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ラグランTシャツの乾燥で袖縫い目部分の色ムラを防ぐための循環風向設計

目次
はじめに:ラグランTシャツ乾燥の現場課題と時代背景
ラグランTシャツは、動きやすさとデザイン性からスポーツウェアやカジュアルウェアの定番として多くの工場で生産されています。
しかし、縫い目部分、特に袖と身頃の切り替え部において乾燥工程で色ムラ(通称:パイピングムラ、縫い目シミ)が発生しやすいという悩みは、今も多くの現場で根強く残っています。
昭和期から続くアナログ的な乾燥手法では、こういった製品不良が歩留まり低下やクレーム増加、工数増大など多方面に影響を及ぼしてきました。
近年は自動化や生産効率化が叫ばれるものの、乾燥という一見単純に思えるプロセスにも多くの改善余地が隠れています。
この記事では、ラグランTシャツ製造現場の乾燥工程における色ムラ防止のための循環風向設計について、実務経験者ならではの視点と、ラテラルシンキングで導き出した新しい検討ポイントを交え、バイヤー・サプライヤー双方に役立つ形でわかりやすく解説します。
なぜ袖縫い目部分で色ムラが発生するのか
ラグランTシャツ特有の縫い構造と乾燥時の問題点
ラグランTシャツは、通常のセットインスリーブとは異なり、首元から袖口にかけてダイナミックに縫い合わせます。
その縫い目部分は、他の箇所と比べて生地が二重・三重になるため、乾燥時に熱と風の通りづらい“ボトルネック”となりがちです。
その結果、以下のような現象が起きやすくなります。
– 縫い目内部の水分が抜けきらず、表面のみ先に乾燥する。
– 乾きのムラにより、染色した生地では色の濃淡差が発生。
– 内部から残留水分が染料や不純物を外側へ押し出し、輪染みのようになる。
– 高温側、低温側で生地にテンション差が生じ、歪み・しわ・パッカリングが発生。
従来のアナログ乾燥設備(バッチ式乾燥機や静置棚、室内吊り下げなど)では、風の流れや循環に“ムラ”が生じやすく、袖の縫い目部分は最も乾燥不良・色ムラが多発するスポットとなっていました。
循環風向設計による根本対策の考え方
理想の乾燥環境とは何か
衣類の乾燥において理想的なのは、乾燥対象全体に均一に空気が当たり、熱と水分の移動が最適化される状態です。
とくにラグラン袖のような“厚み・構造変化がある部位”では、その場所の風量・風向・温度・湿度を精密にコントロールしなければ、部分的な乾燥遅れ=色ムラの主因となります。
また、急激な乾燥を避け、適度な時間をかけて水分を外部へ徐々に移動させることも、染料ムラ・輪染みを防ぐポイントです。
循環風向設計の現場アプローチ
循環風向設計とは、乾燥機や乾燥棚内で“どのように空気(風)を循環させ、その方向・量をいかにコントロールするのか”というエンジニアリングの考え方です。
以下の要素が重要になります。
– 全体送風:全体を包み込むような「均一な気流」を生むファン・ダクト配置
– 局所フォロー:縫い目部分や厚みがある箇所だけに狙い風を当てるノズル設定
– 温度均一化:高温と低温部ができないよう、空気のミキシング(かくはん)を徹底
– リターンダクト設計:乾燥空気の循環経路開発で“滞留スポット”を撲滅
– エアフロー分析:CFD(流体シミュレーション)による最適風向の抽出
具体的な設備・手段としては次の方法が挙げられます。
– 従来型乾燥機内部に、縦方向(上下)・横方向(左右)にサーキュレーターファンを新設
– 縫い目付近をピンポイントで送風できるルーバーやガイドノズルの増設
– 吊り下げ式の場合、互い違い配置とし袖部が重ならない構造へ変更
– 棚型の場合、上段と下段で温度差・風速差が出ないよう定期的な入替・棚位置調整をマニュアル化
– 小型乾燥機では回転ドラムの速度と風量を変速制御し、均一化を図る
工場のライン設計に落とし込む場合は、単に設備投資するだけでなく、「現場オペレーターと連携したプロトタイプ→検証→微調整」を繰り返すことで、“実際の生産条件下での再現性”が高まります。
具体的な改善事例とその効果
ケース1:棚式ガス乾燥設備の循環改良例
ある国内アパレル工場では、従来型棚式乾燥機を使っていたため、袖縫い目部分の色ムラ率がロットごとに8〜15%ものバラツキがありました。
そこで、下記の改良を実施しました。
– 上下2台の小型循環ファンを棚両側に設置、上下に向けエアフローを循環
– 棚板を「パンチングメタル」素材に変更し、風が生地下部にも流れるよう設計
– 袖縫い目部分の真下方向からも微弱な風を当てる「スポットノズル」追加
この結果、ロットごとの色ムラ発生率が1%未満となり、「工程内手直し回数が月間300着以上削減」「乾燥にかかる時間も約15%短縮」という効果を達成しました。
ケース2:連続バッチ式自動乾燥ラインのCFD活用
大規模工場では、すでに自動搬送乾燥ラインを導入。ここで問題となっていたのが、ライン端・入り口付近での静風域=袖部色ムラです。
そこで、CFD(流体シミュレーション)を導入し、乾燥室内部の気流を可視化。死角部分への風の到達率を予想し、以下の改良を行いました。
– ライン導入部と出口部に可変向きファンを追加設置
– 気流が遮られる構造体の一部をガラスパネル+メッシュ化
– 内部温度と湿度のモニタリングセンサーを増設し自動記録化
これにより、ライン先頭・末端での色ムラ率低減、夜間運転時の乾燥コンディション安定、データドリブンなメンテナンス体制の実現につながりました。
昭和アナログ思考からの脱却とDX導入のコツ
なぜ「いつも通り」では解決しないのか
昭和から続く“モノづくり現場”には、「経験則」や「先輩のやり方」を大切にする文化が根付いています。
もちろんこれらは財産ですが、“乾燥ムラは仕方がない”“多少の色ムラは検品で落とせばよい”という発想のままでは、市場の厳しい品質要求についていけません。
現場力をベースにしつつ、“なぜここで不良が起きるのか?” “風の流れを科学的に分析できないか?”といったラテラルシンキング、すなわち分野横断的な発想が不可欠です。
データ活用と現場主導の現実的DXへの道
多くの場合、「最新設備」「高額な自動化」を即導入するのは現場の反発やコスト的な課題も大きいです。
まずは「自社生産現場での乾燥工程データ」の取得、例えば
– 各部位温度・湿度記録
– 風速/風向/経過時間の記録
– 良品・不良品の写真記録&AIによる画像解析
といった小さなデジタル投資から始め、データと目視情報を合わせて「どこで、なぜ、色ムラが出るのか」を可視化することをおすすめします。
その上で、現場担当者自身もシミュレーションやプロトタイプ設計に関わることで、納得感と実効性のある循環風向設計が実現できます。
まとめ:メーカー・バイヤー・サプライヤー全員に求められる視点
ラグランTシャツの乾燥工程における袖縫い目部分の色ムラは、“シンプルな工程問題”に見えて、その奥には「風の制御」という生産技術の本質と、「現場起点の改善マインド」の両方が潜んでいます。
最新のDXや自動化テクノロジーの導入も大切ですが、最初の一歩は「自分(自社)の現場を科学し、すぐできる循環風向設計の微調整」から始まります。
バイヤー目線では、取引先サプライヤーの工程管理レベルを技術面から評価できるようになると、より高品質な仕入れ先の選定が可能です。
またサプライヤーとしては、「気流解析」「データによるムラ低減」など専門性をアピール材料とし、差別化を図ることもできます。
製造業の現場改善は、常に“産地でのラテラルシンキングとエンジニアリングの融合”が鍵となります。
小さな乾燥不良=大きな会社の収益改善につながるのは、現場の知恵と最新技術、それを結ぶ現場主導の改善カルチャーがあってこそだと感じます。
ラグランTシャツ乾燥工程をきっかけに、今一度“風の流れ”を見直し、現場価値を磨き上げていきましょう。
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