投稿日:2025年12月25日

曲げ加工機で使う部材不良の責任が現場に押し付けられる問題

はじめに:製造現場における部材不良の責任問題

製造業の現場では、製品の品質はもちろん、部材や材料の調達、加工、生産管理まで多岐にわたる工程が存在します。

特に、曲げ加工機など装置を用いた部品加工の現場では、「部材不良」の責任が現場に押し付けられる事象が後を絶ちません。

実際、多くの製造現場で「この不良は現場のせいだ」「使い方や管理が悪い」と言われがちですが、それは本質的な課題解決に繋がらないばかりか、現場の士気低下や生産性の悪化にも発展します。

今回は、曲げ加工機を中心とした部材不良の責任問題に焦点を当て、なぜ現場に責任が押し付けられるのか、どうすれば本来の課題解決につなげられるのかを、長年の現場経験を交えながら詳しく解説します。

また、バイヤーやサプライヤーの立場から「製造現場が何を考え、どんな苦労があるか」、さらには業界全体が持つ昭和から続く“責任の押し付け体質”もラテラルシンキングで読み解きます。

曲げ加工機での部材不良とは?

主な部材不良のタイプ

曲げ加工機を活用する現場では、以下のような部材不良が頻発します。

– 曲げた際に割れやクラックが発生
– 仕入部材の表面に傷やサビがあった
– 加工前に寸法誤差や反りが発覚
– 曲げ加工後に規格外れ形状となる
– 材料自体の強度不足や硬さのばらつき

こうした不良は、出荷後のトラブルやクレームにも直結します。

どこで不良は生まれるのか?

工程を大きく区分してみましょう。

1. 調達時点(仕入先からの材料や部材納入時)
2. 入荷検査(品質管理部門が実施する初期検査)
3. 現場工程(曲げ加工・前加工・保管過程)
4. 仕上検査・出荷

一見、曲げ加工機で実際に加工される「現場」が全ての責任を負うように見えますが、実際は、部材そのものの品質」、そして「工程設計や検査フローの抜け漏れ」が影響していることも多く、単純な現場責任とは片付けられません。

なぜ部材不良の責任は現場に押し付けられるのか

原因その1:現場=最終責任という固定観念

昭和時代から続く製造業では、「とにかく現場がすべて解決しろ」という意識が根付いています。

生産工程の最終地点で不良が発覚するため、「現場が管理不十分」「現場の技術が足りない」と短絡的に決めつけられがちです。

しかし、上流(調達や検査)の工程で既に勝負が決している場合も多々あります。

原因その2:組織横断の壁、サイロ化体質

調達部門と製造部門、品質管理部門は、しばしば「自分の範囲だけ」を守る意識が強く、縦割りが激しくなりがちです。

例えば、調達部門が「コスト最優先」で安価な材料を発注、品質管理部門が「規定通りの最小限検査」しかしない中、現場だけが「あれ、加工できない!」と苦しみます。

これは、全体最適よりも部分最適を優先しがちな日本の伝統的な組織力学が影響しています。

原因その3:責任回避(組織的リスクヘッジ)

品質トラブルが発生すると、「自分の部署に責任が及ばないように」と防衛本能的に現場側へ責任を押し付けやすい雰囲気が醸成されます。

「曲げ加工時に不良が出たなら、その場で食い止めろ!」「現場での異常検知が遅い」「ちゃんと管理しろ」など、強い口調で現場責任にされがちです。

これでは根本課題が解決されず、次なる不良が再発します。

現場目線で見た「現実」と「苦労」

加工現場の声:最後の砦ゆえのプレッシャー

現場は「最後の砦」として、あらゆる責任が最終的に押し寄せてきます。

実際には、不良部材を加工した結果トラブルが発覚し、上流工程にさかのぼって根本原因を突き止めても、「現場が気づかなかった」「現場のチェックが甘い」と言われてしまいます。

– 図面通りの材料寸法が保証されていない
– 素材ロットごとに硬さやばらつきが激しい
– 「加工前に発見できたでしょ」と簡単に言われる
– 生産計画的に再調達や再加工の余裕がない

こうした苦労は、現場を経験しないと分かりにくい部分です。

「口だけ品質管理」「コスト絶対主義」の弊害

紙の上だけ、会議の上だけでは「“〇〇工程で管理すれば大丈夫”」という理想論が並びます。

しかし、実際は「調達コスト削減」「納期最優先」の一声で、無理に安い部材が採用され、不良リスクが高まることも現実です。

品質管理も人手不足やベテランの減少、検査項目の形骸化により、現場任せになるケースが増加中です。

業界に根強いアナログ思考がもたらす構造的問題

「昭和型」責任転嫁サイクルからの脱却課題

多くの工場ではいまだに「何かあれば現場」が暗黙の了解になっています。

情報伝達も紙や口頭が中心、トレーサビリティやリアルタイム検知が遅れることで、「駄目だったら下流になんとかしてもらおう」という楽観主義が支配します。

「現場がなんとかしてくれる時代」は終わりつつありますが、業界の習慣はなかなか変わりません。

“擦り付け文化”が新しい技術導入の足かせに

責任の押し付け合いやサイロ化が新技術・デジタル化の導入の大きな障壁となっています。

– AI自動検査やIoTによるデータ管理
– 部材入荷の段階からの品質データ一元化
– 部門横断のリアルタイム不良対策ミーティング

こうした変革提案も、部署ごとの縄張り意識や「前例がない」で頓挫しがちです。

課題の根本解決に向けて:全体最適志向への転換

仕入れ段階からの「見える化」と「協調」

現場への責任押し付けを無くすには、サプライヤー、バイヤー、現場、品質管理が「同じゴール」に向かって連携することが不可欠です。

サプライヤーに対しては単なる「コスト+納期」要求ではなく、材料規格や品質基準、検査証明データのセットを“共通言語”として運用します。

入荷時には現場、品質管理、バイヤーでの立会い検査などを取り入れましょう。

デジタル活用でのトレーサビリティ強化

紙ベースのやり取りから脱却し、部材のロット情報、不良履歴、ロス発生時の詳細情報をサプライヤーとリアルタイム共有できる仕組みを目指します。

これにより、「どこで」「なぜ」不良が生まれたかが明らかになりやすくなります。

現場の「声」と「提案」を経営層へ届ける

現場からの改善提案、不具合発生の現状、繰り返す部材不良のリアルな声を、経営層・調達部門も直接知る機会を設けましょう。

現場発の小さな“気づき”が多くの無駄・損失を減らすカギとなります。

サプライヤー・バイヤーが今知るべき「現場発」の思考

バイヤーが心がけたい「現場共創」型調達

単に価格交渉・納期短縮・数量だけがバイヤーの仕事ではありません。

– 材料特性が加工に適しているか
– サプライヤー品質の安定性
– 部材不良の発生時の迅速な連絡体制・再調達ルール

現場との対話や勉強会への参加、時には現場研修も積極的に取り入れ、実態理解に努めましょう。

サプライヤーが持つべき「現場視点」の提案力

サプライヤー側も、単純な納品だけでなく、

– 材料加工適性(実際にどんな事故が起こっているか)
– 小ロットや試作時の追加検証サポート
– 加工トラブル時の即対応体制

など、「加工現場の困りごと」を予測・提案できることが、これからの選ばれる取引先の条件になります。

まとめ:責任押し付けから“共創”へ

現場に責任を押し付ける昭和型の発想では、真の品質向上も現場の生産性向上も実現できません。

これからの時代は、「失敗の責任追及」ではなく、「部門・組織を超えた共創」「サプライチェーン全体の品質向上」に目を向けることが重要です。

製造業の発展は、一人ひとりの現場の声、バイヤーとサプライヤーの本音の対話、そして組織横断の“ラテラルシンキング”が生み出す、前例なき挑戦から生まれます。

事象の“単純化”や“現場への押し付け”から一歩踏み出し、みなさんも自社、取引先、業界の枠を超えて「良いものづくり」に貢献しましょう。

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