誤配送が起こる現場の“思い込み”という最大リスク

はじめに：誤配送の裏側に潜む“思い込み”のリスク

製造業の現場において、誤配送は決して他人事ではありません。
スムーズな生産活動を阻害し、顧客からの信頼失墜にも直結するリスクです。
しかし、多くの現場で誤配送の原因が「単純なミス」や「一時的な不注意」として処理されている現状があります。
本記事では、20年以上にわたり調達購買、生産管理、品質管理を経験した視点から、誤配送の真因である“思い込み”がどのように蔓延するのかに迫ります。

特に、昭和から抜け出せないアナログ体質が色濃く残る現場では、思い込みリスクが想像以上に深刻です。
また、今後バイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場からバイヤーの意図を知りたい方にも、日々の業務改善に直結する内容を実践目線で解説します。

誤配送の現場：なぜ“思い込み”がリスクなのか

「思い込み」はなぜ生まれるのか

現場で働く多くの従業員は「自分のやっていることに間違いはない」と考えがちです。
なぜなら、毎日同じ作業を繰り返す中で“慣れ”や“パターン化”が生まれ、変化に気づきづらくなるからです。

例えば伝票の記載内容を目で追う際、
「毎回この工程ではこの部品を使う」という無意識の前提で確認を怠ります。
口頭での指示伝達も「いつも通り」で受け止めてしまうため、ちょっとした仕様変更や納期変更なども見落としやすくなります。

アナログ業界の“お作法”が思い込みを助長する

特に昭和の時代から続くアナログ製造業では、情報伝達の多くが紙ベースや口頭伝達に依存しています。
たとえIT化が進んだとしても、根底にある文化は急激には変わりません。

ベテラン同士による「阿吽の呼吸」、「言わなくても分かっているはず」という暗黙知が支配的になることで、正しい情報が伝わらず誤配送の温床になります。
これが“現場の思い込み”という最大リスクの正体です。

誤配送の実態とよくあるパターン

伝票ミスと現場オペレーションのギャップ

誤配送の多くは、出荷伝票と実際の現物が食い違うことから発生します。
伝票の手書きミス、転記ミス、マスタ登録誤り。
いずれも「この作業はこうあるべき」という思い込みや、“前回上手くいったから今回も同じで大丈夫だろう”という慢心が原因です。

また、ピッキング工程では、“似た形状の製品を選んでしまう”、“ラベルやロット番号だけを見て本質的な内容を確認しない”など、作業者自身が「大丈夫」と判断した瞬間にミスが発生しています。

なぜ見過ごされるのか：現場の空気というバイアス

誤配送が発生した際にも、現場では「なぜ起きたか」を充分に突き詰めません。
「忙しかったから仕方ない」、「たまたま重なったイレギュラーだ」と済まされることが珍しくありません。
要因分析が表層的で止まってしまい、根本となる“思い込み”に切り込めていないのです。

このような空気感を放置している現場では、同じ誤配送が何度も起こります。

誤配送防止の本質は“人とプロセスの思い込み”を断つ仕組み化にある

なぜ“人の注意”だけでは限界があるのか

「しっかり注意してください」
「ミスが無いように確認を徹底しましょう」

よく耳にする言葉ですが、これだけでは誤配送の再発は防げません。
人は必ずミスをします。
注意力だけに依存する仕組みは永続性がありません。

特に、ベテラン作業者ほど“感覚”や“経験”に頼る傾向が強く、マニュアル通りに進める新入社員との認識ギャップが拡大します。
属人化が進むほど思い込みリスクは高まります。

“思い込み”を断つ仕組み化事例

仕組み改善のポイントは「プロセスの見える化」と「強制力のあるチェック機能」にあります。

例えば、
・バーコードやQRコードによるピッキング・出荷管理の徹底
・複数人によるダブルチェック体制、本当に必要な場面だけのペアチェック
・出荷前の「現物」と「伝票」を第三者がクロスチェックする工程の設置
・作業指示の電子化、変更情報の瞬時共有
・現場ごとの“言い訳リスト”に基づくリスクパターンへの先回り
などの対策です。

「自分は間違えるはずがない」「いつもと同じだから大丈夫」に立ち向かう仕組みがあれば、思い込みによる誤配送を大幅に低減できます。