門人材の必要性

複雑な不具合調査や原因推定には、現場経験と論理的思考を兼ね備えた「クレーム対応のプロフェッショナル」人材の育成・登用が求められます。

従来の平均的な品質管理担当や設計者だけではどうしても限界があり、複雑なトラブルシュート能力を伸ばす研修や、知見の蓄積・体系化が業界全体の急務となっています。

まとめ:市場クレーム時代の製造業に求められる新しい目線

現場で起きる市場クレームの調査とその長期化。

そこには単なる業務ノウハウでは解決できない、業界の根深い文化や体制的な限界、多様な部門間の“不信”が横たわっています。

これからの時代、製造業がさらなる信頼を勝ち取り、高い競争力を維持するためには、
・データドリブンな全社一丸の“事実共有”
・クロスファンクショナルな立体的議論
・バイヤーやサプライヤーも巻き込んだ価値共創
・クレーム対応の専門人材育成
これらの新しい視点と体制が不可欠です。

「責任のなすり合い文化」から「真の根本解決を目指す協働文化」へ。

昭和的なアナログ現場で悩む皆さんにこそ、ラテラルシンキングの力で一歩踏み出し、新たな地平線をともに切り拓くことを強くおすすめします。

この現場発の本音が、現代製造業のさらなる進化のヒントになれば幸いです。

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