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“前回と同じで”が一番危険な調達依頼になる理由

目次
はじめに:「前回と同じで」という言葉に潜むリスク
「前回と同じでお願いします。」
このフレーズは、製造業の現場や調達購買の現場で、非常によく使われる言い回しです。
一見すると、実績があり安全な選択肢に思えますし、業務効率を優先しているようにも見えます。
しかし、この「前回と同じで」という言葉こそが、大きなリスクや見過ごされたコスト、ビジネスの停滞、そして致命的なトラブルの温床になることを理解している方は多くありません。
この記事では、なぜ「前回と同じで」が調達現場で最も危険な言葉の一つなのか。
その理由や業界の背景、失敗事例、そしてこれから製造業バイヤーやサプライヤーを目指す方、さらにはアナログ文化が根強い業界が今こそ意識すべきポイントについて、20年以上の現場経験に基づき、実践的かつラテラルシンキング的視点から深掘りしていきます。
なぜ「前回と同じで」が危険なのか?
1. 無意識のマンネリ化と思考停止の誘発
「前回と同じ」というオーダーは、担当者自身の判断や検証を放棄し、単なる作業として済ませてしまうため、思考停止状態を招きます。
この思考停止が、気づかぬうちに仕様変更や、市場変化への対応遅れの原因となります。
市場や法規、素材の供給状況が常に変動している中、「前回と同じ」を繰り返すだけでは、変化に追随できず、知らず知らずのうちに不適切なスペックや過剰品質、不要なコストを発生させやすくなります。
2. コストダウンやイノベーションのチャンスを逃す
「前回と同じ」は、確かに短期的には最も無難な選択です。
しかし、この判断を繰り返すことで、現状維持以上の発展は見込めません。
たとえば、資材や部品の価格が下がっていたり、新たなサプライヤーがより効率的な提供方法を持っていた場合でも、「同じメーカー、同じ仕様、同じ条件」にこだわることで、値下げや改善提案の機会を自ら捨ててしまいます。
現場でよくあるのが、「10年前から仕様を変えていない」「定期的な見直しをしない」というケースです。
このような現状維持バイアスが、イノベーションやコスト競争力強化の最大の障壁となります。
3. 誤発注や重大トラブルの種になる
調達現場で「前回と同じ」と発注しても、前回品の情報が古かったり、サプライヤー側で構成が変更されていたり、担当前任者と認識が違っていたりすることも。
特に、紙の伝票や電話・FAXなどアナログ業務が残る現場では、引き継ぎミスや確認漏れの温床となります。
たとえば、材料のロット変更やマイナーチェンジ、型番変更などが発注側に充分伝わっていないまま「前回と同じ」でオーダーした場合、「届いたものが違う」「性能が満たせない」「生産がストップする」など、現場に大きな混乱を招くリスクがあります。
4. サプライヤーとの信頼関係悪化を招く
「前回と同じで」とオーダーした場合、サプライヤー側では発注仕様を自動的に踏襲することがほとんど。
しかし、何らかの変更や問題点が現場に起きていた場合、「どうして確認しなかったのか」「なぜ提案しなかったのか」と、いざという時に責任の所在が曖昧になる事例も少なくありません。
この積み重ねが、双方の信頼関係低下や、「うちとよそは違う」といった形だけの付き合いにつながりやすく、成長戦略の障害となります。
なぜここまで「前回と同じで」が現場文化として残るのか
昭和から続くアナログ体質と上意下達の弊害
日本の製造業、とりわけ老舗の大手や中小企業で、アナログな伝票、口頭ベースの指示、ベテラン職人による暗黙知の共有など、いまだに「効率よりも安心感」を重視する文化が色濃く残っています。
この中で、「前例踏襲」や「波風立てず無難にやる」ことが”美徳”とされてきた背景があります。
組織内で「なぜこの仕様なのか」「これは最適なのか」を検証する文化が根付いていないからこそ、「前回と同じで」が当たり前になりがちです。
現場負荷の軽減や、責任回避の心理
膨大な日々の業務量や、”納期優先”、”減点主義”の社風が浸透するなか、担当者は「前回と同じで」とすることで、ミスを防ぎ工程を減らそうとする傾向にあります。
また、失敗した際の責任回避や、「おかしなことをしていない、過去と同じだから大丈夫」という心理も強く働きます。
DX推進の難航と属人化の弊害
デジタル化が遅れている工場や調達現場では、引き継ぎやルール化が不十分であり、人が代われば情報共有の抜け漏れが常態化しています。
人事異動・退職時に「前回の発注書を見ておいて」で済ませてしまうなど、属人化の悪循環を招いているのも事実です。
「前回と同じで」を脱却する現場思考——バイヤー・サプライヤーの立場から
システム化は万能ではない——現場目線のダブルチェック体制を
まず第一歩は、発注仕様や調達根拠のダブルチェック文化を根付かせることです。
どんなにシステムを導入しても、現場担当やバイヤーが”なぜその仕様なのか、今本当に最適なのか”を考える習慣がなければ無意味です。
具体的には、「前回品のスペックを見直す」「コスト比較をする」「小さな仕様変更も記録し、引き継ぐ」などの運用ルールを現場主導で作りましょう。
サプライヤーと一体になった現場改善サイクルの構築
サプライヤー側も、「前回と同じ」に合わせただけでは価値は発揮できません。
むしろ、バイヤーの言葉を鵜呑みにせず、「御社の最新ニーズはこれでよいか」「業界内でこうした改善事例がある」といった提案型コミュニケーションが信頼に繋がります。
調達購買・バイヤー側も、「コストダウンや新規提案がどんどん出てくる文化」を作ることで、”毎度同じが一番安全”という発想から脱却できます。
定期的な棚卸し・見直しの仕組み化
規模の大きな企業や現場では、「年に1~2回は購買品目を棚卸しし、仕様・単価・サプライヤーを総点検する」といった運用を必ず組み込むことが重要です。
これにより、外部環境や法規制、市場トレンドに対応しやすくなり、トラブル予防・助成金や補助金獲得のチャンスにも繋がります。
人材育成と属人化脱却に向けた教育投資
『この発注は本当にいまのベストか?』と自問できる人材を育てることが、今後のものづくり現場で最も重要になっていくでしょう。
固定観念や「忙しいから思考停止」がはびこる現場にこそ、”なぜ?”の思考と情報共有を仕組みとして根付かせる教育が必要です。
また、マニュアルやナレッジ蓄積、システムによる履歴化などで属人化リスクを下げましょう。
失敗事例から学ぶ——「前回と同じ」が招いた実際のトラブル
仕様変更の伝達ミスで全数不良——大手部品メーカーの事例
ある大手部品メーカーでは、「前回と同じ」で毎月何万個もの部品を定期発注していました。
しかし、材料サイドでEU規制対応のためロット構成が微妙に変わっていたにもかかわらず、調達担当が気づかず発注。
納品後、最終工程で全数不良となり、納期遅延と多額の損失が発生しました。
原因は「前回と同じ」の内在的な思考停止と、サプライヤーからの情報共有確認不足によるものでした。
法規制の見落としで、出荷後リコール騒動——中堅加工業の例
とある中堅加工業の現場。
定期発注品について環境規制対応品かどうかの確認を怠り、「前回と同じ」でオーダー。
その後、法改正により新たな規制値が設定されていたにもかかわらず、適合外のまま生産・出荷し、最終的にリコールにつながりました。
現場力が高いとされる会社であっても、「前回と同じで」という簡素なオーダーが大きな危機をもたらす事例です。
まとめ:「変わらないこと」こそ最大のリスクになる時代へ
製造業において「前回と同じで」という簡単なオーダーには、業務効率化・ミス防止の側面と同時に、多くの落とし穴とリスクが潜んでいます。
市場や法規、材料事情、競争環境の変化の激しい今こそ、「現状維持」ではなく、常に”より良く”、”現場主導で考える”文化が重要です。
バイヤーを目指す方やサプライヤーとして一歩踏み込みたい方には、「前回と同じで、本当に大丈夫か?」と当たり前を疑う習慣を持つことが、自らの価値やキャリアを大きく高める第一歩になります。
現場から、一つひとつ「なぜ?」と問い直し、業界の未来を切り拓いていきましょう。
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