投稿日:2025年8月30日

陸送時の道路占用許可不足で積替え費用が発生する事例と対策

はじめに:製造業が直面する陸送時の思わぬ落とし穴

製造業では、部品や完成品を工場から各地の拠点や顧客先へ陸送する場面が日常的に発生します。
この物流プロセスの中で、意外と見落とされやすいのが「道路占用許可」に関する対応です。
許可取得が不十分な場合、思いもよらぬ積替え費用やスケジュールの遅延が発生し、コストと信頼の両方を損なうリスクがあります。
昭和的な勘と度胸に頼る現場文化の中でも無視できないリスクですが、今なお多くの現場で繰り返し起きている実例なのです。

本記事では、現場視点に立ち、道路占用許可不足による積替え費用の発生事例と、その具体的な対策、そして今後製造業が取るべき戦略的視点について深掘りしていきます。

道路占用許可とは何か?現場が見落としがちなポイント

道路占用許可とは、公道や国道など特定の道路を一時的、または継続的に使用・占用する場合に管理者(国、都道府県、市区町村等)から取得すべき許可のことです。

たとえば下記のような場合が該当します。

大型・特殊車両の通行や停車

超大型設備や重量物を専用トレーラーで搬送する際、道幅や重量制限をオーバーするケースが多々あります。
その際、単なる通行許可のみならず、積卸しや一時停車場所の道路占用許可が必要となるのです。

クレーン作業等の付随行為

積降ろしに伴い、一時的に歩道や車道の一部を塞ぐ場合なども占用許可が求められます。
しかし、現場判断で「短時間なら大丈夫だろう」と処理しようとする姿勢が後を絶ちません。

許可を軽視するリスク

許可を取得しなかった場合、現場で行政指導を受けて作業中止になることがあります。
また、最悪の場合は輸送先まで運搬できず、途中で物品を一旦積み替えたり、最悪再度許可取得後に再配達となるケースも発生します。

積替え費用が発生した実際の事例

現場目線で、道路占用許可不足によって生じた「積替え費用」発生事例を見てみましょう。

事例1:大型機械の搬送途中でストップ

ある自動車部品メーカーでは、200トンを超えるプレス機を大型トレーラーで陸送していました。
しかし、納入先工場の前面道路が市道で、その一部を占有して積卸し作業をする必要があったにもかかわらず、事前申請漏れにより当日現場で警察の指摘を受けました。
やむなく、最寄りの物流拠点まで急遽機械を戻し仮置き、その後数日かけて正式に道路占用許可を取得し、別途小型車両で分割搬入という対応に。
追加の輸送費・積替え費用・保管費用、さらに納期遅延による顧客クレームという三重苦に陥りました。

事例2:夜間の搬送での予想外の指摘

夜間、騒音対策を理由に昼間の道路使用が厳しいエリアにて、大型発電機を深夜運搬したケースです。
工程遅れを避けるため、積卸しポイントを遠回りして現地入りした結果、役所の見回りで非許可運用が判明。
現場での積降ろし中止、別倉庫での一時置き換え、改めて新ルートの確定、重複する運送手配という負担に巨大な追加コストが発生しました。
本来、事前にルート選定と作業時間の調整、占用許可の取得が有効であったことは明白です。

つまづきやすいアナログ手配の落とし穴

昭和からのやり方が残る現場では、個人の暗黙知や経験値頼みになりがちです。
「去年もやったから大丈夫だよ」という慢心が、自治体ごとの独自ルールや社会状況の変化を見落とし、許可不足へ直結するのです。

積替え費用が企業経営に及ぼす甚大な影響

積替え費用は、単なる「予定外コスト」では終わりません。
実際には企業全体の経営、競争力、ブランドにもダメージを及ぼします。

追加コストによるマージン圧迫

有人作業、運搬車両、納期遵守のための緊急手配など、想定外費用が雪だるま式に膨らみます。
サプライチェーン全体の最適化努力が水泡に帰す原因のひとつです。

納期遅延による顧客信頼低下

機械化・自動化・JIT生産が進む現代では、1日の遅延も顧客にとっては致命的です。
一度のミスで信頼を失い、次回以降の案件受注に悪影響が及ぶことも珍しくありません。

現場の士気低下および無駄な負担増

本来不要な積替えや履歴提出、報告書作成といった「やらなくてよい非効率作業」が現場に降りかかり、現場力をそぐ結果になります。

対策1:道交法、各種条例の正確な把握と教育徹底

まずは何よりも「最新ルールをきちんと理解し続ける」ことが必須です。

各地の許可申請内容の違いに注意

一見簡単に思える道路占用申請ですが、都市部・地方・高速道路・市道・私道など、担当自治体や機関で条件が異なります。
最新の道交法・自治体ごとの細則を継続してアップデートし、現場・調達・物流担当者への教育を怠ってはいけません。

属人的から組織的なナレッジ管理へ

過去の成功体験や個人スキルに依存した対応を廃し、ノウハウを全社で共有、マニュアル化しましょう。
近年では「工程管理」「申請管理」ツールを用い、デジタル上で申請プロセスや必要書類の履歴管理を行う企業も増えています。

対策2:サプライヤー・バイヤー双方の協働による抜け漏れ防止

現場調達担当(バイヤー)は、自社内だけではなく物流会社・サプライヤーとも密に連携することがカギです。

調達担当が担う役割

発注時点で輸送条件・許可取得責任の明確化を徹底します。
特に現場納入物件では、工場周辺や納入経路の道路状況、工事予定なども事前にヒアリング・現地調査するべきです。
契約書や仕様書で「許可取得はどちらが対応するか」を明文化し、曖昧な責任範囲をなくしましょう。

サプライヤー側に求めること

サプライヤーは「現地搬入完了」まで責任を担う意識が必要です。
また、過去類似事例などを活用し、起こり得るトラブル例を事前共有することも大切です。

アナログ文化からの脱却:デジタル活用のススメ

積替え対策のためのDX戦略

近年では、道路占用許可のオンライン申請サービスや、積卸し計画図面自動作成ツールなどが登場しています。
また、配車管理システムによるルート最適化、ドライブレコーダーやGPSログからリスクポイントの可視化も進んでいます。
既存業務フローを見直し、デジタル化でヒューマンエラーと申請漏れを減らす仕組み作りが重要です。

他業界事例から学ぶ

たとえば建設業界では、先行してオンライン許可申請や現場モバイル端末での工程管理を取り入れ、生産性とコンプライアンスを両立しています。
製造業界も「前例がない」で思考停止せず、最適なDXツールを柔軟に採用していかねばなりません。

今、バイヤーやサプライヤーに求められる新しい力とは

現場力×経営視点の養成

「積替え費用発生は現場の単なるミス」と片づけず、トータルサプライチェーンでの価値創造という視点を持つことが大切です。
コスト最小化・納期遵守・顧客満足度向上を現場力と経営の両輪で追求する姿勢が求められています。

ラテラルシンキングで新たな解決策を探る

もしも道路占用許可が容易に取れない場合、「代替ルートの開発」「輸送方法のモジュール化」「共同配送インフラの活用」「工場レイアウト見直し」等、常識に縛られない選択肢も検討しましょう。
既存のやり方を疑い、多面的に解決策を考える姿勢こそ、これからの製造業には不可欠です。

まとめ:積替え損失ゼロを目指す現場改革

陸送時の道路占用許可不足は、今もなお製造業現場で繰り返される「見えにくい損失源」です。
バイヤー、サプライヤー、現場作業者それぞれが責任と危機感を持ち、最新ルールの把握・情報共有・組織力強化・デジタル化の推進へ本気で取り組む必要があります。

昭和の経験知だけに頼らず、現場ナレッジを広く共有し次世代型サプライチェーン管理へ進化することが、これからの製造業の成長に直結していくでしょう。

陸送リスクに強くなり、「積替えで損をしない会社づくり」を、ぜひ皆さまの現場から始めてください。

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