投稿日:2025年10月16日

ペットフードの酸化を防ぐアルミ積層フィルムと充填窒素濃度管理

はじめに:なぜ今、ペットフードの酸化防止が業界課題なのか

近年、ペットフード市場は高品質化、プレミアム化が進み、ペットも「家族の一員」という認識が定着しました。

この背景により、ペットフードの品質保持、特に「酸化防止」は製造工程の重要課題となっています。

昭和的な紙袋包装や単層フィルムの時代から、現代では多層構造のアルミ積層フィルムと、精密な窒素充填がスタンダードとなりつつあります。

本記事では、現場レベルの実践的な知識を共有しつつ、アルミ積層フィルムと充填窒素濃度管理のポイントを深掘りします。

業界が抱える課題や発展の兆しも含め、バイヤー・サプライヤー両方の目線から解説します。

酸化が引き起こす品質劣化と消費者クレームの本質

ペットフードの多くには、肉類や魚油、各種ビタミンが含まれています。

これらが「酸化」することで、以下のような問題が発生します。

主な酸化による品質劣化

・異臭、風味低下(使ってすぐ分かる問題)
・栄養分、特に脂肪酸やビタミンの分解
・色調の変化、見た目の悪化
・ひどい場合はカビの発生や虫の混入の温床にも

消費者クレームでは「袋を開けたら変な匂い」「ペットが食べない」「フードの中に虫がいた」など。

工場としては一発アウトになる事例です。

一方で、従来の紙袋や単層のポリ袋では、これらのリスクを完全に防ぎきれず、かつコストや設備の問題で旧態依然とした包装が残る工場も依然存在します。

特に地方の下請け工場や、昭和から続く老舗の現場では、なぜこの構造から「抜け出せない」のか。

次項でその現状を解説します。

製造業現場のリアル:「酸化しない包装」の昭和的限界点

現場に根付いている課題の本質、それは「コスト」「習慣」「技術スキル」の三つです。

コストと資材選定のジレンマ

アルミ積層フィルムの資材コストは、ナイロンやポリエチレン単層に比べ明らかに高価です。

単に資材費用だけでなく、印刷・製袋・充填設備も新たな投資対象となります。

コンペや相見積もりの際「少しでも安く作ってほしい」「既存ラインを使いたい」という要求がバイヤーから出やすいのも事実です。

このため、なかなか昭和的仕様から脱却できない現場があります。

技術スキルとノウハウの壁

新しい資材・設備を導入しても、現場作業員のスキルや運用マニュアルが追いつかず、一時的にミスやロスが発生するリスクもあります。

例えば、アルミ積層フィルムはヒートシール温度や圧力管理が重要ですが、現場感覚での運用が裏目に出る場合も多いのです。

このあたりの「現場の文化」と資材・工程の変革は密接に関係しています。

アルミ積層フィルムはなぜ酸化防止に強いのか

改めてアルミ積層フィルムの構造について解説します。

アルミ積層フィルムとは、ポリエステルやナイロン等のプラスチックフィルムに、アルミ箔(または蒸着アルミ)をサンドイッチした多層構造です。

酸素・水分バリアの仕組み

この構造が「完全バリア性(酸素・水蒸気を通さない)」を実現し、内容物への酸素供給を極限までシャットアウトします。

アルミ層が剥き出しにならないよう、適切な層構成(外層PET+アルミ+内層PEなど)が選定されます。

ユーザー視点でも重要な機能

賞味期限延長はもちろんですが、開封時のフードの匂い・パリッとした質感を守ることも、リピーター獲得の重要な要素です。

また、紫外線バリア性もあるため、天然素材系フードや無添加商品にアルミフィルムが使われるケースが増えています。

充填窒素濃度管理の実践:現場で何が起きているのか

アルミ積層フィルムだけでは、内部に封入された空気(酸素)が残るリスクがあり、これが酸化の原因になります。

そこで「窒素充填」で内部の酸素を追い出し、ほぼ不活性ガス(窒素)に置き換えます。

理想的な窒素置換の流れ

一般的な充填装置やトレーサビリティを考慮すると、

1.包装材料のセット(環境下での湿度・静電気管理も重要)
2.商品の自動定量充填
3.窒素ガスを流しながら袋内部の空気を物理的に置換
4.窒素充填直後にヒートシールで完全密封

この一連の流れで、袋内部の酸素濃度を0.5%〜3%まで低減させるのが理想です。

現場での検証・管理ポイント

実際には下記のような工程管理が求められます。

・充填機のノズル口径や流量調整
・ラインスピードとのバランス(早すぎると不十分、遅すぎると効率ダウン)
・袋内酸素濃度のサンプリングによる検証
・加熱シール温度 / 圧力 / タイミング(窒素ガス漏れを防止)

これらが現場で出来ていないと、せっかくのアルミ積層フィルムも“宝の持ち腐れ”となります。

サプライヤー視点:バイヤーの“本音と建前”を知る

バイヤーは、常に「コスト・スピード・品質」の三本柱でサプライヤーを評価します。

一方で「なんとなくアルミの方が高級感」というイメージ先行や、「他社がやっているから」という理由で根拠が曖昧な場合も少なくありません。

バイヤーの疑問と現場解決法

・窒素濃度を定期的にサンプル測定できているか?
・アルミ積層フィルムを使う理由が“本当に食品安全リスク対策”になっているか?
・充填機、ピロー包装、“フレキシブルパッケージ”に適した工程か?

こうしたバイヤー目線の疑問に対し、現場のサプライヤーとしては、

・月次、週次の品質保証データを共有可能にする
・トレーサビリティ(原材料・ロット情報・充填日)のデジタル化
・万が一の不良リスクがある場合、その事象発生メカニズムを根拠立てて説明する

このような「根拠ベースの説明・運用」が求められます。

アナログ業界のDX推進と今後の展望

多くの製造業現場、特にペットフード分野では「アナログ文化」「棚卸し台帳手書き」など、未だ昭和の名残が強く残っています。

しかし、

・自動計測器による酸素濃度のリアルタイム監視
・IoT連携で包装工程の不良ロット自動検出
・データベースによる品質分析、異常傾向の可視化

こうした「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の波が押し寄せています。

今後は、アルミ積層フィルムや窒素充填といった「ハード」だけでなく、工程データや検証情報の「ソフト」管理が必須となるでしょう。

現場の技能伝承・チェックリストの自動化、ジョブローテーション時の教育効率化など、まだまだ革新的な余地が残っています。

まとめ:バイヤーもサプライヤーも「根拠×現場力」で差がつく時代

本記事では、ペットフードの酸化を防ぐ現場技術として、アルミ積層フィルム・充填窒素濃度管理の詳細と、業界現場の課題を解説しました。

最先端の技術も、現場できちんと「根拠をもって」「数字と現場力で説明」してこそ、安全・安心なペットフード製造が可能となります。

バイヤーの方も、単なるコストカットや流行ではなく、「なぜそれが必要なのか」を現場の言葉で理解し、納得できるサプライヤー選びが大切です。

サプライヤーサイドも、時代の流れをキャッチアップしつつ、自社の強みや現場ノウハウを根拠とデータで示す体制が不可欠です。

昭和から続く文化を大切にしつつも、新しい技術と考え方を柔軟に取り入れ、持続的な品質革新を目指していきましょう。

これからペットフード製造に関わる全ての方へ、現場の知恵と最新トレンドを活用した“明日のものづくり”のヒントになれば幸いです。

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