投稿日:2025年12月20日

量産向けに設計段階で配慮すべきポイント

はじめに

ものづくり業界で「設計」と「量産」は切っても切れない関係にあります。
設計段階でのちょっとした配慮や工夫が、量産時の効率化やコストダウン、不良品の発生防止に大きなインパクトをもたらすことは、現場を経験してきた私の実感としても明確です。
しかし、アナログ文化の色濃い製造業では、未だに設計部門と現場が十分に連携しきれていないケースも多く、一歩進んだ「量産設計」が浸透しているとは言い難いのが現実です。

本記事では、量産対応を見据えた設計段階でぜひ意識していただきたい重要ポイントを、実際の現場目線を交えながら解説します。
バイヤーやサプライヤーの方々にも読んでいただきたい内容に仕上げていますので、量産設計の本質にぜひ触れてみてください。

量産設計とは何か? 本質を理解する

量産と一品生産の決定的な違いとは

一品限りの製品と、数百、数千、数万という単位でつくる量産品では、求められる設計思想がまるで異なります。
量産では「繰り返し、安定して、生産できる」ことが最重要ミッションとなります。
設計段階で些細な不備や作り込み不足があると、それが何倍もの不具合やロスになって現場へ返ってきます。

現場に優しい設計が最高のコストダウン

高性能・高機能な設計も魅力ですが、それが量産工場の実情に合っていなければ宝の持ち腐れです。
設計者は量産現場の人・設備・作業プロセスまで視野を広げ、トータルで「つくりやすいモノ」を描くことが、ひいては大きなコスト削減や品質向上につながります。

設計段階で配慮すべき量産向けの要点

1. 工程簡略化とモジュール化を意識する

できるだけシンプルな工程構成で済む設計は、量産現場にとって最高の贈り物です。
パーツの共通化(モジュール化)や複雑な組付け工程の廃止、無理な公差設計の是正など、設計時点できちんとチェックしましょう。
たとえば、ネジの種類やサイズを現場で容易に管理できる数へ統一するだけで、部品供給ミスや無駄な在庫リスクも減らせます。

2. サプライヤーの作りやすさを考慮する

部品単体の設計精度だけではなく、サプライヤーの加工技術・標準設備をよく把握しましょう。
指定した公差や材質、表面処理が本当に現実的かを、毎回工程設計担当やパートナー工場と確認することが大切です。
バイヤー目線でも「無理な仕様」が発注されると、コストが跳ね上がるばかりか、納期リスクや品質リスクも高まります。

3. 標準化・QA観点での“造りやすさ”

徹底した標準化は量産の王道です。
図面や仕様の“あいまいさ”を排除し、100人が見て100人が同じ理解となる状態をつくることで、現場工員の技能差や夜勤・休日要員のバラツキさえ吸収できます。
新製品立上げ時ほど、チェックリストや標準P-FMEA(潜在的故障モード影響解析)などを併用して量産リスクをあぶり出すことが重要です。

4. メンテナンス性・トレーサビリティ設計

不良流出や重大事故を未然に防ぐには、量産後の追跡性(トレーサビリティ)や現場での点検・交換しやすさまで考え抜いた設計が必須です。
将来の部品供給停止リスクや、量産途中での仕様変更・改善が必要になった場合にも、柔軟に対応できるような設計の拡張性も求められます。

昭和的アナログ現場と“ニューノーマル”への移行

現場検証のリアルと「設計の自動化」は両立できるか

近年AIやIoT、DX(デジタルトランスフォーメーション)による製造業変革が進む一方で、昭和から続く“現場主義”や“人の経験値”を重んじる文化が根強くあります。
自動化アイテムや設計CAEが普及しても、実際のラインでの工夫や「ちょっとした現場知恵」を反映できるかどうかは別問題です。
設計と生産の壁を超えるには、デジタルとアナログのいいとこ取りを模索する姿勢が欠かせません。

設計・調達・生産が協奏する組織づくり

部門最適に陥らず、設計、調達・購買、生産現場が早い段階から一体で検討・コミュニケーションを積み重ねることが、結果として失敗や無駄のない量産立上げにつながります。
現場の声を設計に、設計の意図を現場にしっかり届ける「両想いのエンジニアリング」が、これからの工場・バイヤー・サプライヤー共通の課題と言えるでしょう。

実際の現場から学ぶ、生きた教訓

トラブル事例から逆算する設計の落とし穴

私が体験した事例のひとつに、設計段階での“ちょっとした”穴の寸法指定ミスがありました。
このミスが、量産時に数千台もの部品不良を生み、適合する治具もその場で調整が生じ、現場は混乱しました。
設計者の「このくらいなら大丈夫だろう」という感覚と、現場職人の「0.1mmの差が大きなトラブルを呼ぶ」現実とのギャップは、決して看過できません。

バイヤー・サプライヤーとしてのポイント

バイヤーは、設計の“要求”が自社やサプライヤー現場にどんな負荷をかけるかを深く考える必要があります。
一方、サプライヤーは、自社の加工上の難点や能率エリアを正直にフィードバックし、無理な要求仕様とは建設的に交渉するスキルが大切です。
川上・川下での“本音共有”が量産設計には不可欠です。

まとめ ─ 量産設計が製造業の未来を左右する

量産向けの設計とは、単なる図面や仕様づくりを超えた「現場を動かす力」を内包しています。
設計、調達、生産、品質…各部門が壁を越えて、レガシーの良さとDXの新しさを融合させ、すべての工程が納得できる“ものづくり”のバトンをつないでいくことが大事です。

設計は「工場の羅針盤」。
量産設計の本質を理解して現場に優しいものづくりを積み重ねることが、製造業の競争力アップと次世代の躍進につながります。

熟練者も若手も、バイヤーもサプライヤーも、一緒になって“設計の主語”を変えていく時代が、今、始まっています。

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