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設計が気軽に追加する“簡単な加工”が現場で一番厄介な工程になる瞬間

目次
はじめに:設計の意図と現場の現実のギャップ
製造業の現場では、設計部門が“ちょっとした工夫”のつもりで加えた追加加工や仕様変更が、実際の生産現場では想像以上の困難を生んでしまうことがしばしばあります。
設計担当者は「このくらい、現場なら簡単にやれるはず」と思いがちですが、長年現場サイドの管理職や調達業務を担当してきた経験から言えば、“簡単な加工”ほど現場の生産性や品質に大きな影響を及ぼしかねません。
本記事では、「なぜ設計が気軽に追加した工程が、現場の悩みの種になるのか」を実体験を交えて解説します。
そして、設計と現場の間に横たわる断絶を埋めるためのヒントや、現場改革のヒントまで深掘りします。
設計者から見た「簡単な加工」とは何か
設計者の心理:差別化・品質向上・コスト意識
設計者は、お客様の要望や自社の差別化、または品質向上のために新たな仕様や図面の修正を求められることが多いです。
現場を直接見ていない場合や経験が浅い場合、「機械加工で数ミリ削るだけ」「ボルトの穴位置を少し変えるだけ」「溶接を追加するだけ」「仕上げ工程にひと手間加えるだけ」という発想になります。
彼らからすれば、それは“わざわざ工程表に明記するほどではない工程”として軽視されがちです。
設計図面に現れる「簡単な加工」例
例えば、次のような指示をよく見かけます。
- 既存構造に追加の穴あけ
- 板金部品のR取り(角を丸くする)
- 既成規格から1mmだけ違う寸法指示
- 「仕上がり面」への過剰な要求
- 現場作業で調整を前提とした曖昧な寸法指示
一見、簡単そうに見えるこれらの加工が、実は図面の裏で多大なコスト・負荷・品質リスクをはらんでいることは、設計現場の外にいると気付きにくいものです。
現場で起こる“簡単な加工”の落とし穴
なぜ現場は「簡単」と受け止めないのか
現場の生産工程では、多くのスタッフが標準手順に則り、生産性・安全性を最優先しています。
そこへ「イレギュラーな加工」がほんの1工程入るだけで、作業の流れが止まり、品質リスクや検査負荷、段取り替えコストが一気に上昇します。
また、追加工程によっては、機械のプログラム修正や専用治具の新規製作、作業員への追加教育まで必要になる場合があります。
これらは全て“追加費用”として跳ね返ってくるのです。
例1:追加穴あけ指示がもたらす生産効率の低下
例えば、「通常4つ穴のところを、5つめの穴を追加する」だけでも、ドリルチャックの段取り替えや作業員の手順見直し、新たな検査工程が発生します。
生産ライン全体のタクトタイムが伸び、他の作業者のペース配分にも影響を及ぼすことが多々あります。
更に、手作業への依存度が高い現場ほど、追加の「気付き」「注意」が必要になり、ヒューマンエラーの温床となります。
例2:仕上げに「角R指定」を加えた場合の現場負担
板金加工でよくある「R面取り(角を丸く)」についても、設計者は「安全のため必要」「部品同士の干渉防止」と考えますが、現場では全自動でできない非定形の工程となり、熟練者の手作業と品質チェックが不可避です。
また、ロット全数が均等な仕上がりにならず、ばらつきやクレームの要因になりやすいポイントです。
例3:規格外寸法指示による外注先の混乱
JISやISOといった規格にない寸法や仕上げ指示が加わると、現場は都度、材料調達部門や外注パートナーとの納期調整、特注費用の交渉が必要になります。
自社工場だけでなくサプライヤー、協力工場、協力会社にまで余波が及びます。
結果的に購買価格や納期が不安定になり、全体最適が失われるリスクが高まります。
“簡単な加工”を追加する前に考えるべき視点
現場との十分なコミュニケーションを
現場のベテランオペレーターやサプライヤー、購買担当、品質管理部門と日常的な情報交換を行い、「この仕様追加は本当に必要か」「今の設備で対応できるか」を確認しましょう。
新たな工数が増えることで、本来のQCD(品質・コスト・納期)バランスがどう変化するかを設計段階で想像するクセを持つことが肝心です。
サプライヤー管理で見落としがちな盲点
外注化が進む現代の製造業においては、サプライヤー依存工程や協力会社の負荷を可視化し、過剰な手間・コストが内部で発生しないか定期的に棚卸しを行うべきです。
“簡単だからお願い”は信頼性喪失のトリガーにもなりかねません。
エビデンスやフィードバックを設計部門に還元できる仕組み作りが会社全体の競争力につながります。
工程FMEAで見つかる“隠れたムダ”
工程FMEA(故障モードや影響解析)を現場主導で行い、設計時の追加工程がどの工程にどんな影響をもたらすかのリスク評価を事前にすることで、重大な工程間トラブルやクレームを未然に防ぎやすくなります。
“簡単な加工ほどプロセスリスクが潜む”という意識は、ものづくり現場の新常識です。
昭和から抜け出せないアナログ業界の実情
現場主義 vs. 設計主義の根深い対立
製造業とりわけ“町工場”的な気質が残る企業ほど、「現場が合わせるものだ」という風潮が根強く残っています。
設計は“理想”を描き、現場は“現実”と向き合っているのです。
アナログな手法に慣れ親しんだ組織では、図面変更や追加の要求も口頭やメモ、ホワイトボードでの掲示が残されています。
この非IT化されたコミュニケーションが“簡単な加工”の本当の重さを見えにくくさせ、累積的な負担を増やしています。
設計・現場・購買の三位一体改革の必要性
DXが叫ばれる時代、設計工程・現場工程・購買(サプライチェーン)を部門間でしっかり連携し、「設計で加えた10分の作業が、現場では1時間、その後工程で2時間のロス」という全体最適の視点を持つことが重要です。
そこにはITだけでない、「現場をよく知る人材の目」「ベテランの暗黙知」が大きく効いてきます。
サプライヤー目線から見る“簡単な加工”のインパクト
バイヤーの立場で見る受注リスクと価格決定
サプライヤーや外注工場からみれば、“たかが一工程”でも工数・材料・管理コストの増加は利益や納期遵守に直結します。
本音では、こうした追加加工を求められる案件はリスクが高く、価格に転嫁するか、場合によっては受注拒否につながるケースもあります。
バイヤー自身が加工現場や営業現場の実態を理解し、「なぜサプライヤーが渋るのか」「なぜ単価が急上昇するのか」を深く知る努力が必要です。
設計者との対話の工夫:バイヤーにできる支援
バイヤーとしては、「設計から出てきた仕様をただ外注する」のではなく、社内の現場・外注先の双方と密に連携し、「本当に必要な加工かの見直し」や「他の加工法の提案」まで関わることが、今後のサプライチェーン強靭化の一歩となります。
担当窓口として現場・設計の双方の思いをつなぎ、全体最適の視点で折衝する力が求められています。
まとめ:設計も現場も“現実の重さ”を知ることが第一歩
「設計が気軽に追加する“簡単な加工”が現場で一番厄介な工程になる」――
これは、現場オペレーターやバイヤーなら誰もが一度は経験する現実です。
本当に“簡単”かどうかを誰もが判断できる組織文化、
現場で起こった失敗や苦労を設計にフィードバックする仕組み、
QCD(品質・コスト・納期)を横断的に見通す力――
製造業がアナログ意識にとどまり続けることへの警鐘として、設計部門にもサプライヤーにも「現場の声」「現場のリアル」をもっと届けるべき時代が来ているのです。
“簡単だから”の一言が現場での大きな損失や効率悪化、事故やクレームのトリガーにもなり得ることを心に留めて、お客様・会社・現場・供給網すべてがハッピーになるものづくりへ――
そのために、現場を知る者こそが設計・購買・品質の架け橋役となり、ラテラルに現場改革の新地平を切り拓いていきましょう。
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