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海外取引先の与信調査不足で未回収債権が発生した事例と対応策

目次
はじめに
製造業において、海外取引先とのビジネスは日常茶飯事となっています。
調達のグローバル化が進み、安価で高品質な部品や原料を確保するため、海外サプライヤーと新たな商流を築く場面が増えています。
一方で、与信管理が十分に行われず、未回収債権が発生するリスクも高まっています。
本記事では「海外取引先の与信調査不足で実際に未回収債権が発生した事例」と、そこから学ぶべき実務的な対応策について、製造業現場の視点から解説します。
アナログな業界特有の体質だったり、いまだに口約束や長年の付き合いに頼りがちな商習慣にも触れながら、これからの時代に即した考え方を提案します。
実際に起きた事例:海外顧客との取引で未回収事故が発生
ケース1:支払いサイト延長を繰り返され、気がつけば巨額の債権が未回収に
ある日系メーカーA社は、東南アジア圏の新規顧客と取引を開始しました。
最初は高額の前金決済ですすめていたものの、数回の取引を経て信頼関係が醸成されたと判断し、掛け売り(30日サイト)へと決済条件を緩和しました。
ところが、その後顧客側の財務状況が悪化し、つねに「支払いが遅れる」「あと1ヶ月待ってほしい」と言った要請が続きました。
「海外だからしかたがない」「いずれは支払われるだろう」と高をくくって放置していた結果、1年も経たないうちに未回収債権が数千万円規模に膨らんでしまいました。
最終的に現地法人が倒産し、回収できたのはほんのわずかだったといいます。
ケース2:書類整備が甘く訴訟も難航
また、別の日系バルブメーカーB社では、中東のスモールディーラーとの初取引でトラブルに見舞われました。
発注書や契約書のやりとりをメールだけで済ませており、英語の曖昧なやり取りの中で正式な契約締結に至っていませんでした。
納品後に代金回収が滞り始め、裁判で回収を試みましたが「商品の品質問題」「発注内容の相違」など顧客側の主張も混じり、債権そのものの存在すら争われる結果となってしまいました。
結局、多額の法的コストをかけたものの、1円も回収できずに撤退しました。
なぜ未回収が発生したのか?製造業現場の課題
1. 与信調査の軽視と慣習的な楽観視
あえて厳しい書き方になりますが、昭和から続く日本の製造業現場には「長期的な付き合いを重視して与信管理を後回しにする」文化が根強く残っている現実があります。
国内サプライヤーなら「社長同士の約束」「長年の信頼」という空気が機能しますが、海外では法的背景や採算感覚が大きく異なることも多いです。
特に新規取引や経済構造が不安定な国・地域では、より冷静なリスク管理が不可欠です。
2. 書類不足・契約の曖昧さ
言語や法規制が異なる海外との取引。
つい「とりあえず出荷」「話をまとめてから細かい契約は後で」となりがちですが、これが重大な穴となります。
正式な売買契約や信用状、納品書や検収書といった各種書類の整備が万全でなければ、いざ訴訟や交渉となった時に大きなハンディキャップを背負ってしまいます。
3. チェックプロセスの属人化・情報共有不足
与信調査や債権管理が、現場担当者や決裁権者の”経験則”だけで行われているケースはまだ多く見られます。
海外からの小口注文で「今回だけ」「急いでいるから」と手続きや審査を一部省略する事態も後を絶ちません。
また、国内と海外取引とでチェックプロセスが分断されていたり、営業・購買・財務など異なる部署間で情報共有不足に陥る構造的問題も指摘できます。
未回収リスクを低減する対応策
1. 定量・定性的な与信調査の徹底
まず最も基本となるのが、取引開始前における与信調査の徹底です。
D&B(ダンアンドブラッドストリート)やCREDIT SAFEなどのグローバルな信用調査会社のレポートを必ず取得し、財務内容や過去の不履行事例、経営者の素性など定量・定性的に分析しましょう。
同じ国で既に取引実績のある他社(国内企業)のレビューや危険情報も重要です。
また、現地で第三者を通じたヒアリングや工場監査を行うと、濃い情報が取得できます。
2. 売買契約書(英文・日文)の厳格な整備
トラブル回避の大前提は「正式な書面による契約」です。
契約書には、支払条件・納期・滞納時のペナルティ・不可抗力条項など、漏れなく明記しましょう。
最近ではビジネス英語に加え現地語での副本を交わすことで、訴訟時も有効なエビデンスとなります。
専任の法務担当がいない場合も、ひな形を作り社内で共有・教育しましょう。
3. 支払い条件の厳格化と見直し
初回や小口の取引では、「前金」「信用状(L/C)」など厳しい条件を設定するのが鉄則です。
継続取引でも「掛け売り枠」を上限管理し、支払い遅延が数回続く場合は即座に新規受付を停止するなどのルール徹底が重要です。
近年では電子マネーやオンライン信用調査との連携で、従来よりも与信管理業務が効率化・自動化しやすくなっています。
4. 社内システム・業務プロセスの一元化
決裁プロセスや与信審査のシステム化も、デジタル化が遅れている日本の製造現場にこそ必要です。
ERPや債権管理システムと連動し、営業・購買・経理で統一フローを設けることで、属人化や見落としのリスクが減ります。
また、海外取引に関する危険情報や勉強会の定期実施も、組織としてのリスク感度向上につながります。
5. 法務・会計プロフェッショナルとの連携
契約内容のリーガルチェックや海外与信リスクの洗い出しは、自社内だけでカバーしきれない場合、外部専門家との連携も検討しましょう。
グローバル案件に強い弁護士・会計士・コンサル会社のサポートを活用した事例も増えています。
費用対効果という視点で見れば、数百万円のコストで数千万円、数億円の案件リスクを回避できるケースも珍しくありません。
アナログ業界に根付く「昔ながら」の落とし穴と向き合う
製造業では、今なお「ひな型契約書もなく、メールのやりとりだけ」「口約束で長年の商流を維持」「外国語交渉は担当者の語学力頼み」といった関係性重視の取引が少なくありません。
これは”人情”と”信頼”が機能するプラス面もある反面、いざという時に会社の存続に関わる重大リスクとなります。
とくにバイヤーや購買担当は、納期・コスト重視になればなるほど「現場でとりあえず発注をかける」といった安易な行動に出てしまいます。
しかし、ひとたび未回収事故や損失が発生した時、現場だけでなく経営層や関連部門も多大な影響を受けます。
それを防ぐためにも、取引リスクや与信情報を「透明化」「見える化」し、組織全体で共有・管理する文化を育てていくことが肝要です。
まとめ:グローバル時代の与信管理は組織力で取り組むもの
海外取引先との与信管理は、決して一人の担当者の努力や経験知だけではカバーしきれない広範なテーマです。
重要なのは「現場は本業に集中しつつも、システマティックで再現性の高い与信・債権管理体制を組織全体で敷く」ことです。
昭和時代の現場主義的な発想も大切にしつつ、今後は「グローバル基準」「デジタル活用」「専門家との協働」といった新たな発想を積極的に取り入れることが、未来の製造業を強くする鍵となります。
バイヤーを志す方、海外進出を検討している方、またサプライヤーの立場からバイヤーの考え方・課題を知りたい方にとって、本記事の内容が自社のリスクマネジメント強化へ少しでも役立てば幸いです。
今一度、足元の与信管理体制を棚卸しし、未回収リスクにしっかり備えることが強いモノづくり企業への第一歩です。
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